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白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記

闘病記

「白血病と闘う」番外編インタビュー

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全国骨髄バンク推進連絡協議会顧問 大谷貴子さん(下)

 前回に続き、全国骨髄バンク推進連絡協議会顧問、大谷貴子さんのインタビューです。

「白血病と闘う」番外編インタビュー

献血、骨髄バンク登録、さい帯血提供への協力をお願いします

  池辺 (以下、池) 親と子のHLAが合致することは、極めてまれだと聞いていますが、大谷さんはお母さんのHLAと一致したのですね。

  大谷貴子さん (以下、大) ええ、最初に検査をした病院でも「親は適合しませんよ」と言われましたが、検査をしてみたら、母とHLAがぴったり合ったのです。きっと何万分の一の確率でしょう。それが1987年11月の出来事です。この頃、私は容体が急速に悪化して、骨髄中のがん細胞が90%を超え、「このままでは1か月後には死ぬ」と言われていました。

 私が治療を受けていた京大病院は移植治療の経験がなく、京大病院の医師はほかの病院を必死に探してくれて、12月に名古屋大医学部付属病院に転院しました。私は意識がもうろうとする中で、タクシーの後部座席に寝かされ、京都から名古屋に向かいました。でも、名古屋の病院で、私の家族は「あまりに状態が悪いので、助かる可能性はゼロではないが、1%か数%。かなり低い」と言われました。

 88年1月に移植が行われ、その直後に白血病が再発しましたが、その1、2か月後、抗がん剤によってがん細胞はなくなり、GVHD(移植片対宿主病)も全く出ないまま、生還することができたのです。

全国に先駆け、東海骨髄バンクを設立…初の移植成功で手応え

   奇跡的な話ですね。治ってすぐに骨髄バンク設立の活動に再び入ったそうですが。

   名古屋は、私の移植を担当した森島泰雄医師をはじめ、移植に理解のある方が多いと思ったので、活動の拠点をすぐに移しました。「貴子は大阪でゆっくりさせたい。バンクの活動はやらせたくない」と言う母に、森島医師は「白血病が再発するかどうかは、だれもわかりません。神のみぞ知る、です。ならば、したいことをやって死んだ方が、お母さんも楽なんじゃないですか」と説得してくれました。

 地元経済界、マスコミの支援もあって、89年10月、全国に先駆けて東海骨髄バンクが設立されました。90年3月、バンクを通した初の移植(非血縁者間)の1例目が成功したことを発表し、全国的に大きく報道されました。

   この1例目は、非血縁者の成人間で国内初の成功例でもあると当時の新聞に書いてあります。この時のドナーの方は、前例がないだけに大変勇気のある方ですね。

    この1例目となったドナーの方の骨髄を採取するとき、森島医師は手が震えたそうです。失敗すれば骨髄バンクの道は閉ざされるかもしれないから。採取後、森島医師はドナーの方に「ありがとうございました」と心からの感謝の気持ちで頭を下げたと聞いています。

 この1例目の成功で私も「このプロジェクトは成功する」と確信しました。署名が120万に達した頃の91年12月、厚生省の認可を受け、骨髄移植推進財団(日本骨髄バンク)が発足したのです。

「多くの人が死んでしまう」…「自然な流れ」で治療後、再びバンク活動に

   先ほど、「署名活動は、最初は自分のためだった」と言われましたが、公のための活動になったきっかけは。

   移植を受けて、「私がこんなに元気になっていくんやから、ほかの多くの人も平等に移植をしてもらいたい」と強く思うようになったのです。これは、私にとって自然な流れでした。一方で焦りもありました。移植後、私がのんびりしていたら、多くの人が死んでしまうと思って。実際、私は入院中、病院で死ぬ人を何人も見ていましたから。その中には、姉妹のように仲良く過ごした15歳、中学3年生の少女もいたのです。

   2015年末現在、日本骨髄バンクの登録者は約46万人。累計の移植数は1万9000例。バンクは白血病患者やその家族に希望を与え、移植治療を支える根幹になっています。

   大変ありがたいことです。ただ、46万人という数だけを聞くと、たくさんの人がドナー登録しているように思えますが、米国783万人、ドイツ606万人、ブラジル355万人、中国82万人(各国のデータは2015年5月現在・日本赤十字社広報誌より)と比べ、少ないのが現状です。全国各地の献血ルーム、献血カーなどで、患者さんに骨髄・末梢血幹細胞を提供してくれる方のドナー登録を受け付けています(注・登録には18~54歳で健康な方などの条件があります)。バンクはドナー登録者の情報を管理し、移植を必要とする患者さんがいると、HLA型の合うドナー候補者を探します。ドナー候補者が見つかると、コーディネーターが連絡・調整をします。

 ただ、すべての患者のニーズに応えるには至っていません。今も、生後8か月の男の子について、HLAが適合するドナーが見つからず、どうしたらいいか悩んでいます。また、財政面でも、日本骨髄バンクは1億円以上の経常赤字(2014年度決算)です。命にかかわることなので、国がもっと援助してくれるといいのですが。

未受精卵子凍結プロジェクトも推進…「私と同じ苦しみ味わわせたくない」

   全国骨髄バンク推進連絡協議会は、バンクの広報を担っているのですね。

   そうです。私は骨髄バンク登録の広報活動として講演を行う一方、未受精卵子凍結プロジェクトも推進しています。がんなどの治療の影響で不妊になる可能性のある女性患者を対象に、将来に備え、未受精卵子の冷凍保存を勧める活動です。私自身、自分が白血病の治療で子どもが産めない体になっているとは知りませんでした。この苦しみをほかの患者さんに味わってほしくなかったから。お金を払うのが難しい患者さんのため、東京マリーンロータリークラブの支援を受けて基金も設けました。キャッチコピーは「明日も、赤ちゃんも、きっと来るから」。実際に凍結卵子で妊娠、出産した方が何人もいらっしゃいます。

iPSによる白血病治療に大きく期待…バンク登録、献血、さい帯血の提供に協力を

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読売新聞1月11日朝刊1面の記事

   読売新聞1月11日朝刊1面の記事にあるように、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った免疫細胞で白血病を治療する臨床試験も始まる見通しです。30年前に試行錯誤だった骨髄移植が今、医療現場に浸透したように、10~20年後には白血病治療がさらに大きく進歩していそうですね。

   私も大いに期待しています。池辺さんのブログにある通り、移植治療は患者にはつらすぎます。こんな野蛮な治療は早くなくなってほしい。でも、今、現実にできることに、皆さんには協力してほしい。具体的には、骨髄バンクへの登録と献血、妊婦さんはさい帯血の提供です。元気になっている患者はたくさんいますので、切にお願いします。

<ドナー登録と採取>

 献血ルームや保健所(一部を除く)などでドナー登録をした人には後日、確認書が届けられる。患者と登録者のHLA型が合うと、ドナー候補者に選ばれたとの知らせが郵便で届く。コーディネーターによる説明、本人、家族の最終同意の確認を経て、移植のための造血幹細胞の採取が行われる。採取方法は、骨髄採取、末梢血幹細胞採取の2つがある。骨髄採取では3泊4日程度の入院が必要で、全身麻酔のうえ、腰の骨に針を刺し、採取する。ドナー候補者に選ばれる確率は、ドナー登録者の約37%。

 

(インタビューを終えて)
 闘病記のブログには、「移植には骨髄、さい帯血、末梢血幹細胞の3種類ある」と当たり前のように書いていましたが、バンクが整備されて移植治療が浸透したのは、ここ20年前後のことで、特に骨髄バンク設立の過程では、大谷さんをはじめ、多くの関係者の大変なご尽力があったことを知り、頭が下がる思いでした。チャキチャキの関西弁で語る大谷さんは、繊細さを持つ一方、とにかく明るくてパワフル。「移植経験者でも、こんなに元気になれるのか」と、白血病患者の「後輩」として、頼もしさとうれしさの両方が心に深く残りました。(池辺英俊)

【略歴】大谷貴子(おおたに・たかこ) 日本骨髄バンク評議員、全国骨髄バンク推進連絡協議会顧問
 1961年6月大阪市生まれ。現在は埼玉県在住。86年12月、千葉大学大学院在学中に慢性骨髄性白血病と診断される。88年1月、母親から骨髄移植を受ける。同年8月に名古屋骨髄献血希望者を募る会を発足させ、翌89年10月に東海骨髄バンク、91年12月に骨髄移植推進財団(日本骨髄バンク)を設立。著書に『霧の中の生命(いのち)』(リヨン社)、『生きてるってシアワセ!』(スターツ出版)など。
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池辺英俊(いけべ・ひでとし)
1966年4月、東京生まれ。90年、読売新聞社に入社。甲府支局に赴任し、オウム真理教のサリン事件などを取材。96年、政治部記者となり、橋本龍太郎首相、小沢一郎新進党党首、山崎拓自民党幹事長(肩書はいずれも当時)の番記者を経て、外務省キャップ、野党キャップ、外交・安保担当デスクなどを歴任。2011年5月から政治部次長。著書に、中公新書ラクレ「小泉革命」(共著・以下同)、同「活火山富士 大自然の恵みと災害」、東信堂「時代を動かす政治のことば」、新潮社「亡国の宰相 官邸機能停止の180日」など。

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