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白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記

闘病記

(10)「普通の生活、とてもぜいたく」…退院目前に現れた二つの“障壁”

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 生着の後は、急性GVHD(移植片対宿主病)=連載4回目「苛烈な移植治療」参照=や感染症の発生を警戒しながら、免疫抑制剤(GVHDの予防に効果。ただし、感染症にかかりやすくなる)などの薬を減らし、点滴から錠剤に変えていくことになります。

 GVHDや感染症も落ち着き、食事がある程度食べられるようになって、体力も回復してきたら、いよいよ退院が見えてきます。退院後は、急性GVHDではなく、慢性GVHD(図表参照)への警戒が必要になるのですが、それは後の話。

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 生着から退院までの期間は、病院の説明資料では「60~100日」と幅があります。これは、GVHDや感染症などの有無、それが、重篤かどうかなどが入院期間に影響するためです。

 私は生着後も順調に白血球が増え続け、5月1日にクリーンルームを出て、一般病室の大部屋に移ることができました。病院の中はもちろん、風を感じながら周辺の庭などを歩けるのがうれしく、時間があれば、気晴らしと体力づくりを兼ねて、点滴ポールを引っ張りながらよく散策していました。

「卒業試験」の骨髄検査パス…早期退院の期待高まる

 5月12日には、骨髄検査が行われました。生着後、骨髄内で白血病細胞(がん細胞)がなくなっていることを確認するためで、医師の1人はこの検査を「卒業試験」と呼んでいました。退院に向けた最終試験という意味のようでした。骨髄検査は、局部麻酔しているものの、太い針が骨髄の中に入っていく時や抜く時の感触が、実に不快なものがあります。それでも、「これが入院中、最後の骨髄検査だ」と自分に言い聞かせ、気合を入れて臨みました。

 骨髄検査の結果は、感度の高い遺伝子検査のレベルでも白血病細胞は認められませんでした。分子生物学的完全寛解(連載2回目「急な発熱、白血病が再発」参照)の状態に達したのです。発熱、下痢、吐き気などはまだ時々ありましたし、疲れやすさは常態化していましたが、生着後の経過は順調でした。5月27日には、首のカテーテル(管)が外され、24時間の点滴からも解放されました。広い公園で首の鎖を外された犬がうれしそうに走り回る光景をよく目にしますが、その犬の気持ちがよく分かった瞬間でした。

 「6月初めにも退院できそうだ」。私の中で早期退院への期待が高まってきました。

 しかし、白血病との闘いは、そんなに甘いものではありませんでした。

頻繁にトイレ、いらだたしさとむなしさ

 5月下旬頃から残尿感が強くなり、しかも、尿に血が混じるようになってきました。トイレの回数も急に増えていきました。5月30日に移植後、初めて一時退院(1泊)を許され、約2か月ぶりに自宅へ帰りましたが、下痢もひどくなり、トイレに何度も足を運んでいるうちに貴重な一時退院の時間はあっという間に過ぎてしまいました。

 不安の中、31日に病院へ戻りました。下痢と頻尿が一層ひどくなり、トイレからなかなか離れられなくなりました。しかも、尿を出し終わる際、飛び上がるほどの激しい痛みも覚えるようになりました。尿検査により、ウイルスなどのせいで出血性ぼうこう炎になっていることが判明しました。「退院目前だったのに」と落ち込む私に、医師は「ぼうこう炎はこの時期に感染しやすく、しかもなかなか予防できないんですよ」とフォローしてくれました。

 6月1日夜の夕食後、大量に、しかも何度も吐いてしまいました。「腸もやられてしまったようだ。調べる必要がある」と医師。2日に大腸内視鏡検査が急きょ行われました。2リットルも下剤を飲まされ、検査に臨みました。結果は、腸内のあちこちが炎症を起こしており、急性GVHDの初期症状と診断されました。

 ドナー由来の新しい血液細胞が、私の腸の粘膜細胞を「敵」とみて攻撃してしまっていたのです。腸の粘膜が荒れると、腸の中のばい菌が粘膜のバリアを破って体内に侵入し、結果的に全身的なGVHDの要因にもなりかねないと、血液内科医の友人、O君からメールで知らされ、身をすくめました。

 腸炎による下痢と、ぼうこう炎。いずれも大敵なのに、両方を同時に相手にするのはつらすぎると何度もため息をつきました。しかも、目前だと思っていた退院の日が遠のき、いらだたしさとむなしさが胸の中で何度も交錯しました。

ステロイドで炎症治す…退院近づく

 腸のGVHD対策として、ステロイドの点滴が直ちに始まりました。ステロイドはぼうこう炎にいい効果を及ぼさないらしいのですが、「腸のGVHDの方が、深刻になるとやっかいなので、その治療を優先します。ぼうこう炎の方はもうしばらく我慢して」と医師から言われてしまいました。

 トイレで普通に用を済ませ、その後はトイレのことなど忘れて平然と生活していた日々が、とてもぜいたくで遠い昔のように思えました。トイレのことをいつも意識して苦しまなければならない日々がいつまで続くのか。やりきれない思いが募りました。

 しかし、幸い、ステロイド効果により、GVHDによる腸の炎症や下痢は6月9日ころまでにようやく治まってきました。薬を切り替え、ぼうこう炎もその約1週間後にはほぼ治りました。最大の障壁が二つなくなり、19~21日の一時退院も順調にこなし、正式に退院できる日がようやく近づいてきました。

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池辺英俊(いけべ・ひでとし)
1966年4月、東京生まれ。90年、読売新聞社に入社。甲府支局に赴任し、オウム真理教のサリン事件などを取材。96年、政治部記者となり、橋本龍太郎首相、小沢一郎新進党党首、山崎拓自民党幹事長(肩書はいずれも当時)の番記者を経て、外務省キャップ、野党キャップ、外交・安保担当デスクなどを歴任。2011年5月から政治部次長。著書に、中公新書ラクレ「小泉革命」(共著・以下同)、同「活火山富士 大自然の恵みと災害」、東信堂「時代を動かす政治のことば」、新潮社「亡国の宰相 官邸機能停止の180日」など。

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4件 のコメント

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もっと心の叫びを

福岡の車いすライダーです。

治療記、毎回拝見しています。医療については門外漢ですが、細かな治療内容をよくぞ日々まとめていらっしゃることに驚きと敬意を表します。ただ、あと2回...

治療記、毎回拝見しています。医療については門外漢ですが、細かな治療内容をよくぞ日々まとめていらっしゃることに驚きと敬意を表します。ただ、あと2回とのこと。原稿であるならば、ぜひ池辺節の心の葛藤と叫びを柱にまとめていただけることを切に願います。
治療内容もそうなのでしょうが、どう治療と戦ったのか、どう心を平常に保ったのか、どう家族が助けとなったのか・・・。冷静にあえて書かれていると思いますが
池辺さんの「生きるんだ」「病気に打ち勝つんだ」「また永田町の前線で旗をふるんだ」という熱を伝えてください。それが私の元気となるからです。これまでのシリーズの締めくくり。楽しみにしています。

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残りあと2回です

池辺英俊

今週も読んでいただき、ありがとうございます。 11月初めにスタートした闘病記ブログも、10回目の節目にきて、残りあと2回です。「苦しそうな治療が...

今週も読んでいただき、ありがとうございます。
11月初めにスタートした闘病記ブログも、10回目の節目にきて、残りあと2回です。「苦しそうな治療が続き、読む方もつらい」という話を、知人や友人からよく聞きます。たしかに、これまでは治療に絡む暗い話がほとんどでした。でも、11、12回目は、明るい話にして締めくくりたいと思います。長い入院生活をもとに、私なりに考えた元気になる方法、元気にしてくれた言葉を中心に書いていますので、ぜひ引き続きご覧下さい。
前回、コメントしてくれた「水色」さん、こちらこそ、また会ってお話しさせてください。また、急に登場して驚かせようかな(笑)。「カモレママ」さんからは、過分なお言葉をいただき、恐縮至極です。私もこの病気を患って以来、人生は有限で、1日1日をよりしっかり、明るく生きていきたいという気持ちが強くなっています。「普通の生活人」さんは、「普通の生活が本当にありがたいこと」と。この闘病記を読んで、そういう気持ちを持って頂けたのなら、筆者冥利に尽きます。とてもありがたく、拝読しました。

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貴重な体験記ありがとうございます。

カモレママ

私は(団塊世代の一人です)友人を二人、白血病で亡くしています。二人とも今のような治療がまだ可能ではありませんでした。 毎回のご様子を読ませていた...

私は(団塊世代の一人です)友人を二人、白血病で亡くしています。二人とも今のような治療がまだ可能ではありませんでした。
毎回のご様子を読ませていただいて、記録を取るのも、ペンを握るのも大変でしょうに、一回、一回を丹念に綴って下さって、正に真のジャーナリストとして、頭が下がります。このご手記に、白血病の方も、そうでない難病で戦っている方もどれだけ勇気づけられているでしょうか。
私も毎回読ませて頂いて、一期一会ではありませんが、もっと、一瞬一瞬の生や出会いを尊ばなければならないと思わせて頂いております。
多くの方に勇気を与えてくださってありがとうございます。

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