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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(24) 保護を受けつつ働いたら、収入はどうなる

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 働いて収入を得つつ、足りない額を生活保護からの給付で補う。そういう「半就労・半福祉」で生活を維持している世帯は、けっこうあります。その場合、勤労収入のすべてが収入と扱われて「働き損」になるわけではありません。働くときに必要な費用を除外する「控除」などによって、手取りはある程度、増えます。十分とは言えないものの、就労を促進する意味合いがあります。

 生活保護が勤労意欲を妨げていると言う人もいますが、 前回 で説明したように、働く能力のある保護受給者の半数近くは働いています。保護から抜け出しにくいとすれば、生活保護制度自体よりも、まず、実際に十分に稼げる仕事に就くのが容易でないこと。もう一つは、生活保護を外れたときに医療費、保険料、公共料金などの負担が一気に増えることでしょう。それらの対策が重要です。

収入はすべて申告が必要

 

 生活保護は、保護基準や医療費の必要額などから計算した世帯の最低生活費より、収入の見込みが少ないときに、足らずを補うものです。翌月分の収入を将来に向かって推定します。といっても材料なしに将来の予測はできないので、収入に変動があるときは通常、過去3か月程度の平均額を用います。ボーナスの額がそれなりにあったときは、以後6か月以内の期間で月割りにします。

 保護を受け始めると、就労の能力と条件のある世帯は、実際の就労の有無にかかわらず、原則として毎月、収入申告をするよう福祉事務所から求められます(常用雇用で収入の増減が少ない場合は3か月ごと)。就労困難な世帯も12か月に1回は申告します。臨時の収入があった月も申告が必要です。実際の収入が見込みより多ければ、返還を求められるか、翌月分の支給額で調整が行われます。

 就労による収入は、雇用による勤労収入、農業収入、自営などの事業収入、その他の一時的な仕事による収入に分けられ、それぞれ収入認定額の計算方法が違います。

 就労以外の収入には、財産収入、公的年金、その他の公的給付、親族の援助、贈与、補償金、保険金、見舞金などがあります。主食、野菜、魚介の現物や、換金価値のある物品をもらったときも、収入になります。就労以外の収入は、収入認定される場合と、除外される場合があります。

 いずれにせよ収入は、それが収入認定されて保護費の支給額が減るかどうかに関係なく、申告が必要です。申告しないと不正受給になることもあります。社会通念上許容される細かなことにまで厳格に適用すべきではありませんが、生活保護を利用中は、それなりに手間がかかり、注意も必要なわけです。

就労に伴う収入の基礎控除

 

 働くときはたいてい、衣服や髪を整え、きちんと入浴する必要があります。仕事に必要な知識や情報を得る費用がかかることもあり、昼ごはんを外で食べたり、職場のつきあいで仕事の後に飲食したりすることもあります。そうした様々な必要性を考慮して収入認定から除外するのが「基礎控除」です。

 雇われて働いた場合、通勤交通費や各種手当を含めた収入総額(額面)から基礎控除額を算定します。日雇い労働、臨時的な労働、障害者事業所の工賃も同じ扱いです。収入額に応じて細かい刻みの段階区分で定められており、その目安だけを下の表に示します。世帯で1人目の就労者と2人目以降の就労者では額が少し違います。なお、これは保護開始後の基礎控除額であって、保護を申請した段階の保護の要否の判定には、これより少ない額の表が用いられます。

貧困と生活保護(24) 保護を受けつつ働いたら、収入はどうなる

 

 控除の金額はどうでしょうか。収入が多いと基礎控除の伸びが鈍り、手取りの割合が下がるのは確かです。足らずを補うという生活保護制度の趣旨からは当然かもしれませんが、所得税の場合、必要経費の意味を持つ給与所得控除が、年収180万円以下の場合で収入額の40%(それが65万円未満になる場合は65万円)、全員に認められる基礎控除が年38万円であることを考えると、もう少し、就労促進の意味も込めて上積みしてよいかもしれません。

未成年者控除、新規就労控除

 

 基礎控除に上積みして控除される別の控除もあります。

 未成年者控除(月1万1400円)は、働いている未成年者が対象です。高校生や中学生のアルバイト収入でも対象になります。ただし未成年者でも、単身の場合、配偶者や自分の子だけで独立した世帯を営んでいる場合は、対象外です。

 新規就労控除(月1万700円)は、中学・高校を出て新たに就職した人や、おおむね過去3年以上就労できない状態だった人を対象に、継続的な職業に就いてから6か月間、控除を上積みします。

必要経費は差し引ける

 

 働くために直接・間接に必要な費用は、収入認定から除外されます。通勤交通費、社会保険料、税金、子どもを預ける保育所・幼稚園・学童保育の費用、労働組合費、出稼ぎ中の滞在費・最小限の帰省費などが対象です。

 自動車やバイクが通勤または事業に必要と認められたときは、最小限の燃料費、小破の修理費、自賠責保険料、任意保険料、自動車税、車検費用、運転免許の更新費用、ヘルメット代などが対象になります。バイク・自転車が就労に必要なときは、購入費を月割りにして計上でき、駐輪場代、防犯登録料、賠償責任保険料も認められます。

 雇用による就労の場合は、月の収入総額から基礎控除額を算定した後に、必要経費を除外します。

農業収入、事業収入の計算方法

 

 農業については、年間の収穫高を見積もり、売却代金のほか、自家消費分も金銭換算表を用いて収入に加えます。小作料、水利費、肥料代、種苗代、薬剤費、作業者の雇い入れ費、農機具の修理代、少額の農機具の購入費、納屋の修理費、農業災害補償共済の掛け金などは、必要経費になります。そうして計算した利益を12で割ったものを、その後1年間の1か月あたりの農業収入とみなします。複数の作物を栽培していれば、実際に売り上げがあるたびに、利益の12分の1ずつを積み重ねていきます。

 農業以外の事業収入(固定的な内職を含む)は、収入額が変動するので、月ごとに計算したうえで過去3か月間の平均を出します。店舗や事業所の家賃、地代、原材料費、仕入れ代、機械器具修理費、交通費、運搬費などを必要経費として、売り上げから差し引きます。漁業の場合、魚介類の自家消費は金銭換算表を用いて収入に加えます。

 農業収入、事業収入にも基礎控除はあります。ただし雇用の場合と計算の順序が違い、まず必要経費を引いた額(所得に相当)を計算したうえで、それを先の表にあてはめて基礎控除額を算定します。

 このほか、知り合いや近所から頼まれるなどして一時的に少額の仕事をしたときは、不安定就労による収入として、必要経費を差し引いた額が月1万5000円を超えた分だけ、収入認定されます。世帯単位ではなく、個人ごとの計算です。こういう収入は、基礎控除の対象外です。

高校生のアルバイトは申告すれば、たいてい収入認定されない

 

 高校生の就学費用は2005年度から、生業扶助として支給されるようになりました(教育扶助ではない)。しかし、それだけでは修学旅行費、クラブ活動費、私立高校の学費をまかなえない場合があり、それらにあてるアルバイト収入は、申告すれば、収入認定から除外されます。

 14年度からは、就労や保護脱却に役立つ費用にあてるときも除外されるようになりました。具体的には、<1>運転免許など就労に役立つ技能の習得<2>大学や専門学校の入学費用<3>進学や就職に伴う転居費用<4>国や自治体からの貸付金の返済――などにあてる目的で、事前に自立更生計画書を福祉事務所に提出して承認を受け、他の生活費と別管理にすることなどが条件です。

 アルバイト収入や奨学金を塾代にあてる場合も、15年10月から除外されるようになりました。奨学金を収入認定された福島市の高校生が、行政不服審査の手続きを取り、厚生労働大臣が福祉事務所の決定を取り消す裁決をしたのを踏まえた政策変更です。塾や家庭教師の費用、その交通費、模擬試験代などにあてる場合が対象になります。

 もともと、過去に生活保護の不正受給とされた中には、高校生のアルバイト収入の未申告がけっこう多かったのです。申告すれば、基礎控除や未成年者控除もあるので、よほど多額でない限り、金額面で問題になりません。現在は、進学や自立をめざすアルバイトなら、事前に相談しておけば、ほとんどの場合、収入認定から除外されます。福祉事務所のケースワーカーは、その点を世帯主だけでなく、高校生本人にも、きちんと伝えるべきです。

 中学生の新聞配達などのアルバイト収入も原則、収入から除外されます。

お金が入っても、収入から除外されるものもある

 

 収入の種類を問わず、次のような費用は、必要経費として認められます。

年金や雇用保険給付などの請求に必要な証明書代・診断書代・交通費、賃貸している不動産の補修費、求職者支援制度による職業訓練中の託児費、固定資産税などの公租公課、公的制度による自立更生のための貸付金の返済、住宅金融支援機構の貸付金の返済、健康保険の任意継続保険料、国民年金の受給権を得るのに必要な任意加入保険料、収入を得るのに必要だった弁護士など専門職の報酬

 就労以外の収入で、収入から除外されるのは、たとえば以下のようなものです。性質から見て大きく分けると、<1>収入認定すると支出の趣旨や支出者の善意を損ねるもの<2>損害の回復や生活基盤の再建にあてるもの<3>自立更生に役立つもの――があります。一時的な給付金の場合、年1回の支給なら12で割って月割りの額で考えます。

結婚・出産・就職・葬祭などに伴う祝い金や香典(社会通念の範囲内)
民間の社会事業などによる慈善的な援助
戦傷者・戦没者遺族などへの弔慰金・特別給付金
自治体から敬老の日や子どもの日に支給される祝い金
自治体から保護世帯に年末などに支給される一時金(世帯合算で月8000円までの部分)
自治体から障害者や母子世帯などに支給される福祉的給付金(1人あたり月8000円までの部分)
親族などの好意による家屋修理費、扶養義務の範囲を超えた修学旅行代の援助
被爆者医療特別手当、公害健康被害者への補償(一定額まで)
自立更生のための公的・私的な貸付金
動産・不動産の売却益や、保険金などの臨時収入のうち、世帯合算で月8000円までの部分
動産・不動産を福祉事務所の指導・指示に従って処分した金銭のうち、自立更生にあてる額
事故・災害・犯罪などの補償金、賠償金、見舞金、保険金のうち、損害回復や自立更生にあてる額
死亡保険金のうち、自立更生にあてる額

 自立更生とは、生活を良い方向に改善することです。それにあてる金銭については内訳を示し、福祉事務所の了解を得ます。足りない家電製品や家財の購入、引っ越しも可能です。子どもの教育や結婚の費用など、すぐに使わないお金は、社会福祉協議会などに預託できます。 このほか、障害年金が過去にさかのぼって支給されたとき、借金の過払い利息が戻ったときなどは、必要経費を除いたうえで、過去の一定時点以降にかかった保護費の返還を求められますが、福祉事務所と交渉すれば、自立更生の費用を確保できます。福祉事務所との話し合いがむずかしければ、民事法律扶助制度を利用して弁護士や司法書士に交渉を頼むこともできます。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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