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佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」

医療・健康・介護のコラム

聖マリが臨床試験を中止

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 神経精神科の臨床試験を巡り、医師や職員のウソ対応が表面化した川崎市の聖マリアンナ医大で、学内の生命倫理委員会が開かれ、この臨床試験の中止が決まった。三宅良彦学長は私の質問に「研究方法・施行にプロトコール(実施計画書)との相違が見られましたので、生命倫理委員会の決議を受け、中止を命じました」と文書で回答した。

 

 この臨床試験は「初発エピソード統合失調症患者の認知機能障害に対する第2世代抗精神病薬blonanserinの効果:aripiprazoleとのオープン比較試験」。統合失調症を初めて発症した患者を対象とし、大日本住友製薬の抗精神病薬ブロナンセリン(商品名ロナセン)を使用した患者の認知機能の改善度を、大塚製薬の抗精神病薬アリピプラゾール(商品名エビリファイ)を使用した患者の改善度と比較する内容だ。

 

 薬の製造販売承認を目的とした治験ではなく、販売中の薬の効果を見るための臨床研究で、協力患者たちの公的医療保険を使って行われる。このような研究で良い結果が出ると、論文化され、薬の販売増につながりやすい。

 

 試験開始は2009年。当初は12年までの計画だったが、途中で16年まで延長され、患者約40人が協力した。最終的な計画では、16年2月28日に入力終了、6月1日に解析終了となっていた。

 

 この臨床試験の問題は、前々回のコラム「聖マリアンナの虚言」で取り上げた試験協力者の女性の疑問をきっかけに浮上した。この女性は現在、別の複数の医師に「統合失調症ではない」「精神疾患でもない」と診断されているので、ここでは「患者」ではなく「女性」と表記していく。

 

乱数表使わず薬を指定か?

 

 

 責任研究者の准教授や職員らが、女性の検査データの原本閲覧を拒み、ウソを重ねたことは前々回書いた通りだが、2015年夏以降の女性の追及で、他にも様々な疑問が浮かび上がってきた。そのひとつが、プロトコールと実際の試験内容との相違だった。

 

 この臨床試験の実施計画書には、次のように記されている。

 

 「対象患者を抗精神病薬の種類によって、blonanserin単剤投与群、aripiprazole単剤投与群に乱数表を用いて無作為に1:1に振り分ける」

 

 患者の状態をよく知る医師が、使う薬を意図的に選んでしまったら、比較試験にならない。効果を得たい薬を、回復力が高そうな患者にばかり割り振ることもできるからだ。精神科の場合、何もしなくても時間の経過とともに症状が消える患者もいる。乱数表などを用いたランダムな振り分けは欠かせない。

 

 ところが女性は、臨床試験の参加に同意した時の准教授の対応について、こう証言する。「『あなたの病気はね、統合失調症て言ってね』と軽い調子で話した後、すぐに薬の名前を五つか六つ、ばっと書き出しました。それでロナセンにぐるっと丸を付けて『ロナセンでやりたい』と言ったんです。准教授が一方的に指定したので、乱数表は使っていません」。准教授は、この時のやりとりを「覚えていない」としつつも、乱数表は「今回は使ってないですね」と認めている。

 

 このような問題の発覚を経て、試験の中止を決めた大学は、経緯などをより詳しく調べるため、新たに調査委員会を組織した。多くの患者の善意の協力を無にした責任に加え、再発防止のためにも、徹底した調査と隠し事のない報告を期待したい。

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佐藤写真

佐藤光展(さとう・みつのぶ)

読売新聞東京本社医療部記者。群馬県前橋市生まれ。趣味はマラソン(完走メダル集め)とスキューバダイビング(好きなポイントは与那国島の西崎)と城めぐり。免許は1級小型船舶操縦士、潜水士など。神戸新聞社社会部で阪神淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。2000年に読売新聞東京本社に移り、2003年から医療部。日本外科学会学術集会、日本内視鏡外科学会総会、日本公衆衛生学会総会などの学会や大学などで講演。著書に「精神医療ダークサイド」(講談社現代新書)。分担執筆は『こころの科学増刊 くすりにたよらない精神医学』(日本評論社)、『統合失調症の人が知っておくべきこと』(NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ)など。

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