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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(23) 働ける人は、かなり働いている

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 生活保護イコール働いていない、という間違ったイメージが広がっています。けれども、生活保護の利用者でも、働ける能力と条件のある人は、けっこう働いています。

  前回 、生活保護世帯の8割はそもそも働けない世帯であることを示しましたが、残りの2割のうち、半数は現に就労しているのです。あとの半数は、失業者か、見えにくい就労阻害要因のある人が多いと考えられます。

 また、生活保護を受けながら働くと、保護基準額を上回る分はすべて収入認定されて消えてしまい、まるまる働き損になると解釈している人もいますが、それも誤解です。実際には、働いて得た収入には控除の制度があり、ある程度は手取りが増えます。

母子世帯の実質就労率は7割以上

 

 厚生労働省が集計した2014年の被保護者調査で、生活保護の利用は158万3211世帯。うち就労者がいるのは24万2837世帯で、単純計算した就労率は15.3%にとどまります。

 しかし、全体の48.1%は高齢者世帯、11.1%は障害者世帯、16.1%は傷病者世帯であって、これらの世帯主に、働いて稼ぐことは期待できません(実際には若干、就労者はいる)。残りは、母子世帯が10万3637世帯(6.5%)、その他世帯が28万6412世帯(18.1%)です。

 母子世帯のうち、就労者のいる世帯(子どもの就労を含む)は4万8824世帯で、単純計算した就労率は47.1%です。ただし母子世帯の21.5%は母親、3.9%は母子ともに一定程度以上の障害または傷病があります。また4.8%は子どもに障害・傷病があり、就労しにくいと思われます。

 それらを除外し、母子とも障害・傷病がない7万2416世帯だけを分母にして、就労者のいる世帯数を割ると、子どもを含めた実質就労率は67.4%という、かなり高い数字になります(障害・傷病があって就労している世帯もわずかにあるので、厳密な計算ではない)。

 このほか、子どもが3人以上の世帯が17.4%を占めます。さらに産前産後や、乳児を育児中の世帯もあります。公表されている統計データだけでは、きちんとした計算ができませんが、これまでに挙げた就労阻害要因のない母子世帯は、7割以上が働いていると見てよいでしょう。

その他世帯も、4割以上の実質就労率

 

 その他世帯はどうでしょうか。就労者がいるのは9万8189世帯で、単純計算した就労率は34.3%です。ただし、その他世帯には、いろいろな家族構成があり、世帯主が65歳以上の世帯が10.8%、世帯員に障害・傷病のある世帯が11.7%、世帯主か世帯員が介護扶助を受けている世帯が4.5%含まれています。母子と高齢者といった世帯もあります。統計データだけで正確な計算はできませんが、それらの阻害要因のない世帯だけを分母にした実質就労率は、4割以上になるでしょう。

 実人数で見ても、その他世帯の20~64歳で障害・傷病・入院・施設入所でない世帯主・世帯員計30万3884人のうち、10万0272人(33.0%)が就労しています。

働いていても、非正規雇用がほとんど

 

 就労している場合の実情はどうでしょうか。圧倒的多数は、非正規雇用です。

母子世帯で、雇用されている世帯主のうち、正規の職員・従業員は6.8%にすぎず、パート68.7%、アルバイト12.9%、契約社員・委託2.4%、派遣1.5%、その他7.6%となっています。

 その他世帯では、雇用されている世帯主のうち、正規の職員・従業員は7.3%、パート48.4%、アルバイト22.4%、契約社員・委託3.0%、派遣2.8%、その他16.1%となっています。「その他」の雇用には、日雇い・臨時雇いが含まれます。

 パートやアルバイトを中心とした非正規雇用では、もちろん給料が安い。だから足りない分を生活保護費で補ってもらうわけです。

雇用情勢の年齢格差は大きい

 

 統計データから見ると、高齢、年少、障害、傷病、産前産後、育児、家族の看病・介護といった阻害要因がなくて、就労していない生活保護の利用者は、全体の1割いるかどうかだと考えられます。その人たちは怠けているのでしょうか? 話はそんなに単純ではありません。

 働いていない原因として、まず挙げられるのは失業です。解雇、倒産、職場でのトラブル、病気など様々な理由で仕事を失った人が、すぐに次の仕事に就けるとは限りません。

 就職の大きな壁の一つは、年齢です。昔と違って年齢や性別の制限をつけた求人は原則禁止されており、年齢層別の有効求人倍率(求人総数/求職者総数)は出ませんが、実際の労働市場では、ずいぶん差があります。厳しいのは45~64歳の中高年、とりわけ男性です。

 かつて、大阪府の有効求人倍率が0.35と最悪だった時期に、55~64歳の年齢層は0.06という極端な低さでした(1998年12月)。100人が仕事を求めているのに、6人分の求人しかなかったのです。最近の雇用情勢は、非正規の求人が中心ながら好転していますが、全体の有効求人倍率だけを見て、だれでも簡単に仕事に就けるように考えると、実情を見誤ります。

 ハローワークや求人誌にバンバン求人が出ていても、中高年で特段の技術や資格のない人は面接してもらえない、たとえ面接にたどりついても不採用ばかり、ということがあるのです。あなたは必要ないと言われ続けると、メンタルにこたえます。

中高年は、谷間の年齢層

 

 その他世帯の世帯主の70.1%は、45~64歳の年齢層です(10.7%は高齢者)。

 この年齢層の人の大部分は、公的年金に加入している場合でも、老齢年金はまだ受け取れません。失業に伴う雇用保険の給付は期間が限られており、不安定雇用だった人だと、雇用保険の給付自体、受けられないことが少なくありません。仕事に就けない、雇用保険の給付がない、年金はもらえない、となると、もっぱら生活保護が頼りになるわけです。

 かつては生活保護も、65歳未満で働く能力のある人は、しばしば福祉事務所の窓口で不当に追い返されました。この「雇用と年金・福祉の谷間」は、90年代後半から2000年代半ばにかけて、中高年男性のホームレスが増えた大きな要因でした。

 リーマンショック後の09年以降、生活保護の手前で失業者を支援する制度がつくられました。現在は、<1>雇用保険を受給できない人向けの「求職者支援制度」(職業訓練を受ければ月10万円を最長2年間支給)<2>失業して住宅を失ったか、失うおそれのある人向けの「住宅確保給付金」(生活困窮者自立支援法により、家賃相当額を3~9か月間支給)――がありますが、利用期間が過ぎて、それなりの収入のある職につけないときは、やはり生活保護が支えです。

個人の能力には差がある

 

 もう一つの就職の壁は、個人の能力です。もともと人間には、生まれつき能力の差があります。育った家庭や環境にも、受けられた教育にも差があります。仕事をしてきた場合でも、身につけた技術や資格は人それぞれに違います。

 このごろ求人が増えたと言っても、単純労働は昔に比べて少なく、大半は何らかの技術、あるいはコミュニケーション能力を要求される仕事になっています。土木建設の肉体労働が長かった人に、いきなりITや接客の仕事は困難でしょう。調理師をやってきた人に、すぐ介護の仕事は無理でしょう。自分に適さない仕事にはまず採用されないし、かりに採用されても長続きしません。

 また、就労できない人、生活に困っている人の中には、障害認定を受けていなくても、知的な能力のやや低い人や、発達障害でコミュニケーションがうまくいかない人が相当います。長くひきこもりだった人もいます。重い病気でなくても、慢性の病気で通院が欠かせない人もいます。母子世帯では、DV被害の経験者が多く、精神的に弱っていることがしばしばあります。

 これらは、障害・傷病にカウントされないので、統計上は、働ける人のように映ります。

 個人の能力差が労働市場で問われるのは仕方ありませんが、公的扶助(生活保護)は、あらゆる人に最低限度の生活を保障するものです。個人の能力差そのものを自己責任、努力不足のように見て、保護受給者を怠けているように非難するなら、筋違いでしょう。問われるのは、いま現実に存在する個人の能力、世帯の条件に応じて、それぞれ可能な範囲の努力をすることです。

稼働能力の活用は、実際に就労の場を得られるかで判断

 

 能力の活用は、生活保護を受けるときの要件の一つです。働いて稼ぐ能力が十分あるのに、わざと働かない場合は、保護を申請しても却下されます。いったん保護を受けてからでも、就労の指導・指示を経て、保護の停止や廃止が行われます。福祉事務所の対応は、それほど甘くありません。

 問題は、いちおう労働能力があるけれど、なかなか仕事に就けない場合です。ホームレス状態の人や失業した人に対する保護申請の却下、あるいは保護停止をめぐって、名古屋の林訴訟、新宿七夕訴訟、長浜稼働能力訴訟、岸和田訴訟、静岡エイプリル・フール訴訟といった裁判が起きました。雇用情勢が厳しいとき、個人の能力が低いときに就労は容易でなく、保護を受けられないと生存にかかわるからです。

 それらの判例を通じて、<1>単に本人に働く能力があるかどうかだけでなく、<2>その能力を活用する意思があるか<3>その人が実際に就労の場を得られるか――の3点に照らして、個別具体的に判断するという考え方が確立しました。

 判例は、<2>について、求職努力の真剣さや方法が不十分でも、働く意思があればよく、<3>は、本人が申し込めば、直ちに仕事を得られる状況かどうかで判断する、としています。

 厚労省も、<1>は、年齢や医学的な面だけでなく、資格、生活歴、職歴などを把握して総合判断する、<3>は、地域の雇用情勢や世帯の育児・介護の必要性なども踏まえて判断する、としていますが、<2>に関しては「 真摯(しんし) な求職活動」を現在も求めており、判例とズレがあります。

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原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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