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岩崎航さん トークイベント詳報(上)「生き抜く」意思 詩作に込め

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寝台型車いすで壇上に登場し、担当編集者の村井さん(左)とトークや朗読を披露した

寝台型車いすで壇上に登場し、担当編集者の村井さん(左)とトークや朗読を披露した

 今回は、番外編として、初回にご登場頂いた筋ジストロフィーの詩人、岩崎航さんが6日に仙台市で開いたトークイベントの詳細をお届けします。

 岩崎さんは2013年に出版された初の詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』(ナナロク社)に続き、昨年11月、自身の半生をつづったエッセー集『日付の大きいカレンダー』(同)を出版しました。その刊行記念イベントとして、日本を代表する詩人、谷川俊太郎さんとの対談を予定していたのですが、谷川さんが直前に風邪をひいて欠席となり、急きょ単独での朗読イベントとなったのです。人工呼吸器と経管栄養を使い、生活のすべてに介助を必要とする岩崎さんが、「生きる」ことについてどのように考えているのか。エッセー集の内容に基づいて語られた言葉や詩の朗読を通じて、皆さんと分かち合いたいと思います。

◆◆◆

 会場となった「せんだいメディアテーク」に、岩崎さんは、横たわったまま移動できる寝台型の車いすに乗って、介護タクシーで到着しました。人工呼吸器を携え、傍らにはヘルパーさんが2人。外出時のお決まりのスタイルです。

 約200人の参加者が詰めかけた会場の後ろには、同じ病を生きる7つ上の兄、健一さんの花の絵40点も飾られて、温かい雰囲気が醸し出されていました。

 冒頭、聞き手を務めたナナロク社の社長で担当編集者の村井光男さんが、谷川さんから岩崎さんに送られた手紙を読み上げました。欠席が決まった直後にファクスで届いた私信ですが、お二人の了承を得て、来場者にも特別に配られたのです。

 

  【手紙の一部引用】

  風邪をひいてしまって、 (せき) がひどく、熱のせいかからだが安定しません。お会いしてまたお話ができる機会を逃してしまって残念です。

  ぼくは子どものころは、しょっちゅう風邪をひいて学校を休むし、寝小便はするしで、虚弱児童と呼ばれていました。それが思春期に入るにつれてだんだんからだが変わってきたんです。(中略)

  その後、もう詩を書き始めていたころかもしれませんが、何かに突き動かされるように<ぼくは生きられる!>と強く感じたのを覚えています。(中略)

  <生きられる!>という 闇雲(やみくも) な感情に、言葉に出来る理由はなかったと思います。その感情はアタマとは無関係にカラダそのものから、太古からのいのちの連続から、ほとんど爆発的に生まれたものだったと思います。(中略)

  ぼくのどちらかと言うと受け身な<生きられる>と、岩崎さんの積極的な<生きよう>についていつかまたお話ししたいと思っています。

  谷川 俊太郎

 

 谷川さんが「積極的な『生きよう』」という言葉で表現した、岩崎さんの「生きる」「生き抜く」という意思。しかし、3歳で徐々に筋肉の衰えていく難病を発症し、将来を悲観して、17歳の時に自殺未遂をするまで、そのような思いには至っていませんでした。第1章のエッセー「病魔について」で書かれた、病と生きることをどうとらえているかについて、まず岩崎さんは語りました。

 「若い頃は、病を持った自分というのを認められなくて、病気が治らないと自分の人生は始まらないと思っていました。17歳の時に自分の将来に絶望して、死のうと思った瞬間、自分の奥底からわき上がるように、このまま死んでたまるかという気持ちが力強く湧いてきたんです。そこで私は生きるという方向に思いが変わり、今に至ります」

 「自分が病と共にあるのは否定できない事実で、その自分を否定して、病がなければ自分の人生が始まらないと思っていたら、自分の人生を生きていない感じだったと思うのです。病を病んでいることで自分の生きようという気持ちをそぐ心の働きを私は『病魔』と呼んでいるのですが、私にとって『闘病』というのは、『病』そのものと闘うことではなく、その『病魔』と闘うことではないかと思うようになっていったのです」

 そうした考えを深め、「自分の人生を生きる」方向に岩崎さんを動かしていった大きなきっかけの一つは、25歳から始めた詩の創作でした。わずかに動く指先で、パソコンを操り、日々、生活を送る中で浮かんだ断片的な思いや言葉を書き留め、何度も読み返しては時間をかけて五行歌にまとめていきます。今回のトークイベントでは、エッセーの中に掲載した五行歌も岩崎さん自身が朗読しました。

 

日付の大きい/カレンダーにする/一日、一日が/よく見えるように/大切にできるように

 

校庭の/桜吹雪が/痛かった/ただ黙って/空を見ていた

 

誰もがある/いのちの奥底の/ 燠火(おきび) は吹き消せない/消えたと思うのは/こころの 錯覚

 

病と向き合い/堂々生きる/そこから始まる/地平線に/太陽が 昇る

 

本当に/「治る」とは/何なのか/一生を懸けて/ (つか) み取る

 

会場に岩崎さんの五行歌と共に飾られた同じ病を生きる兄・健一さんの絵

会場に岩崎さんの五行歌と共に飾られた同じ病を生きる兄・健一さんの絵

 村井さんは、このうち桜吹雪の詩について、どういう情景から生まれたのかを尋ねました。これは岩崎さんが、通信制の高校に進学し、月に数回だけ通っていたその校舎の校庭で、桜吹雪を見た時の思いを描いた詩です。

 「その時は、とても心が閉ざされていて、体の健康なほかの人たちと自分の境遇を比べて、何かにつけて涙がこぼれる重い、暗い心境にいたのです。その高校は桜の名所でたくさん植えられているのですが、家族に介助されて連れて行ってもらった時に、本当にきれいな桜吹雪が吹いていた。それを見ながら、そこでも私は比べてしまったのです。自分はこんなに弱ってしまって暗く沈んでいるのに、桜はどうなろうとこんなに美しい。自分の命の状態と、桜が咲いて散っていく、それでもこんなにきれいだという命の姿を見て、とても心が痛くなったのです」

 通信制の高校に進み、家族や限られた人との関わりしか持てなかった10代半ば。同世代の若者と自分を比べてしまい、引きこもりがちになっていた時、岩崎さんにとって大事な「行き場所」となっていたのは、近所の本屋さんでした。

 「お客さんや店員さんがいるわけですが、こちらから何も言わなければ、相手からものを言われることはない。人のいろんな思いが書かれている本に囲まれ、人の気配がする場所です。人と関わることが怖いのですが、さびしい。近寄りたいのに近寄れない。そういう思いでも人に近づける場所で、苦しかった時に自分の心を助けてくれた場所だったと思うのです」

 本を通じて、時代も境遇も違う人と交わる喜びを覚えた岩崎さん。エッセー集の最終章では、太宰治や種田山頭火、サン・テグジュペリら岩崎さんに強い影響を与えてきた作家や作品を紹介しています。今回のイベントでは、その中の一人で、病と共に生きた明治時代の歌人、正岡子規の『 病牀(びょうしょう) 六尺』について語りました。

 「正岡子規は結核を病んで、人生の大半を病床で過ごし、脊椎カリエスにもなって七転八倒の痛みや苦しみを経験しました。その中で達成した様々な文学上の業績も素晴らしいのですが、一番私の心に留まったのは、重い病気を抱えながら、色んな人を招き入れて、色々な人と関わって生きたということなのです。重い病気になると、どうしても人に弱った姿を見られたくなくて、人を遠ざけようとする傾向があると思う。でも子規は、家族だけでなく、友人や文学の同人や近所の人を招き入れ、歌会や句会も布団の上で寝ているところで開いていました。訪ねる人も、お見舞いとか慰めに行くとかという感覚ではなく、自然に出入りする。そういうところがとても魅力的に思うのですね」

 (後半、質問タイムに続く)

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