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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

yomiDr.記事アーカイブ

箱根駅伝の視聴率と患者数調査の共通点

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 明けましておめでとうございます。

 今年も毎週エッセイをアップしていきますので、よろしくお願い申し上げます。

 僕のお正月休みは特別ご報告することもなく、日頃できないような雑務をこなしたり、ちょっとのんびりしたりしてずっと東京で過ごしました。そんな時に見るお正月恒例の中継は箱根駅伝ですね。特段なにをすることもない正月らしい午前中は自然と駅伝を見ます。スポーツ中継ですから、録画をして早送りで、不要なところを飛ばしなが見るというスタイルは面白くなく、やっぱりライブで感動を味わいながら、そしてだいたい仕事をしながら、つまり原稿を書きながら自宅で観戦するタイプです。僕の友達の中には相当の箱根駅伝好きがいます。箱根に泊まって応援をすることにはまっている人もいれば、読売新聞社の近くで応援をする人もいます。それぞれの観戦スタイルで楽しめばいいですね。

サンプル数増やせば誤差が減る

 箱根駅伝の視聴率は約28%だったそうです。すごいですね。視聴率とはどのくらいの世帯がその番組を見ていたかという数字です。テレビの電源がオンで、画面が映っている世帯の中の割合ではなく、テレビのオン・オフに関係なくどのくらいの世帯がその番組を見たかの指標です。ですから、ある番組を見ている割合なので、ほぼ国民全体の数、つまり1億2000万人に視聴率を掛けるとその番組を見ていた人数の概数がでます。そうすると箱根駅伝はだいたい3400万人が見ていたことになります。たくさんの方がこの正月恒例のイベントを見ているのですね。

 ところで視聴率の測定方法をご存じですか。現在、視聴率はビデオリサーチ社のみが測定を行っていますので、詳細はビデオリーチ社のHPを見て下さい。

 これによると、関東、関西、名古屋、札幌、仙台、福島、新潟、静岡、岡山・香川、広島、北部九州の11地区では毎日調査されています。そして関東、関西、名古屋では600世帯に、他の8地区では200世帯に測定用の機械が設置されています。たったそれだけの数字で、日本全体の概要を把握できるの?と疑いたくなりますよね。でもそれだけの数字で結構当たるのです。結構というのは、当然誤差が生じるということで、それは機械の設置をお願いする家庭を増やせば増やすほど、誤差は減るのですが、だいたい数千のサンプル数(標本数)があると、ほぼ誤差は許せる範囲となりOKということです。サンプル数が600では、視聴率が5%の時は誤差は±1.8%、視聴率が30%の時は誤差は±3.7%だそうです。新聞社やテレビ局が行う世論調査のサンプル数が、だいたい2000から数千であることも同じ理由です。すべてを調べることを全数調査と呼びますが、テレビは地デジ放送になり双方向なのですから、少々工夫をして全数調査の視聴率がリアルタイムでテレビの隅にでも映るといいですよね。そうすれば、今一番見られている放送局がどれかが瞬時にわかります。そうすれば、その番組をチラ見したくなりますね。そう遠くない将来にそうなるだろうと思っています。

早急に全数調査できる体制を

 さて、ここからが医療のお話。ある疾患の患者数をどうやって把握しているかということです。今、病気があって、そして通院中であれば、厚生労働省が患者調査を行っています。この調査もすべての病院やクリニックを調べるのではなく、つまり全数調査ではなく、サンプルからの推測値になっています。

 調査結果は主な傷病の総患者数として厚生労働省のHPで見ることができます。

 この中には悪性新生物 162万人、糖尿病316万人、高血圧性疾患1010万人という数字が見て取れます。これも、実は全数調査ではないので当然に誤差が生じます。患者調査の目的は、これも厚生労働省のHPで示されています。「病院及び診療所を利用する患者について、その傷病の状況等の実態を明らかにし、医療行政の基礎資料を得る」あります。そうであれば、やっぱり全数調査をしたいですね。多くの医療費は公のお金から支出されています。つまり医療データは個人のものでもありますが、国民の共通財産と思っています。医療保険でカバーされている情報はコンピューターでつなげばすべて全数調査ができます。また、もっと細かい情報、つまり検査データや体重、身長、喫煙歴、職業歴、併存疾患などからも疾患との関連性が推測できるようになります。全数調査は今風に言えばビッグデータということです。ある限られたサンプルからの情報ではなく、そして調べたいことを先に決めて情報を集めるのではなく、全てのサンプルから、いろいろな相関が導き出せるのが全数調査の利点と思っています。どんな生活が、どんな医療介入が本当に長生きに、健康寿命の延長に、そして医療費の抑制に役立つかが実際に判明するのです。僕は国民皆保険の医療制度の維持が医療費の増大で危険な状況にある今日、早急に全数調査をできる体制にしてもらいたいと願っています。それが何より正しい医療情報にて、国民の健康の維持・増進、そして無駄な医療費の削減には不可欠と思っています。今日はサンプルからの推測値と全数調査のお話でした。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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