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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第27話 性的マイノリティー版 年末年始の過ごし方

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今年、LGBTブームは終わるか?

 明けましておめでとうございます。

 7月に始まった連載も27話目。編集部より、「そろそろご退席を」と引導を渡されないところをみると、みなさまがご愛読くださっている模様(笑)。心より感謝いたします。

 昨年は東京の渋谷区や世田谷区で同性パートナーシップの公認制度がはじまり、「LGBTブーム」ともいうほど性的少数者の問題がメディア上でも話題となった一年でした。携帯会社や保険会社が同性パートナー向けサービスを開始したり、社内で福利厚生を同性パートナーにも広げたり、研修に取り組む動きも報じられています。

 私はライターのかたわら行政書士事務所も開設していますが(プロフィル欄ご参照)、まだまだ法的書面やその効力に関する認知が高くない中、当事務所でそれでも何組か、ゲイやレズビアンのかたの公正証書作成のお手伝いをさせていただきました。

 公証人から「おめでとう」と声をかけられて恥ずかしそうにしていた若いカップル。おなじく公証人による遺言の読み上げを聞きながら目頭を押さえていた、カップル歴30年以上にわたる60代のゲイのかた。書面に込められた一組一組の尊い人生を思い浮かべながらの貴重な経験となりました。

 あわせて昨年は、久しぶりに本を出しました。『ふたりで安心して最後まで暮らすための本 ~~同性パートナーとのライフプランと法的書面』(太郎次郎社エディタス)。お金、医療、老後などについて、現状の制度のなかでなにができるのかをまとめました。

 友人らとともに運営している性的マイノリティーの老後を考えるNPO法人「パープル・ハンズ」も、現在、3期目の活動です。郵便貯金でおなじみの一般財団法人ゆうちょ財団さんの助成金をいただき、性的マイノリティーの現状に即したライフプラン講座などを行ったり、一足先に性的マイノリティーの高齢期の課題が浮上しているゲイのHIV陽性者サポートを切り口に何度か講演の機会をいただきました。

 冒頭に述べたように昨年は「LGBTブーム」でしたが、ブームはいつか終わります。情報が加速化している現代は、今年中にも忘れられるかもしれません。しかし、私を含む当事者にとって性的マイノリティーであることは、生涯にわたる人生の重要な一面です。

 性的マイノリティーの存在が、これからこの国の「あたりまえ」となるのかどうか。そんなことに役立つ視点を含んだ記事を、これからも毎週お届けできればと願っています。

「家族」が強調される年末年始

 さて、年末年始をみなさまはいかがお過ごしだったでしょうか。

 まちがにぎわいを見せ、人の移動が激しくなるこの時期は、性的マイノリティーにとっての「鬼門」です。

 年末年始は家族がそろう時期。こたつに入り、母親の手作りの年越し料理・おせちを囲み、きょうだいやその配偶者と杯を交わし、はしばしに「家族の絆」を強調するテレビ番組を眺めて「一家団らん」。年が明ければ子どもやおい・めいにお年玉をやり、その年の結婚や出産、入園・入学の予定など「家族の年輪」を話題にし、「家族繁栄」を願う……。

 結婚をせず、ひとりのままの性的マイノリティーには、身の置き所のない思いでしょう。帰省時にあわせて行われる同窓会も、家族の話題が出る点はおなじでしょう。もちろん、カミングアウトしたりパートナーを家族に紹介している人もいますが、圧倒的多数はカミングアウトも難しく、事情を聞かれるのが苦しくて実家に寄り付かなかったり、告げたところ親やきょうだいの拒絶にあって疎遠な状態が続いている人も少なくありません。

 トランスジェンダーで見かけが変化している場合も、大きな困難があります。

 警察庁の自殺統計によれば、12月や1月は他月にくらべてかならずしも自殺が多い月ではありませんが(最多は3月。主要な自殺者は中高年男性で、経済問題が上位だからか)、この時期、死にたいような孤立感を抱く性的マイノリティーは少なくないでしょう。

自分たちでつくる家族

 そんな年越し問題を、私たちはさまざまな工夫で乗り越えようとしてきました。

 ゲイタウンとしても知られる新宿2丁目では、恒例の「女装紅白歌合戦」が第14回を迎え、ドラァグクイーンの芸達者たちが歌と笑いと安さを競って盛り上げるほか、多くのゲイバーが終夜営業を行い、帰省しない/できない常連客たちの安らぎの場となっています。年が明ければ終夜運転の電車で初詣を恒例にしている店も。

 友人どうしの年越し宴会を定例にする人も多い。誰かの家に持ち寄りで集まり、紅白を眺めながらキャッキャと批評し、最近はそれをツイッターで「中継」するのも楽しみのうち。私のタイムラインにも、幸子があーだの、美輪さまがこーだのと、さまざまな声が流れてきました。

 私もこの10年は、友人と3人での年越しが恒例ですが、1990年代には参加していたゲイサークルが年末合宿を行い、秩父の鉱泉宿を定宿に30人近くで過ごしたものでした。日中は活動の学習会やドッジボール大会(懐かしさと設備いらずで大ウケ)、夜は宴会。明ければみんなで近所の神社へ初詣。百人一首大会、ゲーム、福引、隠し芸などなど、ベタですが、実家との寂しさをまぎらす工夫をこらした小旅行でした。

 大先輩格の、あるゲイ雑誌編集者が参加して、赤い造花が緑の造花に変わる手品を演じてくれ(BGMはもちろん「オリーブの首飾り」)、「赤い共産主義運動は、いまや緑のエコロジー運動へ変わりました」とのMCに大笑いした記憶があります(時代が感じられます)。

 家族がないなら、みんなで家族になればいい――。どこかでそんな声が聞こえていた思い出です。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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1件 のコメント

1人それもいい

カイカタ

なぜ敢えて1人は寂しく悲しいと決めつけるのでしょうか? 1人はいいものです。友人や恋人は探すものではなく出来てしまうものではないでしょうか? 誰...

なぜ敢えて1人は寂しく悲しいと決めつけるのでしょうか? 1人はいいものです。友人や恋人は探すものではなく出来てしまうものではないでしょうか? 誰も信頼できないのであればそれでいいのです。家族は選べない仲だから上手くいかない場合があって当然。悩むことありません。ただ食っていくためには人とのつながりが必要でしょう。その確保には熱心にならないと。セックスは、割りきって遊びでする相手とのみでいいのでは。求めず自然にマイペースに、ありのままでいいと思います。 年末年始も平常時も変わりありません。

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