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脳卒中(上)ビッグデータで地域差縮小

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脳卒中(上)ビッグデータで地域差縮小

J―ASPECT Studyの取り組みについて語る飯原教授

 脳卒中の分野で、膨大な電子情報を扱う「ビッグデータ」を活用した先行研究「J―ASPECT Study」が注目を集めている。研究代表者を務める九州大脳神経外科教授の飯原弘二さんに、研究の目的や今後の展望について聞いた。

 ――研究を始めた目的は何ですか。

 「脳卒中は日本人の死亡原因として4番目に多く、寝たきりの高齢者の3割、介護が必要な人の2割を占めます。健康長寿社会を実現するため、脳卒中によって人生の終盤をハンディキャップを抱えながら過ごす人を減らしたいという思いからです」

 「一方で、日本では、医療資源が足りているのか、どのような診療が行われているかなど、脳卒中診療に関する全体像を把握できていません。そこでまず、対策の基盤とするための、全国的なデータの収集、分析に取り組むことにしました」

  ◇アンケートやDPC

 ――データはどうやって集めるのですか。

 「日本脳神経外科学会などの脳卒中診療施設調査に参加した全国749の病院を対象に、米国で運用されている包括的脳卒中センター(CSC)の要件について、充足率をアンケートしました。脳外科や血管内治療の専門医、診断機器、脳内血腫除去手術、脳動脈 りゅう に対するクリッピング手術などを実施しているかどうかや、集中治療室などの施設、教育体制など25項目です。回答を点数化(CSCスコア)して、各医療機関のセンター機能のレベルが分かりやすく見えるようにしました」

 「これとは別に、国が病気や治療法ごとに1日あたりの費用を定めている診断群分類(DPC)別包括評価のデータを、病院の協力を得て集めています。DPCデータからは、患者がどんな治療を受け、結果がどうだったかなどを知ることができます。両者のデータを分析することで、センターとしての体制が整っている施設ほど死亡率が低いことを示すことができました」

  ◇医療の質を可視化

 ――医療の質をデータでわかりやすく見せる(可視化)ことによって、どんな利点がありますか。

 「従来、『いい病院』を測るものさしは、症例数や死亡率が中心でした。ところが米国では、治療成績をよく見せるために、難しい症例は手がけないといった弊害も指摘されるようになりました。そこで、客観的なデータを収集、分析することで、〈1〉施設や専門医が整っているか(構造指標)、〈2〉標準的な治療法が守られているか(プロセス指標)、〈3〉治療結果としての死亡率(アウトカム指標)の、三つの指標を総合的に判断する取り組みが進んでいます」

 「分析結果は、それぞれの医療機関に戻され、各機関は、自施設の課題が分かることで、改善に生かせます。データ収集を継続して行い、これまでの4年間で、約20万件の蓄積ができました。脳卒中のうち、脳梗塞や脳内出血の死亡率が減少傾向にあるほか、各施設のCSCスコアが改善し、医療の底上げが図られてきていることが分かりました」

  ◇基本法の制定目指す

 ――今後の展望は。

 「データの集積や分析の積み重ねによって脳卒中治療のレベルが向上すれば、地域格差の縮小を図ることができると考えています」

 「また、日本脳卒中学会では、脳卒中対策基本法の法制化を求めています。分析結果は、制定についての要望書(13年3月)にも生かされました。基本法ができれば、より透明性の高いデータの集積や、高度な医療が提供できる脳卒中センターの整備、医療機関の連携体制構築などが進む可能性が広がります」

 <J―ASPECT Study>

 厚生労働省研究班「脳卒中急性期医療の地域格差の可視化と縮小に関する研究」の略称で、2010年度に開始された。脳卒中に関する様々な全国データを収集、分析することで、診療態勢整備の基盤とするほか、各病院の診療レベルの底上げを図る。

 (遠藤信葉)

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