知りたい!
医療・健康・介護のニュース・解説
体内に入り病気を治す ミクロの決死圏?…SFを現実に
医師が細菌並みに小さくなって体に入り、病気を治す。SF映画「ミクロの決死圏」は、そんな空想を半世紀も前に実写化した。
冷戦下の米国の秘密軍事施設で、1時間だけ何でも小さくする装置が完成する。この時間を延ばす技術を持つ科学者が命を狙われ、頭に重傷を負った。脳外科医ら5人が小型化した潜水艇「プロテウス」で血管に潜入、治療を試みる――。
肝心なミクロ化の仕組みの説明が少々物足りないのは軍事機密のせい? それはともかく、ミクロ化した人間に襲いかかる免疫細胞と戦いつつ、時間内に治療し脱出する展開は、今見ても文句なく面白い。スパイ映画ファンにオススメする。
現実で医師が体に入るのは無理そうだが、腸に入り込んだかのように見える超小型カメラは実現した。
「2001年に初めて見た時、こんな医療機器ができたのかとびっくりした」
杏林大学病院(東京都三鷹市)の内科医、林田真理さん(48)が話すのは、口からのむカプセル内視鏡だ。
長さ約3センチ、見た目も潜水艇っぽい。自走はしないが、腸の動きで肛門まで到達する。07年に小腸用カプセルが保険適用された。
「体に入れる際の苦痛がない。CT(コンピューター断層撮影装置)で映らない潰瘍を見つけたこともある」。ただ治療はできない。患部を焼いて治療するレーザー銃を載せたプロテウスまであと一歩、か。
秘密施設もSFだし……と思っていたら、未来の超小型医療を創る「基地」が日本にあった。川崎市に昨年オープンした「ナノ医療イノベーションセンター」は、大学や製薬企業、医療機器メーカーなどが集まり、ナノ・メートル(100万分の1ミリ)単位の医療技術で病気を治す研究を行っている。
「映画の世界を現実にするんです」。センター長の片岡一則・東京大教授(65)は、若い頃に「ミクロの決死圏」を見て、医療工学者をめざしたそうだ。
片岡さんは、がん組織の血管は作りが雑で、普通の血管より大きい穴があることに着目。抗がん剤を脂で包み、血管からがん組織にしみ出るサイズに整え、がんを狙い撃つ薬を設計した。現在、臨床試験が進む。
極小技術を使う検査薬や治療薬は「ナノマシン」と呼ばれる。「様々なナノマシンが診断し治療する『体内病院』を実現させたい」と片岡さん。SFからまた一つ未来技術が生まれようとしている。
<ミクロの決死圏>
1966年製作の米映画。ミクロ化した原子力潜水艇と医師らが患者の動脈から心臓、肺を経て脳に入る活劇で、特殊視覚効果などの2部門で同年のアカデミー賞を受賞した。リチャード・フライシャー監督は「海底2万マイル」(54年)も手がけたSF映画界の巨匠。
(冬木晶)
【関連記事】