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HIV陽性者団体の代表、高久陽介さん

編集長インタビュー

高久陽介さん(4)声を上げる、社会に発信することの意味

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HIV陽性者団体の代表、高久陽介さん

 2008年にエイズ予防財団に研究職として就職した高久さんは、同じころから、日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラスでもHIV陽性者の調査活動に真剣に取り組むようになった。

 「それまでは、陽性者の声を拾うのは、医療者ばかりだったので、医療提供側の目線でしか拾っていなかったんですよね。治療の効果とか、合併症や副作用がどうかとか、それも必要な情報ではあるのですが、当事者にとってはそれだけが重要ではない。エイズを発症して入院した場合はともかく、私たちの生活は、当然のことですが、大半の時間はプライベートな時間なんです。病院には1か月から3か月に1回通うぐらい。私生活の中でどういう問題を抱えているのかの方が、私たちの実感からすればずっと大きいわけですよ。それなのに、肝心のそこについての調査はほとんどない。当事者としてはそれをまずやらなくてはいけないと思いました。そう思っている人はほかにもいて、今、ジャンププラスの理事でもあり、薬害エイズ事件の支援活動から研究者になった放送大学の井上洋士教授(健康社会学)も同じことを考えていました」

 最初に取り組んだのは、HIV陽性者が長期にわたる療養生活で何を感じ、どういうふうに家族や周囲の人たちと関わってきたかをグループインタビューでまとめた冊子作りだった。HIV支援を行っているNPO法人「ぷれいす東京」とジャンププラスの共同プロジェクト。冊子の名前は「人とつながる 社会とつながる」にした。

 「当時も治療はどんどん良くなっていたのに、自分も含めて陽性者は精神的な問題を抱えている人が多かったのです。生きづらさの理由が、医療の問題ではなく、社会生活の問題になりつつあった。私も薬を飲み始めた頃は、眠れなくなったりとか悪夢を見たりとか薬の副作用がしんどかった時期もありましたが、隠しているという罪悪感など社会生活での生きづらさに長く苦しみました。周りでも、感染がわかって交際がだめになったり、友達が疎遠になったり、恋愛をあきらめたり、解雇されたりなど色々な問題を抱えている人がいる。それらの中には、人とのつながりで救われることもたくさんあると思うんです。ですから、カミングアウトしてみたら結構大丈夫だったとか、そういういい体験談もたくさん盛りこもうと思いました。みんなカミングアウトした方がいいよとは思わないですが、人とつながるといいこともたくさんあるよ、人をもっと信用してもいいかもしれないよとは伝えたかったですね」

 この冊子は治療の拠点病院など医療機関中心を配り、後から「読んだよ」「読んで良かった」という声もたくさん聞いた。

 数百人レベルのアンケートはジャンププラスで何度も行い、ホームページなどで公開してきたが2012年からは、さらに大規模なインターネット調査の準備を始めた。「Futures Japan(フューチャーズジャパン)HIV陽性者のためのウェブ調査」だ。Futuresというのはオーストラリア発祥の当事者大規模調査で、その結果は、HIV/エイズの社会政策にも反映されていると聞き、日本でもやろうとジャンププラスも協力して取り組むことにした。当初から調査チームには陽性者20人が加わり、質問項目から、協力者の募集方法、結果の広報の仕方まで、当事者目線を徹底的に貫いた。

 「これまでやっていた規模の調査では、調査研究としては評価が低いらしいので、日本の陽性者の数から考えて1000人規模のアンケートを取ろうと目標を定めました。300近い質問を作り、性行動やメンタルヘルス(心の健康)については私たちの大きな課題なので、かなり詳しく聞いています。子どもを持つ希望や、介護への不安まで幅広く尋ねました」

 2013年7月から半年間調査を行って、国内913人の回答が集まった。陽性者の生の、切実な声がそこから浮かび上がってきた。

 「一番は、やはり心の健康が良くないということでしたね。患者を診る医師の間では語られてきたと思いますが、HIVやエイズという病気の持つ負のイメージの重さ、スティグマが大きいのですね。それが、メンタルの問題に影響しているということはすごく感じました。この病気がまだただの病気になっていないということがわかります」

 調査の結果、医療機関で心の悩みについて相談した経験がある人は42%。この1年間で精神科・心療内科を受診した人は25%で、睡眠薬は32%が、抗不安薬や精神安定薬は18%が、抗うつ薬は14%が飲んでいた。依存的なアルコールの飲み方をしている人は約1割おり、HIVに対する社会からの偏見を感じ、交流を控えたり、周囲に知られないようにおびえて暮らす割合もかなり高かった。

 一方で、性経験については全くしていない人、頻度が減っている人は多いものの、積極的に行っている人も一定程度いることに、高久さんは驚いた。

 「セックスを続けるために、薬をきちんと飲んでウイルス量を抑え込んだり、より安全を心がけたりしながらですが、意外とアクティブな人もいるのだなというのはプラスの驚きでした」

 一般の偏見の一つに、男性同性愛者は相手が定まらないから、性感染症にかかりやすくなるのだという見方がある。自己責任論にも結びつくこの考え方を高久さんはどう見ているのだろうか。

 「いくつか要因はあると思いますが、男性と女性の性欲の違いのほかに、パートナーシップが法的に認められていなかったり、仮に同性婚が認められたりしても、同性同士で子どもを持つことができなかったりで、家族とか家庭とか安定的な関係についての責任の重さが相対的に低いということが影響していると思います。ブレーキになるものが、男女のカップルよりないということは、性的に加速することの要因の一つかと思うのです」

 治療が進歩し、感染しても長生きできる時代になって、老後の不安を抱えている人は93%おり、HIVについて率直に話せる人が誰もいない人も2割以上いた。

 「研究の結果から言えることで、陽性者の立場から変えられることをまとめて、厚生労働省に提言書として出したいと思っています。民間団体の頑張りだけで保たれている相談体制も、地方ではまだ不十分なので、相談体制の充実を中心に訴えていきたいですね」

 ほかにも、医療機関やHIVのイベントで体験談を話せるスピーカーの養成・派遣事業や、国政選挙の時の政党アンケートで、HIVへの理解や対策の必要性を、ことあるごとに訴えている。今後は、医学教育や看護教育の場や、介護従事者への講演活動も積極的に行っていくつもりだ。

 「これからの医療や介護を担う若い人たちへ、いろいろな場所でお話し出来る機会が増えればと願っています。薬害エイズ裁判などで医療体制は充実しましたが、その時に重要性を訴えてくれていた先生方が一線を退いた後に、医療体制が維持されていくかの不安もある。HIVを診なくなっている病院もちらほら出てきていますし、一般医療機関ではHIVと言うと怖がる医師もいまだに多いです。でも若い世代での感染は増えていますし、長生きできて感染者数は累積して増えている。これから介護施設での受け入れ問題も深刻になるでしょうから、社会に働きかけ続けなくてはならないと思っています。若い世代は死の病と受け止めていない人が増えていますし、調査でもカミングアウトする人が増えていることがわかってきています。しかし、就労や医療現場、介護現場で、急に目の前に陽性の人が現れると、まだ差別的な対応があることは変わっていない。個人レベルでは着実に理解は広がっているけれども、社会の仕組みや集団意識によってはじかれてしまうところはまだある。そこは変えていかないといけないのです」

 HIVの当事者活動を始めた頃に抱いた、「感染したことに意味を見いだしたい」という願い。それは今、見つかったのだろうか。

 「自分はゲイであるという問題をずっと思春期から持ち続けてきたわけですけれど、HIVに感染した時、ゲイであることを外側から俯瞰ふかんして見られるようになったことは自分にとって大きかった。感染がわかる前は、ゲイであることを重荷と捉え、ゲイのコミュニティーで仲間と会えたら、そこをパラダイスのように思っていました。けれど、HIVに感染して、そこから1回外に出てみると、人生ってゲイであるとか、HIVであるだけではないということがわかったんです。皆、色々な秘密を持ち、うれしいことも、悲しいこともいろいろなものを抱えて生きている。ゲイであること、HIV陽性者であることは、自分の中の一つの要素でしかない。その一つの要素に捕らわれて生きることは、すごく狭い視野で生きていることだし、豊かな生き方ではないと気付いたのです。今は、HIVが人生の重荷になることはないし、これからもきっとない。HIVに感染し、当事者活動を続けたことで、自分の人生を俯瞰して見られるようになった。やりどくだったと思っています(笑)」

(おわり)

【略歴】高久陽介(たかく・ようすけ) NPO法人 日本HIV陽性社ネットワーク・ジャンププラス 代表理事

 1976年、香川県生まれ。98年、法政大学経済学部卒業。不動産会社、エイズ予防財団などを経て、2011年4月にジャンププラス事務局長、14年6月現職。01年1月にHIV感染が判明し、それ以来当事者活動に熱心に取り組んでいる。

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岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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1件 のコメント

良いインタビューでした

GMF

高久さんとは直接言葉を交わしたことはありませんが、様々なイベントやエイズ学会で何度かすれ違っています。陽性者が顔を出して本名で、生活のことや不安...

高久さんとは直接言葉を交わしたことはありませんが、様々なイベントやエイズ学会で何度かすれ違っています。

陽性者が顔を出して本名で、生活のことや不安なことを正直に語ることは、東京であってもまだ難しいですし、地方だと本当に厳しい現実があります。

この一連のインタビューは、そういう陽性者の気持ちを代弁をしているし、すごく勇気づけになりました。

一般紙でこういう記事はなかなかないので、とても良かったです。
HIV/AIDSやLGBTについての記事、これからも楽しみにしています。

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