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ぬいぐるみの「旅」に癒やし 多忙・病気…本人に代わって
ぬいぐるみを持ち主から預かり、旅行やカフェなどの「体験」をさせるサービスが増えている。
病気や仕事などの事情で出かけにくい利用者は、ぬいぐるみが自分に代わって活動する様子に癒やされたり、励まされたりしているようだ。
埼玉県の公務員女性(49)は昨夏から、祖母の遺品のパンダのぬいぐるみ「パコ」と、幼い頃父にもらったクマのぬいぐるみ「カキ」を何度も旅に出している。夫婦で旅行するのが趣味だったが、夫(57)の病気が悪化し、5年ほど前から遠出しづらくなった。「自分の代わりにぬいぐるみが旅をしていると思うと、気持ちが楽になる」という。
ぬいぐるみ専門の旅行会社「ウナギトラベル」(東京)を利用。旅の様子をインターネットの会員制交流サイトなどで伝えてくれる。昨年秋には、祖母の写真を小さな風呂敷に包んでパコに背負わせ東京都内を巡るツアーに出した。離れて暮らす父(80)と母(78)に画像を見せたところ大喜び。父はスマートフォンの操作を習得して、パコとカキの旅を追うようになった。母は触発されて先月、初めて海外旅行をした。「ぬいぐるみにはすごい力がある」と女性。
「ウナギトラベル」代表の東園絵さんがサービスを始めたのは2010年。自分のぬいぐるみを人に預けて旅をする様子をブログにつづったところ大きな反響があったのがきっかけだった。利用者は、病気や忙しい人のほか、ぬいぐるみが好きな人、新たな楽しみを求める人など様々。料金は5000円前後が中心。東さんは「ぬいぐるみは家族のような存在。旅を楽しむ様子は、自分が新たな一歩を踏み出すきっかけになっているようです」と話す。
ぬいぐるみ専門のサービスは増えている。人間関係が作りにくい社会で、心のよりどころとなっているようだ。昨夏、東京都足立区にオープンした「やわらかん’s cafe」は、ぬいぐるみをもてなすカフェ。3日間預かり、食事やイベントの様子を持ち主に伝える。神奈川県の女性(35)は「仕事に追われて余裕がない時、ぬいぐるみが楽しそうにしているのを見ると癒やされる」と話す。完全予約制で、募集開始当日に埋まってしまう人気ぶりだ。
NPO法人「日本ぬいぐるみ協会」(横浜市)は、昨年からぬいぐるみのホームステイツアーを始めた。全国にいる会員が、希望者のぬいぐるみを預かり、その土地の観光地に連れて行く。病気などで外出できない人の心の支えになっている。
子ども向けには、全国の公立図書館で「ぬいぐるみのお泊まり会」がブームだ。図書館がぬいぐるみを一晩預かり、夜の間に絵本を楽しんでいる様子などを撮影し、翌日、ぬいぐるみを迎えに来た子どもたちに写真を渡す。子どもたちは自分が体験できない夜の図書館をぬいぐるみが体験しているのを見て喜ぶという。
入院中の子どもにクマのぬいぐるみを贈る活動を続けているNPO法人「日本テディベア協会」事務局長の
心の安全弁の役割
お茶の水女子大学教授(発達心理学)の井原成男さんの話
人は、現実の世界が厳しければ厳しいほど、自分の心の中の世界を豊かにすることでバランスをとる必要がある。
ぬいぐるみは、対話しやすいうえに、性別や性格があいまいで限定性がないので、持ち主が自由に世界を描くことができるのがいい。持ち主の身代わりとしてだけでなく、一緒に何かを体験して新たな世界をつくっていく時の相棒にもなる。
ぬいぐるみツアーなどの利用者にとって、ぬいぐるみは、心の安全弁のような役割を果たしているのではないだろうか。ストレスの多い現代、こうしたサービスは今後も増えていくのかもしれない。
家族の一員として
「やわらかん’s cafe」は昨年、サイトを訪れた100人を対象に、ぬいぐるみとの関係をどう考えているかを聞いた。「家族」が48%、「子ども」が11%。家族の一員のように感じている人が多かった。
一緒にいたい感覚
◎取材を終えて 5歳の息子はネコのぬいぐるみを大事にしている。寝る時は布団に入れ、起きるとリビングのソファに連れてくる。旅行に連れて行ったこともある。友達か家族のように感じているのかもしれない。
ぬいぐるみ好きには、大人も多いことを今回改めて感じた。一緒にいたいという感覚を持ち続けている。
息子は、いつまでぬいぐるみと一緒に寝るのだろうか。成長を見守る楽しみがまた一つ増えた。
(宮木優美)
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