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介護施設増 都市厳しく…用地や人材確保困難

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介護施設増 都市厳しく…用地や人材確保困難

需要伸び 不足拡大へ

 「介護離職ゼロ」を掲げる政府は、特別養護老人ホームなど施設を中心に、介護サービスの整備目標を引き上げたが、現行計画の達成さえ難しい状況が、読売新聞の調査で分かった。特に今後、高齢者の急増で介護サービスの需要が膨らむ都市部では、整備のハードルが高く、現場の苦悩は深い。

 ■ 200人分が12人に

 東京都豊島区は、2012~14年度に特別養護老人ホームを200人分、整備する計画だったが、実際には12人分にとどまった。工期の遅れなどで、二つの特養の完成が15年度にずれ込んだためだ。

 用地難で、区内に特養を新設するのは10年ぶり。小学校跡地などを利用し、開設にこぎ着けた。担当者は「地価が高く、まとまった土地もない。今後の新設は困難だ」と話し、区外の特養建設に向けて、埼玉県秩父市との協議を開始する。

 千葉市でも、昨年度末までに完成した特養は計画の66%。建設費高騰で採算がとれず、開設を希望する事業者が集まらなかった。

 人材不足も深刻だ。神奈川県内の特養では、12年に100人分を増築したものの、職員の採用がままならず、やむなく32人分のベッドを閉鎖している。施設長(74)は、「入居申し込みは約1500人に上る。家族からの切実な声も聞くが、再開のメドは全く立たない」と打ち明ける。

 読売新聞が昨年末、都道府県と政令市、東京23区を対象に実施した調査では、12~14年度に整備された主要な介護施設の定員数は約14万3000人分で、計画の約19万8000人の72%にとどまった。特に東京、大阪など大都市圏の厳しい実情が浮き彫りになった。

 政府は「1億総活躍社会」の柱の一つに「介護離職ゼロ」を掲げる。親などの介護で仕事を辞める人が年間約10万人いるとみられることから、特養などの新規整備目標を、20年代初頭までに従来の38万人分から50万人分に引き上げた。だが、実際は現行計画の達成すら難しい。

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 ■ 「渡りに船」?

 団塊の世代が全員75歳以上になる25年に向け、状況は一層厳しくなる。

 高齢者住宅のコンサル会社「タムラプランニング&オペレーティング」(東京)の推計では25年に、東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県では11万4000人分の介護施設が不足する。埼玉などで一部整備が進み、都心部の需要を吸収するが、追いつかない。

 また政令市について30年で推計すると、新潟、堺、京都、福岡などで、介護ニーズに対するサービスの充足率が85%を切るという。

 これに対し、国は国有地の低額での貸し出しや、施設に賃貸物件の利用を認める規制緩和も行う方針で、首都圏の政令市の幹部からは「施設開設のハードルはぐっと下がる。渡りに船だ」と歓迎する声も出た。

 ただ、整備目標の引き上げに伴い、必要な介護人材も当然、膨張する。政府はこれまで20年度の不足数を20万人と見込んでいたが、さらに5万人増えた。

 介護職員の月給は全産業の平均より11万円も低い約22万円。待遇改善を求める声は強いが、政府は、2年後の介護報酬改定まで賃金改善を先送りする考えだ。本紙調査に回答した自治体からは、「他の産業との格差が埋まらない限り、人は集まらない」「政府の示す対策では、効果は不透明だ」などの意見が集まった。(社会保障部 飯田祐子、野口博文)

整備加速方針 課題も…高コスト 保険料に反映

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 政府はニーズの高い特別養護老人ホームなど、施設の整備を重視しているが、介護保険を運営する自治体には悩みもある。東京都品川区の担当者は、「施設は建てれば50年は持つ。都心でも、その頃には高齢者の人口が減り始めている可能性があり、整備には慎重にならざるを得ない」と話す。

 また特養には、建設費の補助や低所得入所者の負担軽減などで、多額の公費が投じられている。介護サービス費も、在宅サービスより高くなりがちだ。

 本紙調査への回答では、政府方針通りに整備を加速した場合の課題として、「介護保険料の上昇」と「自治体の負担増」を挙げる自治体が多かった。

 65歳以上の保険料は、介護保険が始まった2000年には全国平均で月額2911円だったが、昨年4月には5514円まで上昇した。東京都内の区の担当者は「特養は住民の要望が高く、議会からも増やすよう言われているが、建てれば確実に保険料が上がる。高くて払えないという苦情との板挟みだ」と嘆く。

 介護の問題に詳しい高齢者住宅財団の高橋紘士理事長は、「高コストの施設を大幅に増やすのは現実的でない。空き家などを活用して在宅サービスを充実させたうえで、特養偏重の意識を変えていく必要がある」と話す。(手嶋由梨)

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