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懐かしさ 患者の心に癒やし…風景写真や動画、医療・福祉現場に

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病と向き合う自信にも

タブレット端末で紅葉の写真を見せながら、入所者と話す牛尾さん(福岡市の介護付き有料老人ホームで)=大原一郎撮影

 四季折々の草花に、棚田や里山。医療や福祉の現場で、懐かしさの漂う風景を写真や動画にして提供する取り組みがある。患者や家族を癒やし、人と人のつながりも生んでいる。

 「ふるさとの茶畑ですよ」

 11月下旬、福岡市の介護付き有料老人ホーム。同市の八木病院顧問の医師牛尾恭輔さん(71)が、タブレット端末を手に往診に訪れた。入所者の女性(88)は、左手を口にあてて、感極まった表情を見せる。「学校の遠足で行きよった。もう足が言うことをきかん。よう見えます」

 この動画は、NPO法人「癒し憩いネットワーク」がインターネットで公開するデータベースの作品だ。データベースには、主に牛尾さんが長年撮影してきた写真も含めて約25万点が収録され、季節や地域で検索もできる。

 ホームでは時折、みなが集う部屋のテレビで、作品を鑑賞する。施設長の芳賀達也さんは「感情が乏しく会話の少ない人も生き生きとし、思い出を語り始めることもあります」と話す。

 データベース作成の原点は、牛尾さんが、画像診断医として歩み始めた1970年代。専門とする遺伝性の病気の患者の診療を続ける中、子孫への影響を心配する姿を目のあたりにした。医師として、一生病気と向き合う患者や家族の心を癒やせないかと思った。

今年出版した画像集を手に話す牛尾さん

 その思いを抱きながら撮影を続け、2001年12月、九州がんセンター副院長時代に公開を始めた。その年の9月に米同時テロが起こり、世間にも重い雰囲気が漂う中、「今こそ画像による癒やしだ」と決めた。作品をまとめた冊子を作り、緩和ケア病棟のある病院などにも送った。

 牛尾さんは「『どこの出身ですか』とか『思い出の場所はありますか』と尋ね、ゆかりのある画像を見せると、患者が心を開く糸口にもなる」と話す。

 福岡市の主婦(86)は、13年に、がんでみとった姉の病室に、牛尾さんが入ってきた時のことをよく覚えている。声がよく出ない姉に代わり、娘が嫁いだ北陸へよく旅行していたことを伝えた。牛尾さんが端末で、雪景色の兼六園や白川郷の写真を見せると、姉の表情が和らぎ、「ありがとう」とはっきりと述べた。その後も、牛尾さんの訪問を姉妹で心待ちにし、いろいろな画像を楽しんだ。

 「愚痴一つ言えない姉の姿に心が痛むことも多かったけれど、安らぐ時間もあったことが救い」と話す。

 精神科医としてがん患者の診療にあたる国立がん研究センター(東京都中央区)支持療法開発センター長の内富庸介さんは「人生を振り返る作業は、死を意識せざるを得なくなったがんなどの患者には、病と向き合う自信やヒントを得るためにも必要。記憶を想起させる画像が、その助けになる」と評価する。内富さんも、初めて診察する患者にはまず、人生を回顧してもらう。「医師も人生を共有することで、患者さんが、どう生きたいか、どんな治療を受けたいか理解を深めることができる」と話している。

 ■メモ 癒し憩い画像データベース(http://iyashi.midb.jp/)は今年、DVD付きの4冊の画像集「写真でつづる癒し憩い1~4」(海鳥社、各2000円税別)が出版された。問い合わせはNPO法人癒し憩いネットワーク(電話・ファクス092・555・8520、info@iyashi-ikoi.net)。(中島久美子)

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