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認知症介護 研修充実を…施設の高齢者虐待最多

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認知症介護 研修充実を…施設の高齢者虐待最多

職員に受講義務なし

 2014年度に確認された介護職員による高齢者への虐待が過去最多の300件に上ることが、5日、厚生労働省の調査で明らかになった。虐待された高齢者の7割以上は認知症で、認知症介護の知識、技術を高める介護職員の研修を充実させる必要があるだろう。(編集委員 斎藤雄介)

 ■ 力ずく

 認知症ケアは難しい。高齢者が介護に対して抵抗したりすると、慣れていない職員は虐待に走ってしまう恐れがあるという。

 おむつ交換に抵抗する認知症の高齢者の体をつねる。風呂をいやがる人の体をひきずって、風呂にいれる。車いすから立ちあがろうとする人をどなりつける。仙台市で高齢者・障害者の虐待防止に取り組むNPO法人、宮城福祉オンブズネット「エール」の小湊純一副理事長が相談を受けたケースだ。

 「認知症介護の基本がわかっていない人が起こした典型的な虐待。認知症の知識があれば、なぜ、本人がおむつ交換や風呂を嫌がるのかを考え、その対策をたてる。そういう知識がないので、力で言うことをきかせようとする」

 ■ 無資格も

 虐待のあった施設・事業所では、特別養護老人ホームがもっとも多く31.7%、次いで有料老人ホームが22.3%。「虐待の発生要因」(複数回答)を見てみると、「職員の教育・知識・介護技術等の問題」が62.6%と最も多い。

 ここに大きな問題がある。高齢者施設では、プロの介護職員がケアに当たっているかといえば、そうとは限らない。自宅で介護するホームヘルパーには最低限、「介護職員初任者研修」が義務づけられているが、施設で働く職員にはそのような規定はない。

 昨年、虐待事件で問題になった神奈川県内の有料老人ホームの重要事項説明書を見ると、介護職員38人のうち、無資格者が15人を占める。

 高齢者の虐待防止に詳しい山田祐子日本大学教授は「虐待が発生した施設では、無資格で研修も受けていない職員がいることが多い。施設側の責任も重い」と指摘する。

 ■ 事実確認困難

 認知症の人は、虐待を受けても、「だれが、何をしたか」訴えることができない。このため、虐待が表面に出にくい。まして個室での介護は、虐待の温床となりかねない。

 施設での虐待で通報された件数のうち、行政によって事実が確認された割合は27%。虐待の事実の判断に至らなかったケースも多く、施設における虐待の事実確認の難しさが浮き彫りになっている。

 高齢者虐待防止法にも課題がある。

 施設従事者は、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに市町村に通報しなければならないと規定している。内部通報をした職員について、解雇などの不利益な取り扱いをすることを禁じる保護規定もある。

 しかし、「虚偽および過失による通報」は、この保護の規定からのぞくとなっている。

 このため、職場の同僚が虐待をしている疑いがあっても、「事実がはっきりしないから、通報すると過失とみなされるかも」と萎縮してしまう。

 「虐待の恐れがあれば通報をするべきで、あとから過失として責任を問うのは通報制度になじまない。早期の通報をうながすため、過失の場合も保護されるように、法改正すべきだ」。日本高齢者虐待防止学会理事長の池田直樹弁護士は指摘する。

 ■ 「職場風土」重要

 増え続ける高齢者虐待に歯止めをかけるには、職員に認知症介護の知識、技術を教育していくしかない。

 新潟県で特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人「桜井の里福祉会」では、新しく採用した職員に1泊2日の合宿を含む5日間の研修を行う。その後、3か月間、先輩や施設長が個別指導し、6か月後にまた研修を行う。

 たとえば、入居者に呼び止められた時、必ず立ち止まって話を聞くように教える。「入居者に呼ばれた時にきちんと話を聞くか、そうでないことが当たり前になっているのかではまったく違う。不適切なケアが容認される職場の風土ができあがると、虐待につながる可能性がある」と佐々木勝則常務理事はいう。

 施設の方針をはっきりと示すことも重要だ。前述の「エール」では、職員自らが、「コンプライアンス(法令順守)ルール」をつくる方法を勧めている。「わたしたち職員は、利用者一人ひとりの普通の生活を守ります」など。ごく当たり前の内容だ。

 「ルールを守ったら管理者がほめ、うまくできない人にはアドバイスをする。プロとしてやりがいのある職場をつくらないといけない」と小湊副理事長は話す。

施設の勤務 資格制度必要

 自分で被害を訴えることのできない認知症の人のケアに当たる介護職員には、高い専門知識、倫理性が求められる。施設で働くには介護福祉士などの資格を必要とするべきだ。人手不足の中、それが現実的な対応ではないのなら、認知症介護や高齢者虐待防止法についての研修を義務化することが必要ではないか。

 実は虐待とはなにかをめぐって、施設や職員によって、意識にかなりの差がある。介護の現場では「本人の安全のため」として、ベッドや車いすにしばる「身体拘束」が行われてきた歴史があり、虐待とは気付かない職員もいる。こうした点も変えていかないといけない。(斎藤)

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