佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」
医療・健康・介護のコラム
高齢者の2割にベンゾ処方 118万人調査で判明
前回の記事「聖マリアンナの虚言」には多くのアクセスがあり、貴重な情報、証言が寄せられた。続報を近く掲載したい。
その前に、抗不安薬や睡眠薬の多くを占めるベンゾジアゼピンについて、改めて取り上げてみよう。依存性のあるベンゾを長期服用することで生じる害は、この2、3年で一般にもだいぶ知られ、慎重な処方を望む患者が増えた。以前はベンゾの長期処方の問題を書く度に、精神科医らに陰口をたたかれたものだが、書き続けた 甲斐 があった。だが、ベンゾに頼り切りだった医師たちが、そう簡単に治療内容を変えられるはずはない。医療経済研究機構の主任研究員、奥村泰之さんらが行った最新の大規模調査で、日本国内のベンゾの処方実態が明瞭に浮かび上がったので紹介する。
66%に1年後も処方
この調査は、国の科学研究費補助金を受けた「過量服薬の再発予防に向けた大規模レセプト情報を活用した臨床疫学研究」の一環。健康保険組合の加入者約118万人を2012年から追跡し、医療機関の外来でベンゾを処方された人の数などを調べた。その結果、1年間にベンゾを処方された人のうち、13%が2か所以上の医療機関でベンゾを処方されたことが分かった。また、1か所の医療機関でベンゾを処方された人のうち、66%は1年後もベンゾの処方を受けていた。
118万人のうち、12年10月から13年9月までの1年間に、医療機関(身体科と精神科。歯科は含まない)でベンゾを処方された人は5万8314人。全体の約5%にあたる。118万人の中には、この間に医療機関を受診しなかった人も多く含まれるので、医療機関を受診した人に絞って計算するとベンゾの処方率はもっと高くなる(118万人の中の受診者数や未受診者数は今回集計されていない)。
年齢上がると処方率も上昇
年代別で見ると、処方率が最も高いのは65~74歳。この年代の健保組合加入者1万7863人のうち、3366人にベンゾが処方されたので、ベンゾ処方率は約19%だ。この年代の高齢者の実に5人に1人が、ベンゾの処方を受けていることになる。
今回の調査対象は健保組合加入者なので、仕事をリタイアして国民健康保険に加入する高齢者よりも元気な人が多いと考えられる。そのため奥村さんは「高齢者全体でみると、ベンゾ処方率はもっと高くなる」とみている。
同様に、50~64歳のベンゾ処方率は、18万3259人のうち1万6933人で約9%。35~49歳では、38万1941人のうち2万5241人で約7%。20~34歳では、25万1251人のうち1万184人で約4%。0~19歳では、34万4047人のうち2590人で約0.8%だった。年齢が上がるにつれて高まるベンゾ処方率は、不眠の悩みが多い高齢者への処方の多さとともに、若い頃から数年、十数年、あるいはそれ以上続く長期処方の存在を暗示している。
日本老年医学会が2015年に改定した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」には「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」(対象は75歳以上。それ未満でも体力が著しく低下した高齢者は含む)が盛り込まれ、抗精神病薬や抗うつ薬、抗パーキンソン病薬などと共にベンゾが記載された。ベンゾの主な副作用として「過鎮静、認知機能低下、せん妄、転倒・骨折、運動機能低下」を挙げ、注意を喚起している。
だが、ベンゾを長年処方され続けた高齢者の中には、減薬すると頭痛や不眠などの苦しい離脱症状が出て、簡単にはやめられない人が多い。こうした長期処方の被害者たちにどう対応するのか。不適切な漫然処方を放置し続けた国や医療界の早急な対応が求められる。
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