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立って仕事をする職場 増えています…効果に納得!?
仕事は立ったり座ったり 作業能率も健康も改善
立って仕事をする職場が増えている。長時間座っていることが健康によくないという研究が進んだことが背景にある。専門家は「立ったり座ったりするスタイルの方が、生産性は高くなる。効果的な時間比率などは今後の研究課題」と指摘する。
オフィスのデザインを手がける「清和ビジネス」(東京)は、営業、デザイン部門の従業員111人に、電動で天板の高さを変えられる机を配備している。今年3月から11月にかけて導入した。適宜、机を上げ下げし、立ったり座ったりしながら仕事をする。
導入を担当した丸山史夫さんは「座りっぱなしだと腰痛がある人などにはつらい。立つと作業能率がアップし、動きやすいので同僚との会話も増えた」と話す。腰痛、肩こりや足のむくみが改善したとの声もある。
「楽天」(東京)も6月から9月にかけ、従業員1万3000人の机を、高さが変えられるタイプに一新した。
製品は、オフィス用品を扱う岡村製作所(横浜市)が今年発売した。同社は座り続ける弊害について「腰椎への負担は立っている時に比べ、座る姿勢で1.4倍、座って下を向く姿勢では1.8倍になる」と説明する。足のむくみにも関係がありそうだ。ふくらはぎの太さを2時間後に測る調査では、「座る」は0.53センチ増、「立つ」は0.47センチ増。「座って時々立つ」は0.28センチ増と最少だった。
早稲田大教授(健康行動科学)の岡浩一朗さんは「近年、職場などで長時間座っていることが、健康へ悪影響を及ぼすという研究が増えつつある」と指摘する。
1日のうち座っている時間は、日本は「7時間」が多く、スウェーデンの5時間、米、中の4時間より長いという研究がある。オーストラリアでは、「合計11時間以上座っている」場合の死亡リスクは、「4時間未満」の1.4倍という研究も発表された。
玉川大教授(人間工学)の阿久津正大さんは、「イスに座ると太ももが圧迫されて血流が悪くなり、眠くなり、仕事の効率も落ちる。立つと足の筋肉を使い、脳は活性化するが、長時間では疲れる。一番いいのは立ったり座ったりすること」と話す。計算作業を、座ったままより、立ったり座ったりしてする方が成績がよいという実験結果もある。
仕事のスペース以外に、立つ姿勢を取り入れる動きもある。
電線製造大手フジクラの本社ビル(東京)は、3月から試験的に従業員の一部が立って仕事をしている。さらに10月には、従業員の交流スペースを開設し、立ちテーブルを設置した。「別室での打ち合わせが行き詰まり、ここで立って話すと思考がほぐれる感じがして話がまとまった」という男性社員(47)も。
このスペースのレイアウトは、オフィス用品を扱う「イトーキ」(大阪市)が請け負った。仕事の合間に軽い運動を取り入れる「ワークサイズ」を提唱している。
阿久津さんは、「日本人は元々、畳に座っていた。長時間座るリスクは欧米人と単純に比べられないかもしれない。また、一般的な事務、プログラミング、デザインを考えるなど仕事内容によって、『立つ』『座る』の効果的な頻度は違う。今後さらに研究が必要だ」と話す。
生活全体で活動を
国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」健康増進研究部長、宮地元彦さんの話
高度経済成長以降、机に座る仕事が増え、IT革命がそれを加速させた。情報入手はスマホ、買い物はネット、地方は車での移動が多い。生活は不活動化している。厚生労働省の調査によると、男性の1日の歩数は2000年に8116歩だったが、13年は7099歩に。女性は7268歩から6249歩。就労中のほか生活全体で座る時間を減らし、立ったり歩いたりを心がけるべきだ。
OA化とともに職場変化
職場は、オフィスオートメーション(OA)化とともに変化した。コンピューターが導入され、さらにインターネット利用が広がる。
立ち仕事 効果に納得
◎取材を終えて 机上のキャビネットにパソコンや資料を置き、立って仕事をすると作業が進む気がしていた。根拠があると知り、納得した。先進国はスウェーデンだ。電話交換手の腰痛対策で1980年代に天板昇降式の机が広がった。そうした机を輸入販売している「スカンジナビアンモダン」(東京)社長の岡部登紀子さんは「体が立ち姿勢を覚えると、座っている方がつらい」とまで言う。日本の職場の風景は変わるかもしれない。
(住友堅一)
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