文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

医療・健康・介護のニュース・解説

睡眠障害の治療に期待…神経伝達物質「オレキシン」て何?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
睡眠障害の治療に期待…神経伝達物質「オレキシン」て何?

 謎に包まれた「眠り」の正体の一端を解き明かし、不眠症などの睡眠障害の治療に応用する研究が進んでいる。

 眠りと目覚めをコントロールする脳内の神経伝達物質のひとつ「オレキシン」は、筑波大の柳沢正史教授(55)らが1998年に米国で発見した。現在、この物質の研究をもとにした新薬が次々に誕生しつつある。

id=20160204-036-OYTEI50020,rev=2,headline=false,link=false,float=right,lineFeed=true

 「眠りと目覚めはシーソーのような関係。オレキシンは、そのバランスを決める物質です」。筑波大が2012年に設置した国際統合睡眠医科学研究機構の機構長を務める柳沢教授が語る。

 オレキシンは脳内の 視床下部ししょうかぶ で分泌され、「目覚めの司令塔」にあるオレキシンの受け皿「受容体」にくっつく。すると、「起きろ」という信号が出て、シーソーが目覚めのほうに傾く。逆にオレキシンが減ると信号も減って「眠りの司令塔」の活動が勝ち、シーソーが眠りのほうに傾く。

 柳沢教授と桜井武さん(51)(現・金沢大教授)らは98年、米テキサス大でオレキシンを見つけた。マウスの脳に注入すると食欲が増したため、ギリシャ語で食欲を意味する「オレキシス」からオレキシンと名付けた。

 オレキシンを作れないマウスは食べる量が減って体重が減るのでは――。「痩せ薬」の開発を念頭に実験を進めると、マウスの体重はさほど変わらず、むしろ異常な行動が目立った。走っている時や毛繕いの途中に突然、パタッと倒れて動かなくなり、急に回復して行動を続ける。

 突然強い眠気に襲われる病気「ナルコレプシー」と同じ症状だった。この病気の原因が、オレキシン不足であることがわかった。「オレキシンが睡眠に関係する物質だとは、最初は予想しませんでした。事実は仮説より奇なり、です」。柳沢教授はそう話す。

 そして今、関連の研究から、薬を創る試みが相次いでいる。

 オレキシンの受容体を別の物質で塞ぐと、オレキシンが結合できなくなって眠くなる。米製薬大手メルクの子会社MSD(東京都千代田区)はこの仕組みを利用した不眠症治療薬「スボレキサント」(商品名「ベルソムラ」)を開発、2014年から販売が始まった。

 オレキシンを増やせば眠気が吹き飛ぶ。だが、オレキシンの分子は大きいため、そのまま投与しても血管から脳に入らない。国際統合睡眠医科学研究機構の長瀬博教授(68)らは15年、オレキシンと同じ働きをする小さな分子を見つけ、マウスでナルコレプシーの症状改善に成功したと発表した。

 ナルコレプシーの患者の割合は1000~2000人に1人。長瀬教授は、「世界中の患者さんたちから、創薬を待ち望むメールが来た。一日も早く特効薬として世に出したい」と話している。

id=20160204-036-OYTEI50022,rev=2,headline=false,link=true,float=right,lineFeed=true

動物により異なる長さ

 睡眠は人間をはじめ多くの動物にとって必須だが、眠っている時間の長さは動物によって異なる。

 1日の合計睡眠時間は、人間は8時間程度。大型の草食動物は短い傾向があり、ウマは3時間、ゾウは4時間ほど。逆に睡眠時間が長いのは、20時間のコウモリ、14時間のナマケモノやハムスターなどだ。

 1度に8時間連続で眠る人間のような動物もいれば、ネズミなどのように短時間の睡眠を繰り返す動物もいる。

 どの動物も睡眠中は無防備な状態になるため、自然界では敵に襲われるなど身の危険が高まることになる。生物が長い進化を経ても、一定の時間眠らなければならない理由は、現在もまだよくわかっていない。

id=20160204-036-OYTEI50023,rev=2,headline=false,link=true,float=right,lineFeed=true

研究史に多くの日本人

 睡眠研究の歴史には、多くの日本人が名を連ねている。明治時代末期の1909年、眠気を引き起こす「睡眠物質」の存在を世界に先駆けて発表したのは、愛知県立医学専門学校(現・名古屋大)教諭だった石森国臣氏。睡眠不足状態にしたイヌの脳脊髄液を、別のイヌの脳内に投与すると、投与されたイヌが眠ることを発見した。

 83年には京都大の大学院生だった上野隆司氏が、当時京大教授で昨年末に95歳で死去した早石修氏の指導のもと、生理活性物質プロスタグランジンD2が睡眠を誘発することを発見した。

 早石氏はその後、研究拠点を大阪バイオサイエンス研究所に移し、当時の研究部長、裏出良博氏らと2005年、カフェインで眠気が覚める仕組みを解明した。

 米テキサス大にいた柳沢教授と桜井研究員らが98年にオレキシンを発見、その翌年にはオレキシンを作れないマウスがナルコレプシーを発症することを見つけた。米スタンフォード大の西野精治・上級研究員らもほぼ同時期に、ナルコレプシーのイヌにはオレキシン関連遺伝子の異常があることを突き止めた。

 (前村尚、森井雄一)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事