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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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「不思議な病気」梅毒…予防と治療について

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 今日は、梅毒の話題です。梅毒は、 僕の前々回のコラム にも登場し、次のように記載しました。時代劇のドラマや映画を見ていて、明らかに当時と異なることが3つあるそうで、それは既婚の女性がお歯黒をしていること、道路にウマの (ふん) などが散乱して極めて衛生状態が悪いこと、梅毒の患者が多く鼻が欠けている人々が普通に生活していたことだそうです。確かに杉田玄白は「治療する患者の1000人のうち、700人は梅毒である」と記しています。その梅毒が最近、増加傾向にあります。

ほとんど分かっていないことも…

 梅毒はトレポネーマという細菌で引き起こされる伝染病です。医学的に梅毒が不思議なことは、よく分かっていることと、ほとんど分かっていないことが混在しているという事実です。なぜ病気を引き起こすのかということが、これだけ科学が進歩したのにあまり分かっていないのです。その原因のひとつが、梅毒を引き起こすトレポネーマという細菌を培養することができないことです。例外的にうさぎの 睾丸(こうがん) 内でのみ培養が可能と分かっています。一方で梅毒感染症がどのような経過をたどって体を (むしば) んでいくかははっきりしています。まず、梅毒に感染して3週間ぐらいすると、性器に硬いコリコリが生じます。そしてそのコリコリはジクジクとなり、足の付け根のリンパ節が腫れます。しかし、この第1期の症状に気づかないこともあります。なぜなら、自然と症状はなくなってしまうからです。そして感染して3か月から3年がたつと梅毒を引き起こす細菌であるトレポネーマが血液を介して全身に回ります。そして、淡い紅色の皮疹を生じます。また体中にコリコリが現れ、手足に奇妙な湿疹ができたりします。これが第2期なのですが、この第2期も何も治療することなしに症状は落ち着くことがあります。すると感染から3年から10年間で体中のコリコリが硬くなる時期を迎え、最後に第4期となって臓器や皮膚に腫瘤を形成し、それが自壊し、また神経を侵し、大動脈に瘤をつくります。この時期に鼻が欠けるのです。

ペニシリンが有効

 なんでこのような病気を引き起こすかも判然としない不気味な梅毒ですが、幸いにも特効薬が登場しました。それがペニシリンです。そして、多くの細菌が抗生物質の多量使用で耐性菌となっているにもかかわらず、梅毒に関してはペニシリンに耐性を持つものはありません。つまり、どんな梅毒も基本的にペニシリンで治療すればいいのです。梅毒の感染を調べる方法も確立しています。TPHA法という方法で梅毒に感染したことがあるかが分かります。そしてガラス板法では現在梅毒に感染しているかが分かります。つまり、TPHA法とガラス板法がともに陽性で治療の対象になり、ガラス板法がマイナスになるまで治療を行えばいいということになります。しかし、感染した初期にはTPHA法もガラス板法も陰性となることがありますので、梅毒が疑われるのに陰性の時は、時期を変えて再度の検査が必要です。

若い女性に急増

 さて、その梅毒がここ数年で増加傾向にあります。 読売新聞の記事 とその原稿の基になっている 国立感染症研究所の報告 (7ページ)から抜粋し、最近の情報を加えると、1948年には梅毒患者数は22万人でしたが、その後は減少し、最近では1000人未満でした。2010年には621人まで減少しましたが、2011年から増加に転じ、2014年は1671人、2015年は2600人を越えたそうです。特に若い女性での増加が顕著だそうです。2015年10月28日の報告で、総計2037例、男性は1463例、女性が574例で、感染経路が判明しているものでは、男性の異性間性的接触によるものが615例、男性の同性間性的接触によるものが487例、女性の異性間性的接触によるものは405例と報告されています。また、感染した母親から生まれた子供に生じる先天性梅毒も10例あったそうです。

不特定多数との性交渉は控えて

 厚生労働省が標準とする妊婦健診では、妊娠初期(13週まで)に1回、梅毒を含めた性感染症の有無を調べることになっているので、その時点で感染が分かれば、妊婦がペニシリン治療を行うことで、胎児とともに完治できます。しかし、妊娠中期(14週)以降に性交渉で感染することもあるので、梅毒感染には要注意です。

 予防には性的接触を行わないことが最善ですが、それでは人類が滅びます。不特定多数との性交渉は控えて、もしも危険を承知で性交渉を行うときは避妊具などでリスクはある程度軽減されます。ある程度と言ったのは、オーラルの接触でも梅毒は感染しますので、リスクをゼロにはできません。梅毒は幸いにもペニシリンが著効しますので、もしも疑わしい症状があれば早急に検査を行い、梅毒感染が判明したら、早急に治療してもらいましょう。症状が自然軽快することがあるので要注意なのです。そんな症状がないような第1期、第2期の人が不特定多数との性交渉を行うと、梅毒が 蔓延(まんえん) するのですよ。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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