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性とパートナーシップ

コラム

「夫婦関係と発達障害」反響編(下)それぞれの障害に気づく…個性認められるように

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 発達障害を持つ大人のための居場所「 オルタナティブ・スペース・ネッコ (以下、ネッコ)を運営する一般社団法人「発達・精神サポートネットワーク」理事長の金子磨矢子さん(62)は約10数年前、次女が精神障害と診断され、薬漬けになってほぼ寝たきりになってしまいました。こだわりが強く、空気を読まずに、どんな時もマイペースを崩さない夫に頼ることはできず、孤軍奮闘の状態でした。

 

 金子さんは、次女の治療のために初めて受診した精神科で、最初は医師を信頼し、その診断と治療法に従うしかできませんでした。しかし、強迫性障害はさらにひどくなっていき、「このままでは娘は二度と歩けなくなってしまう。薬が多すぎる」と病院をかえた頃、アスペルガー症候群を紹介するテレビ番組の特集を見て、娘と全く同じ行動を取るテレビの中の子どもに、衝撃を受けました。番組を見た後、当時は国立成育医療研究センターこころの診療部の医長を務めていた発達障害の専門医、宮尾益知さんにたどり着き、アスペルガー症候群との診断を受けました。

 

 「家族全員で喜びました。一番喜んだのは本人です。『どうして自分はみんなと違うのだろう』と常に悩んでいた謎が解けたのです。次女は11歳になっていました」

 

 後日、金子さん自身も受診して、知的能力に問題はない「高機能広汎性発達障害」と診断を受けました。ずっと前に、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子どもの支援について書かれた本『のび太・ジャイアン症候群』を読み、その症状があまりにも当てはまることから、自分もADHDという発達障害を持っていることには気づいていましたが、診察までは受けていませんでした。診断を受け、自分が50年近く抱えてきた生きづらさに答えが与えられた気がして、ようやく光が見えたような思いがしました。夫も自身の両親も、発達障害の傾向が強くあることもわかりました。

 

 次女の主治医となった宮尾さんはその頃、アスペルガー症候群の子どもの両親も、夫婦関係や親子関係に問題を抱えている人が多いことから、両親への働きかけも始めていました。金子さんは宮尾さんらの主宰する母親教室に、金子さんの夫も父親教室に参加するようになりました。最初は「自分はアスペルガーじゃない」と否定していた夫も、通ううちに、自分の問題を自覚し始めました。家族みんながそれぞれの問題に気づくと、互いの行動に納得をしながら、それぞれの個性を認め合えるようになっていきました。

 

たくさんの人が同じ悩み

 

 金子さんは、発達障害についての勉強会や集まりに顔を出しているうちに、大人の発達障害で困っている人がたくさんいることに気づき、「同じ悩みを抱えた仲間が、日常的に集まれる場所を」と2010年にネッコを開設しました。発達障害についての本をたくさん置いて理解を深めてもらい、カフェやイベントは、すべて当事者が運営しています。

 

 そのネッコで、数年前に一度、発達障害の夫婦の性的な問題について、語り合う会を企画したことがありました。しかし、デリケートな内容で、話が核心に至らずにあいまいな会話ばかりになってしまいました。

 

 「不完全燃焼な会になってしまったのですが、大事な話ですし、人間関係、夫婦関係の根幹にある話ですよね。発達障害を抱えているとうまくいっていない夫婦の方が多いので、関心は高いテーマなのです。発達障害の人の離婚率が高かったり、恋人とすぐ別れたりするのは、性的なことも関係しているのかもしれません。また、この性の問題の勉強会は続けていきたいと思っています」

 

 そしてしばらく月日がたち、仲間がフェイスブックでシェアしていた「性とパートナーシップ」の 「夫婦関係と発達障害」(上) で、次女の主治医の宮尾さんが、発達障害の夫婦の問題について語っているインタビューを読み、「自分たちの夫婦関係と重なる」と驚きました。

 アスペルガー症候群の夫と衝動性の強いADHDの妻がカップルになりやすいこと、夫のこだわりや自分の生活上の混乱でコミュニケーションが取りにくく、夫婦関係がすれ違いになりがちなこと、いつの間にかセックスレスになっていたこと――。

 

 「発達障害の話題でも、なかなか夫婦関係とかセックスについては踏み込んでもらえないので、すごいと思いました。私もフェイスブックで、当事者、支援者含めると500人近い友達がいるので、すぐに、連載の(上)をシェアしました」

 

 すると、やはりこの記事を読んだ友達から、コメントや感想の言葉が届きました。

 

 「私たち夫婦も同じようなことがいっぱいあるので記事を読んで安心しました」

 「大変的を射ていて、思い当たる節がありありで、衝撃を受けました」

 「私と夫、父と母、歴史を繰り返しています」

 「実は私も夫から触られるのもいやなんです」

 

 ネッコで会う仲間からも、「私もあんな夫婦関係なのだけれど」と声をかけられ、それをきっかけに互いの夫婦関係のことも語り合いました。皆、縁があって夫婦になり、子どももいると、家族としての絆があります。それでも、互いの特性にどのように対処したらいいのかわからず、特に、性の問題は、誰にも悩みを言えず、一人で苦しんでいる人が多かったのです。

 

 「夫婦で一番大切な問題かもしれないし、性の問題は肝心であることは間違いないのに、医療機関での支援はありません。やはり自分から悩みを言い出すのは恥ずかしいし、ほかの人はどうだかもわからないし、語り合いにくい話題だったんです。掲示板を作ったとしても炎上しやすいですし、新聞社のきちんとしたサイトで、『発達障害を持つ夫婦ではこういうすれ違いが起きやすい』ということを情報発信してくれたことは大きかった。これを糸口にして、自分のことが話しやすくなったと思います」

 

 現在、金子さんの家は、長女が結婚して独立し、夫婦と次女の3人暮らしです。アスペルガーの次女と夫はよく衝突しますが、仲良しです。ちょっと変わっている父親について、子どもたちは2人とも小さい頃に同じことを言っていました。「なんであんなパパと結婚したのよ!」。金子さんは「違うパパだったら、あなたたちはいないのよ」と笑って受け流しました。今、夫婦は、仲のいい同居人のような関係性で、セックスレスも長期にわたりますが、それでも、互いにかけがえのないパートナーなのだと金子さんは考えています。

 

 夫は家業が廃業に追いやられ、財産を失いかけたこともありましたが、支え続けました。逆に、金子さんが今の一般社団法人をつぶされそうになってつらい思いをしていた時も、夫は「君のしていることは、大切ないい仕事なんだから、自信を持って続けなさい」といい、今も活動を応援してくれています。

 

 「互いに責めることもしないし、困った時に、具体的に何かするわけでもないのですが、信頼関係はお互いにすごくあるし、そばにいてくれるという安心感があります。夫はセックスレスであることに少し不満もあるかもしれません。少し申し訳ない気持ちもあります。それでも信頼し合い、変わり者同士だけど、お互いを認め合って、かけがえのない家族であることを幸せに感じています」

 

 次女は発達障害を持つことを早期発見できなかったために、つらい幼少期を送ることになってしまいました。

 

 「でも、逆に学校に行かなかったことでいじめにもあわず、素直にすくすくと成長し、大学では良い友人関係にも恵まれました。順調に人間関係を築きながら、就職もして、元気に暮らしています」

 

 この連載を読んだことがきっかけで、金子さんは再び、ネッコで夫婦関係や性について、当事者や家族が語り合えるイベントを企画したいと考えています。

 

 「やっぱりグループや大人数だと話しづらいので、女性だけの少人数の会でも開ければと思っています。自分だけが問題を抱えているのではないと気づき、それぞれのカップルの工夫を分かち合うことで、心が軽くなったり、関係が良くなったりすればと願います」

(終わり)

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岩永直子(いわなが・なおこ)

社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。6月から編集長に就任。医療部ではがん全般や感染症、遺伝子医療、セクシュアリティーなどを担当。夫と二人暮らし。趣味は居酒屋巡りとダイエット。

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