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知って安心!今村先生の感染症塾

コラム

女子にも増加…「梅毒」は今の病気です

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 「梅毒なんて昔の病気でしょ?」

…そんなことはありません。

今、20歳代の女性でも増えているのを知っていますか?

 梅毒は、症状が多彩で、無症状の期間もあります。

そして、自覚症状のない人からも感染します。

オーラルセックスでも感染してしまいます。

 梅毒は、本人も感染に気づかないことがあります。

放っておくと、重い症状となるかもしれません。

 梅毒は、一度治っても、また感染します。

パートナーも治療しないと感染を繰り返すのです。

 梅毒は過去の病気ではありません。

今日は、梅毒の様々な問題についてお話ししましょう。

梅毒が増えている

 梅毒は、歴史的にも世界各国で大きな流行を繰り返してきた感染症です。日本でも1928年に「花柳病予防法」による予防対策の対象となってから、性感染症のひとつとして監視が続けられてきました。このような中で、昔は日本でも多くみられた性感染症であった梅毒も、その報告数は徐々に減少していました。このため「梅毒は過去の病気」というイメージをもっているかもしれません。しかし近年は、この梅毒が再び増加傾向に転じていたのです。

女性の増加と先天梅毒

 日本における梅毒の増加は、当初は男性同性愛者の中での流行が中心でした。しかし、最近は異性間の中でも増えてきており、女性の報告数も2010年から15年までの5年間で約5倍に増加しています。そして、女性の中では20歳代の感染者が多くなっていることが、さらに大きな問題となっています。

 こちらの記事から、近年の梅毒報告数の状況を示したグラフをご紹介しましょう。

 『梅毒、若い女性に急増…20~24歳、昨年の2.7倍

 妊婦が梅毒に感染すると、流産や死産の原因となったり、先天性梅毒の赤ちゃんが生まれたりする可能性があります。若い女性の感染者が増加すれば、妊婦の感染による先天性梅毒も増えてしまいます。以下は、先天性梅毒についての情報がまとめられた貴重な報告です。先天性梅毒は、すでに起こっている問題なのです。

 『先天梅毒の動向(2011~2014年)』IASR

コンドームで全て解決?

 梅毒の原因となっているのは、梅毒トレポネーマという、コークスクリュー(ワインオープナーのらせん状の部分)のような姿をした、目に見えない小さな小さな病原体です。この病原体は、感染している人の性器などの患部に多く存在し、性行為によって直接接触した粘膜や皮膚の小さな傷などから侵入します。また、オーラルセックスで咽頭部(のど)に感染したり、アナルセックスで直腸に感染するなど、性行為の方法によって性器以外の場所にも感染してしまいます。オーラルセックスによる感染を、どこまで防ぐことができるか考えてみてください。梅毒は、コンドームを使うことで感染を減らすことはできますが、それだけで完全に防ぐことは難しいのです。

パートナー検査も大切です

 感染症には、麻疹(はしか)などのように、一度かかって治ってしまえば、二度目は感染しにくくなるものがあります。しかし残念ながら梅毒は、何回でも感染してしまいます。したがって、特定のパートナーがいるのなら、その人も検査をしなければなりません。自分だけ治療を行っても、パートナーが感染していたら、感染を繰り返してしまうからです。再感染を防ぎ、感染を広げないためにも、パートナーの検査も一緒に行っていくことが必要なのです。

多彩な梅毒の症状、重症化のリスクも

 梅毒は、感染してから症状が出るまで3~6週間の潜伏期間があるとされています。そして、長い経過の中で様々な症状が出現するため、全体を以下のように分類しています。梅毒は、いろいろな症状を起こす一方で、無症状のことも多いため、診断することが難しい感染症でもあります。性行為のリスクがあって梅毒の可能性があるならば、まずは検査してみるということが大切です。

1)早期梅毒:第 I 期

 感染した部位に、小さな「しこり」(初期硬結といいます)や潰瘍ができたりします。これらの症状は痛みやかゆみをともなわないことが多く、治療しなくても自然に良くなってしまうため、見逃されてしまう可能性があります。また、口腔こうくう内や咽頭部に感染した場合にも、自覚症状がなく感染に気づかないことが多くあります。

手のひらに現れた早期梅毒の症状

2)早期梅毒:第 II 期

 第 I 期の症状が消え、しばらく経過してから(4~10週間が多い)、病原体が血液を介して広がることで全身に発疹が出ることがあり、この時期を第 II 期と呼んでいます。発疹は手のひらや足の裏にも出やすいのが特徴です。粘膜に病変ができたり、脱毛が生じたりすることもあります。また、まれに、この時期に脳や眼などに重い症状をきたすこともありますが、一般的には発疹を中心とした軽症で、治療しなくても数週間~数か月で自然に症状は軽快してしまいます。

3)潜伏梅毒

 早期梅毒の症状が自然に良くなっても、症状がないまま体の中に感染した状態が続きます。この期間でも、梅毒の検査によって感染を診断することは可能ですが、本人に自覚がないため診断されないケースが多くなります。

4)後期梅毒

 梅毒を治療しないまま放置すると、数年~数十年という長い期間の中で、その約3割に様々な重い症状をもたらします。認知障害をもたらす脳障害、手足の麻痺、心臓や血管の病気、眼の病気など、非常に重篤な状態となることがあるのです。

診療現場における梅毒の問題

 梅毒は、診療の現場でも多くの問題・課題をもっています。難しい話題ですが、それらについても簡単にまとめてみることにしましょう。

(1)診断の難しさ

 前述したように、梅毒の症状は様々です。性器に病変があれば、だれもが性感染症を思い浮かべるでしょう。しかし、全身の発疹、のどや眼の症状、あるいは脳や神経の症状からは、梅毒が疑われない可能性もあります。また、感染しても症状がないことも多いため、より診断が難しくなります。疑わなければ、検査も行えません。まずは梅毒という病気を知り、感染の可能性を疑うことが必要です。

(2)治療薬の問題

 梅毒の治療薬としては、海外ではペニシリンGという抗菌薬の筋肉注射が一般的です。しかし現時点で、日本ではこのスタンダードな筋注薬が使えません。このため今は、代用となる内服薬によって治療が行われています(入院の場合には点滴の抗菌薬で治療することもあります)。経験的には、今使われている内服の抗菌薬でも効果はあると考えられています。しかし、あくまでも代用治療なので、投与量や治療期間が、しっかりとした試験を経て定められたものではありません。

(3)難解な治療判定

 一般的な梅毒の検査は、血液による2種類の検査を組み合わせて行われています。ひとつは「RPR」などの非トレポネーマ抗原による検査、もうひとつは「TPHA」などのトレポネーマ抗原による検査です。この検査の話は難しいので、思い切って前者を「検査A」、後者を「検査B」としてみましょう。梅毒に感染すると、基本的には「検査A」も「検査B」も、その数値は上昇します。

 有効な治療を行った場合には、「検査A」の方がより鋭敏に数値が低下していくため、この検査値によって治療効果を判定します。しかし、梅毒の病原体がいなくなったからといって、この数値はゼロにはならないことも多く、治療終了後もゆっくりと低下していきます。したがって、治療後の「検査A」の数値が、3~6か月後に十分に低下しているかどうかで効果を判定しているのです。このように、治療効果の判定基準はかなり不明確です。時には、この判定のあいまいさが問題となることもあります。一方、「検査B」は治療を行っても高い数値のままとなることがほとんどです。したがって、一度、梅毒にかかってしまうと、検診や入院・手術前などに梅毒検査を行った場合に、ずっと陽性の判定が出てしまう可能性が高くなります。

(4)発生報告の問題

 感染対策を行っていくためには、発生状況を正確に把握していくことが大切です。梅毒は、全数報告の対象となっている感染症であり、診断した医師は7日以内に保健所に届け出ることが義務づけられています。しかし、受診しても梅毒と診断されていない例、診断しても報告されていない例が、数多くあることが予想されており、実際の発生数は現在の報告数以上だと思われます。より積極的な検査、そして、診断後の届け出を徹底することが求められています。

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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