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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(22) 保護世帯の8割は働けない世帯である

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 生活保護が増えて大変だ、という印象をお持ちの方は多いと思います。厚生労働省が生活保護の世帯数・受給者数を毎月発表しており、いちいち報道されるので、そういうイメージがよけいに強まります。生活保護の動向は、貧困の拡大を見る指標の一つとして重要ですが、日本の生活保護の受給率は、他の先進国の公的扶助と比べて低いほうです。むしろ、貧困層の中で生活保護を利用している人の率が低いことのほうが課題だと筆者は考えています。

 「働かずにお金をもらうのはけしからん」という声もあります。憲法上の権利にもとづく生活保護制度そのものを否定するなら別ですが、働いて稼げるのに保護を受けている人が、はたして大勢いるのでしょうか。保護を受けている世帯は、実際にどういう人々なのか、歴史的な推移を含め、公的データをもとに見ていきましょう。

90年代後半から増加に転じた

 生活保護の世帯数、実人員、保護率がどう変わってきたか、5年ごとの数字を拾い出して示します。 *データ出所=国立社会保障・人口問題研究所:「生活保護」に関する公的統計データ一覧。2015年は同年10月時点の厚生労働省「被保護者調査」と総務省統計局「人口推計」

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 図示したほうがよいのですが、この連載ではグラフを添えにくいので、 厚生労働省「社会・援護局関係主管課長会議資料」(15年3月9日開催)のうち、保護課分 の25~31枚目にある参考資料のグラフを見て下さい。人口の変動があり、世帯の少人数化・単身化も進んできたので、基本的な動向をつかむには、人口比の保護率を目安にするとよいでしょう。

 現行の生活保護法ができたのは1950年。戦後の貧しい時代で、しばらくは保護率が高かったのですが、経済の高度成長と社会保障の整備(公的年金・医療保険など)に伴って減り、75年から横ばいになりました。しかし85年以降、ガクンと減ります。不正受給の防止を理由に生活保護の「適正化」が強調され、「水際作戦」を含めた締めつけが強まったためです。バブル経済が崩壊して不況に入った90年代前半も、そうした締めつけの影響で減少が続きました。

 95年を底に、じわじわと増加に転じます。2000年代に入ってからは大幅な増加で、とりわけ08年秋のリーマンショック後は急増しました。増えてきた主要な要因は、無年金・低年金の高齢者の増加、失業、低賃金の非正規労働、ひとり親の増加といった「貧困の拡大」であり、もう一つは、水際作戦などによる違法な締めつけが減ってきたことだと考えられます。

 現在の保護受給者数216万人は過去最多ですが、昔よりは人口が多いので、人口比の保護率で見ると史上最高ではありません。近年の伸び方が頭打ちになったのは、雇用情勢の改善のほか、保護基準の引き下げも影響しているかもしれません。

高齢者世帯が5割を占め、障害・傷病の世帯を合わせると8割近い

 どういう世帯が増えたのか。世帯類型別に見た保護世帯数の推移を示します(データ出所は同じ。保護停止中の世帯を除いており、総数は先の表の数字と一致しない)。

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 世帯類型の定義は、次のようになっています。

高齢者世帯 =65歳以上の者のみで構成されるか、これに18歳未満の者が加わった世帯
母子世帯 =現に配偶者がいない65歳未満の女性と18歳未満の子のみで構成される世帯
障害者世帯 =世帯主が障害者加算を受けるか、心身の障害で働けない者である世帯
傷病者世帯 =世帯主が入院、または在宅患者加算を受けるか、傷病で働けない者である世帯
その他世帯 =上記のいずれにも該当しない世帯

 高齢で障害、母子で傷病など、複数の類型にあてはまる場合は、上のほうの類型に計上されます。

 数字だけではわかりにくいので、それぞれの世帯類型の構成割合の変化と、75年を100とした世帯数の指数も見てみましょう。

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 60年代までは、「その他世帯」がいちばん多く、日雇いなどで働く貧困世帯や子だくさんの世帯が目立ったのですが、だんだん減り、80年代半ばから、生活保護のほとんどは「高齢・母子・障害・傷病」のいずれかという様相になりました。働く能力のある貧困層が保護から排除されたとも言えます。

 95年以降の増え方が圧倒的に大きいのは高齢者世帯で、95年以降の増加分の半分以上を占めています。00年代に入って、その他世帯が伸びたのは、失業者など働く能力のある層の排除がある程度、是正されたためですが、数的にはそれほど多くありません。母子世帯の構成割合は下がっています。

 15年10月時点では、高齢者世帯が49.4%。障害・傷病の世帯が計27.3%です。

 ということは、世帯主が働いて稼ぐことを期待できない世帯が全体の76.7%にのぼるのです。これらの世帯に「働かないのは、けしからん」と言うのは、無理があるでしょう。

高齢者世帯は9割が単身、5割が無年金

 すべての生活保護世帯の状況を集計する「被保護者調査」は、毎年7月末時点で福祉事務所を通じて詳しい調査が行われます。以下、14年の調査をもとに、世帯類型ごとの実情を見ていきましょう。

 まず、保護を受けている高齢者世帯です。保護世帯全体でも77.3%が単身世帯ですが、高齢者世帯では、実に90.1%が単身。つまり、ほとんどが独り暮らしのおばあさん、おじいさんです(女性のほうがやや多い)。世帯主の平均年齢は74.9歳。世帯主の42.7%は障害または傷病があり、5.7%が入院、6.1%が施設に入所しています。また、保護を受けている高齢者世帯の51.1%は、無年金(各種の年金の受給額がゼロ)です。

障害・傷病の世帯は、精神疾患の割合が高い

 障害者世帯は、82.9%が単身。世帯主の平均年齢は52.4歳。世帯主の障害の種類は、精神障害49.4%、知的障害8.1%、身体障害42.5%で、世帯主の9.1%が入院、4.3%が施設入所です。また、障害者世帯であっても、51.7%は無年金です。

 傷病者世帯は、78.1%が単身。世帯主の平均年齢は54.5歳。世帯主の傷病は、精神病33.9%、アルコール依存症2.8%、その他63.4%で、世帯主の6.3%が入院、1.5%が施設入所です。精神病やアルコール依存症で障害者になっていないのは、生活保護制度上の障害者として扱う目安を、障害基礎年金の2級以上の状態としているためと考えられます。

母子世帯の3割は、障害・傷病あり

 母子世帯、その他世帯については、世帯類型の定義に注意が必要です。母子世帯の場合、母親が障害や病気を抱えているケースもあれば、子どもが障害や病気のケース、小さい子どもが複数いて就労しにくいケースもあります。

 14年調査では、世帯主の平均年齢は39.0歳ですが、その25.3%に障害か傷病があり、子どもに障害・傷病がある場合を含めると30.1%です。子どもの人数は1人が50.0%、2人が32.6%、3人が12.6%、4人以上が4.7%となっています。配偶者との関係は離別が74.6%と多く、死別は1.7%、その他(未婚など)が23.7%です。

その他世帯の世帯主は、中高年が7割、高齢が1割

 その他世帯は、世帯主に障害・傷病がなく、失業による困窮者が含まれるので、イコール働く能力のある世帯と解釈されることが多いのですが、そう単純ではありません。たとえば、世帯主が高齢者で18歳以上の障害・傷病の家族がいる場合、世帯主は健康でも家族が高齢・障害・傷病で、医療費がかさんだり介護が必要だったりする場合、父子世帯の場合、ひとり親で18歳以上の子どもや高齢者がいる場合、家族がひきこもりの場合など、さまざまなパターンを含んでいます。

 14年調査では、その他世帯の66.9%が単身。世帯主の年齢は、平均54.7歳と高く、65歳以上が10.7%いるほか、45~64歳が70.1%です。雇用情勢の厳しい年齢層が大半で、若い年齢層は少ないのです。また、11.4%は、世帯員に障害・病気があります。

働けるのは2割弱にすぎない

 結局のところ、母子世帯・その他世帯のうち、世帯主が65歳未満で世帯員にも障害・傷病がない世帯は、14年時点で30万弱。保護世帯全体(当時158万世帯)の2割弱にとどまります。

 実人員ベースで見ても、保護受給者全体(当時212万人余り)のうち、20~64歳の世帯主・世帯員で、障害・傷病のない人は、2割弱(41万人余り)です。

 これらの世帯には、働くべきだ、と言うべきでしょうか。なるほど、そうかもしれません。実は、そうした世帯では、現実に働きながら収入の足りない分について保護費を受けているケースが少なくないのです(詳しくは次回)。

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原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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