文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記

闘病記

(9)「高く、険しい山越えた」…生着に思わず涙

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 デイ・ナイン・フィーバーを乗り切ると、いよいよ移植後、重要な節目といわれる生着が焦点となります。

 生着は、移植された新しい造血幹細胞から血液が造り出されることですが、正確には、白血球が1000/μl(マイクロリットル)を超えた日、または、白血球中の好中球数が500/μlを超えた日が3日続き、その最初の日が生着の日になると説明を受けました。

 一般に移植後、1週間ほどで白血球はゼロに近くなります。私の場合は移植5日目の4月8日にほぼゼロとなり、以後、原則週3回の血液検査の結果を聞くときは、入試結果を待つようにドキドキしました。仮にずっと白血球が増えなかったり、一時的に増えても後に減少したりした場合は、生着不全として移植失敗、やり直しという最悪の事態を迎えてしまうからです。

 しかも、さい帯血移植の場合、生着不全の確率は10~20%。骨髄移植、末梢まっしょう血幹細胞移植の3%未満と比べ、ずっと高いのです。生着不全はこれまでの苦しい治療の積み重ねが水泡に帰すことを意味します。移植治療をはじめからすべてやり直し…。それがもし現実になったら…。こんなことを想像すると、とても精神的に耐えられる自信はありませんでした。

「こんなペースで大丈夫ですか?」…白血球増えずイライラ

 白血球がゼロの状態で感染は大丈夫かと、心配になることもありましたが、その都度、手洗い・うがいをして、不安の払拭に努めました。ただ、この時期は感染も気になりましたが、それ以上に、本当に白血球が増えて生着できるのかが、最大の関心事でした。

車いす生活の精神科医、阿部憲史さんを紹介した読売新聞社会面の記事(2015年4月12日朝刊)

 移植10日後の13日に白血球の量はごくわずかですが、上昇し始めました。「やった」と思わず声を上げましたが、その後は少しずつしか増えず、ほぼ横ばいの日もありました。移植から2週間たっても、白血球の量は、生着基準の10分の1強ほどしかありませんでした。思わず医師に「白血球がこんなペースで大丈夫でしょうか」と心配になって尋ねると、「ある段階から急速に上昇しますから。焦らないことです」。そう言われても、つい焦りが先行してしまいます。

 不安とイライラが募っていたこの頃の私を励まし、力を与えてくれた出来事が二つ、ありました。

 一つは、12日の読売新聞朝刊社会面で、「車いす先生 絶望と闘う」との見出しが付いた記事を読んだことです。大学時代、ラグビー大会で大勢の選手の下敷きになり、「第4、第5頸椎けいつい脱臼骨折」と診断され、手も足も動かせなくなり、車いす生活を余儀なくされた医師、阿部憲史けんしさん(記事掲載時55歳)の話です。病院の片隅で一人涙を流した時期、親に向かって怒鳴どなるなど荒れた時期を経て、医師国家試験に合格。精神科医師として妻と一緒に診療に励む日々が紹介されていました。

 悲惨な運命に決して負けず、立ち向かっていく阿部医師の姿勢に感銘を受け、とくに「運命を背負い、その中で最高の人生を模索しよう」というメッセージに感動し、思わず、記事を切り抜いて病室の壁に貼りました。

娘たちが誕生日に贈ってくれた色紙

 二つ目は21日、娘2人から誕生日プレゼントが届き、初めてこの日が自分の誕生日だと気づきました。「HAPPY BIRTHDAY パパ」「来年は一緒にケーキ食べようね。早く帰ってきて。待ってま~す」と書かれた色紙。私が富士山に計9回も登り、「活火山富士」という本を書くほどの「富士山ファン」であることから、富士山のイラストが大きく描かれていました。この色紙は、私にとって一服の清涼剤となり、「車いす先生」の記事の隣に飾りました。

久しぶりの安らぎ、充実感…移植3週間目に生着

 そして、ちょうど移植から3週間目となる4月24日。医師の言った通り、前回検査時の約3倍の880/μlと一気に急上昇し、生着基準の一歩手前まできました。さらに、27日には、基準値の倍以上の2700/μlとはね上がりました。ただ、生着認定の日は、「白血球中の好中球数が500/μlを超えた日が3日続き、その最初の日」との基準が適用され、27日ではなく、24日付となりました。

 生着したと正式に知らされた27日は、体調のいい日ではありませんでした。むしろ、疲れとだるさがずっと抜けず、一日中ベッドでぐったりしていました。でも、看護師らから次々に「おめでとうございます。よかったですね」と祝いの言葉を言ってもらううちに、緊張が緩み、これまでの不安と苦労の日々が思い出されて、入院以来、初めて目頭が熱くなりました。

 真っ先に妻に生着報告のメールをし、その後、いつも見舞いのメールをくれる友人、知人に次々送信しました。

 生着は長い闘病の中の一通過点に過ぎませんが、険しい大きな山を一つ越えたような、充実感と安堵あんど感がありました。その夜は、久しぶりに安らかに眠ることができました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記_201511_120px

池辺英俊(いけべ・ひでとし)
1966年4月、東京生まれ。90年、読売新聞社に入社。甲府支局に赴任し、オウム真理教のサリン事件などを取材。96年、政治部記者となり、橋本龍太郎首相、小沢一郎新進党党首、山崎拓自民党幹事長(肩書はいずれも当時)の番記者を経て、外務省キャップ、野党キャップ、外交・安保担当デスクなどを歴任。2011年5月から政治部次長。著書に、中公新書ラクレ「小泉革命」(共著・以下同)、同「活火山富士 大自然の恵みと災害」、東信堂「時代を動かす政治のことば」、新潮社「亡国の宰相 官邸機能停止の180日」など。

白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記の一覧を見る

5件 のコメント

コメントを書く

今年もよろしくお願いします

池辺英俊

今回も多くの方に読んで頂き、ありがとうございます。生着という明るい話で新年最初のブログがスタートすることができて、よかったと思っています。正着し...

今回も多くの方に読んで頂き、ありがとうございます。生着という明るい話で新年最初のブログがスタートすることができて、よかったと思っています。
正着したときは、「これで退院まで一直線」と思ったのですが、そう甘くはなかったのです。つらく、と~っても痛い日々が待っていました。詳しくは次回をお読みください。
コメント、いつもパワーをもらっています。「saicontan」さん、同じさい帯血移植仲間として、油断せず、でも、悲観せず、1日1日をともにしっかり生きましょう。「ひとりの読者」さんからは「負けないでください」。はい、負けません!若い血液でパワーアップするくらいの気持ちでがんばります。「まっちゃん」さんからは、妻や家族の側から見た話を、とのご提案。以前、別の方からも同じ趣旨のメールを頂戴しました。このブログの原稿は真っ先に妻に渡しています。入院中も今もいつも明るい妻ですが、まだ「原稿を読むとすぐ胸がいっぱいになってつらくなる」と申しております。振り返るにはもう少し時間が必要なようです。ご理解、ご容赦いただければ幸いです。

つづきを読む

違反報告

ありがとうございます。

水色

初めてコメントいたします。昨年末、思いがけず池辺さんとお会いすることができ、その前からこちらを拝読していたので、初対面ながら昔からの知り合いのよ...

初めてコメントいたします。
昨年末、思いがけず池辺さんとお会いすることができ、その前からこちらを拝読していたので、初対面ながら昔からの知り合いのような気持ちになりました。
家族が同じ病気を患っていましたが、寄り添うだけで、本人が日々思っていたことは、自分の想像を超えることはありませんでした。
でも、池辺さんの闘病記から、その当時の本人の気持ちが分かるようで、今の私にはありがたいです。
これからも読み続けます。またお会いしたいです。

つづきを読む

違反報告

高く、険しい山越えた

saicontan

生着おめでとうございます。以前より、池辺氏のコラム読んでいます。実は私も昨年の9月3日に臍帯血移植を行い、9月25日に生着が確認され11月10日...

生着おめでとうございます。
以前より、池辺氏のコラム読んでいます。
実は私も昨年の9月3日に臍帯血移植を行い、9月25日に生着が確認され11月10日に退院後、
外来治療を現在継続しています。
池辺氏の1日も早い退院を願っています。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事