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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

「軽い薬だから」安心させるため方便? 準麻薬乱用の危険も

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 ベンゾジアゼピン系やその類似薬が目の痛みやまぶしさの原因だろうと、見当をつけて、服薬歴を詳しく患者さんに尋ねていきますと、驚くことが出てきます。

 「なかなか眠れない」「肩がこる」「夜になると不安感が出る」など、いわば日常よくある事象に対して、「軽い薬ですから」という触れ込みで気軽に処方されていることがとても多いのです。中には、作用期間の異なる同効薬が何種類も重ねて処方されていることもあります。

 そもそも、「軽い薬」とはなんでしょう。

 多分、処方している医師は、患者さんを安心させるための方便というかもしれませんが、わかったようで、全然わからない曖昧あいまいな言葉です。

 では、決められた量なら生死に関わるような副作用は出ないという意味でしょうか、それとも短い時間しか作用しない薬という意味でしょうか。そのいずれであっても、「軽い薬」と頭から安心させるのは、正しい姿勢とはいえないでしょう。

 ところで、薬とその副作用に関しては、欧米と日本とで患者側の捉え方に大きな差異があります。

 欧米人は、薬だから副作用があるのは当たり前、作用がしっかり出てくれればそれは良い薬と考えます。ただし、日本のように何種類もの薬を重ねることはまずありません。薬の開発は、大抵は単剤で用いることを前提に研究を進めていますから、それは科学的にも正しいといえます。

 一方、日本人は特に内服しはじめに副作用が多少でも出ると、「強い薬」と警戒して、勝手に中断したりします。ただし、初期に副作用がなければ何種類もの薬を平気で受け入れ、連用や複合によって後々になって出てくる副作用には無頓着です。

 何年も連用することに、医師も患者も無頓着という部分に、日本のベンゾジアゼピン系薬物やその類似薬の使われ方の問題点が潜んでいます。

 欧米では、こうした薬物の使用は、せいぜい2週間から2か月が限度というのが常識化しています。本来の治療方針、あるいは治療薬が決まるまでのつなぎ、応急的薬物という位置付けです。

 2010年、国連の国際麻薬統制委員会は、ベンゾジアゼピン系薬物を準麻薬と位置付け、日本の薬物使用が突出していることを問題視して、警告を発しました。読売新聞はじめ各紙はこれを報道していますが、一般の医師たちの反応はまだまだ鈍いと思われます。

 しかも、乱用指摘の根拠となった統計はベンゾジアゼピン系だけに限られています。つまり、日本ではチェノジアゼピン系や、非ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬といった同効薬も相当量処方されているのに、この統計に含まれていないのです。

 私が入手できるのは10年あまり前の統計ですが、日本での使用量は米国の約6倍(人口換算すれば12倍)です。その後に米国と比較したデータは見つかりませんが、日本の使用量はあまり変わっていないようです。乱用の度合いは想像を絶すると言っていいでしょう。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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