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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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全員一致か、反対者いたのか…医療ガイドラインで気になること

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 今年最後のお題は、「違憲判決」についてです。

 12月16日、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)で、女性再婚禁止期間の一部違憲、夫婦同姓合憲の判決が出ました。僕の興味は、その判決が全員一致で決まったのか、反対があったのか、そして何人の裁判官がどんな理由で反対したのか、なのです。再婚禁止期間に関しては全員一致で違憲でしたが、夫婦同姓は全員一致で合憲ではありませんでした。15人のうち5人が反対で、女性の裁判官3人は全員が違憲という主張でした。この法廷の裁判官の比率が男女ほぼ同数であれば、違憲となったのではとも思いたくなります。15人のうち、10人が合憲で5人が違憲です。相当な差があるようにも思えますが、たった3人が合憲から違憲に考えを変えれば、それで翻ってしまうような結果ということです。裁判所の意見は、少なくともあからさまに夫婦同姓が違憲とは言えないので、国会で議論を深めろという趣旨だと思います。

結婚したら新しい姓を名乗るような制度も…

 僕は「人はいろいろ」と思っていますので、家族のあり方もいろいろであっていいと思っています。つまり昔ながらの家族、祖母・祖父・父親・母親・子供といった三世代、またはそれ以上の世代が一緒に暮らすスタイルもほほ笑ましいでしょう。また、お年寄りだけの家族もあるでしょう。若い人だけの家族も当然にあります。父親と子供だけ、母親と子供だけと言ったいわゆるシングルファーザー、シングルマザーの家庭もありえます。独身という生き方もありますし、また男同士、女同士の家庭もオーケーです。そうであれば、夫婦という形もいろいろになりますので、夫婦別姓をあえて否定することもないように思えます。ただ、子供の姓をどちらにするかは結構大切なことで、夫婦仲が良い時は夫婦別姓でも問題ないのでしょうが、後からどちらでも選べるとなると夫婦仲の悪い状態で子供がどちらの親の姓を選ぶかを決めるのはちょっと酷なように思えます。いっそ、結婚したらまったく新しい姓を名乗るようなシステムも悪くないなと僕は思っています。マイナンバーで個人の特定は姓名とは無関係に死ぬまで、または死後も追えるようになるのですから、ある意味姓名はどうでもいいことにもなります。

反対意見、将来的には正しいことも

 さて、ここからが医療のお話です。最高裁大法廷も全員一致で決まるものもあれば、また反対意見が存在するものもあります。それが大切なのです。反対意見があって決められたことは、もしかしたら反対意見が将来的に理にかなっている可能性も相当あると思っています。また専門家・有識者が全員一致で決めても、もしかしたら反対のことが正しいこともあります。その良い例は、原発事故のメルトダウンで、有識者の方々は当初、ほぼ全員がメルトダウンはしていないとテレビ、ラジオ、新聞で言い放っていましたが、今やメルトダウンが起こっていないと言う人は皆無になりました。医療にはガイドラインがあります。専門家、有識者と呼ばれる方々が、今までの臨床試験や経験をもとに最良と思う治療戦略を書き留めたものがガイドラインです。ガイドラインに対して希望することは、その意見が全員一致で決まったのか、それとも専門家・有識者の中に反対を唱える人がいたかがわかるようにしてもらいたいのです。最高裁大法廷で行われている反対意見の明記のようなことはガイドラインでは通常行われていません。つまり、全員一致で決まったガイドラインか、または反対意見があったガイドラインか、そしてどんな反対意見があったのかなどが不明なのです。また、ガイドラインは改定されていきます。つまりどんどんと進歩・改良されるのです。それは以前のガイドラインは少々問題があったということの裏返しです。ですから、ガイドラインを頭から信じ込むことは間違っており、その時点での多くの専門家・有識者の意見の集約の結果であると理解することが大切です。人はいろいろですから、多くの人を通常はグループ化せず、また年齢や併存疾患で分ける程度のざっくりとしたグループ分類で治療方針を示しています。ガイドラインを使用する医師は、目の前の患者さんがどれに当てはまるかを考え、そしてそのガイドラインを使用した方が患者さんに有益であると思えるときは、それに従えばいいのです。また、あまり有益でないと感じる時は、えてガイドラインとは異なった治療をすることも実は患者さんのためかもしれません。最高裁大法廷の判決には当然に拘束力がありますが、ガイドラインには法的拘束力はありません。ガイドラインを十分に参考にしながら、人それぞれに合わせた治療を行うのが経験豊富な真の臨床医と思っています。

 1年間、僕のエッセーにお付き合い頂きありがとうございました。来年は1月8日より登場です。来年もよろしくお願い申し上げます。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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