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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

視力検査「正常」なのに目がぼやける、服薬歴を聞いてみると…

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 前回とりあげたベンゾジアゼピン眼症の特徴は、眼球そのものに原因がないにもかかわらず、目の痛みやまぶしさが持続し、日常生活にも支障が出るというものでした。

 こうした重篤といえる自覚症状のほかに、ベンゾジアゼピン系薬物やその類似薬によると思われる、一時的な「目のぼやけ」もしばしば経験します。そのような訴えで来院した患者さんに視力検査をするとほぼ正常なのですが、それでも、ぼやけると訴えるのです。

 事実なのでしょうか。

 以前、話題にしましたように、眼科での視力検査はCの字の開いている方向がわかればパスするので、そのCの字がぼやけて見えてもいいのです。見え方の質は問いませんから、日常視で「ぼやけ」を感じていることは視力検査に反映されるとは限りません。

 こうした訴えをする方々に、安定剤や睡眠導入剤の服薬歴を聞いてみると、しばしば「使っています」ということになります。

 そうした時、「では、1回だけ薬を抜いてみてください。その翌日にもぼやけが出るか試してください」と注文します。

 「先生、びっくりしました、朝すっきり見えていました。おっしゃる通り、原因は確かに薬でした」

 再診の時、そのように報告してくれる患者さんたちは、この薬物の減量中止に同意してくれる場合が多いものです。

 なぜ、このようなことが生ずるのでしょうか。ベンゾジアゼピン系やその類似薬は「GABA」受容体を作動させます。この作用は、神経活動を抑制する作用です。簡単にいえば、神経活動を抑え込んで睡眠を招いたり、興奮している神経を落ち着かせたりするものです。

 ところが、目的以外の神経活動も抑えますし、繰り返し受容体を作動させているうちに、不適切な神経活動が生じてくる可能性がある。それが、ぼやけであったり、痛みや眩しさであったりするのだろうと私は推定しています。

 しかし、まだ詳しいメカニズムはわかっていません。

 製薬会社も、これらの薬物を処方している医師も、このことを重大視していないからでしょう。

 ある製薬会社の調査で、神経系に作用する薬物を処方された患者さんが、内服後、自分勝手に中断してしまうきっかけとして、「ふらつき」「吐き気」などに続いて「目の症状」というものが出ていました。実感として理解できることです。

 「目の症状」とはいったい何か、眼科医からみると随分と大雑把で、非学問的表現だと思うのですが、これは添付文書にも書かれていることがある表現です。 にもかかわらず、処方する医師も、製薬会社もその「目の症状」を追求する姿勢は見えません。視力低下さえしなければ、目の症状などとるに足らないと、彼らは考えているのかもしれません。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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