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オトコのコト 医師・小堀善友ブログ

妊娠・育児・性の悩み

亜鉛のサプリは精子にいいのか? チャレンジしてみたら…

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 こんな話を聞いたことがありませんか?

 「亜鉛のサプリを使うと、精子が増えて、精液も増える」

 私が日本で男性不妊の患者さんを診察していた時も、「亜鉛のサプリを使ったほうが、精子が良くなるのですか?」とよく聞かれました。

 亜鉛は、ヒトの健康と栄養維持に重要な必須微量元素のひとつです。多くの酵素に含まれ、遺伝子発現、たんぱく質合成など、細胞の成長と分化に中心的役割を果たしています。亜鉛は、すべての細胞に存在しているため、肉・魚介・種実・穀類など多くの食品に含まれています。

 亜鉛が不足すると、味覚障害や皮膚炎、食欲不振などが起こることが知られていますが、その詳しいメカニズムは分かっていないそうです。

 精液中に亜鉛が多く含まれていることから、「亜鉛をとったほうが精子にいい」ということが知られるようになりました。たしかに、ネットを検索すると、亜鉛のサプリを使ったら精液の量が増えた、なんていう報告がたくさんあります。

 実は、私もチャレンジしてみたことがあります。約5年前に、精液の量が少ない患者さん10人ほどに亜鉛のサプリを飲んでもらったことがありました(自分も飲んでみました)。10人という少ないデータですが、結果としては、患者さんたちの精液の量や精子の質は変化しませんでした。

 そこで、亜鉛と精子にまつわる今年に出たばかりの報告を調べてみると、意外なことが分かりました。逆に、亜鉛の毒性のほうがピックアップされているのです。論文検索サイトで最初の20件ほどを見てみたのですが、以下のような内容でした。

  • 酸化亜鉛は精子に悪影響、酸化ストレスを引き起こす。
  • グルコン酸亜鉛の精巣内投与は精子形成を阻害する。
  • 不妊男性の精液中で、高濃度の鉛、カドミウム、ニッケル、亜鉛が検出された。
  • 精液中に亜鉛を混ぜることにより、酸化ストレスを減少させる可能性があるが、過酸化物がない場合は亜鉛の毒性にて精子の状態は悪化する。
  • 酢酸亜鉛の精巣内投与は精子形成を高度に損ない、精巣を萎縮させる。
  • 亜鉛の細胞毒性は、前立腺がんにも関係している。

 亜鉛は体に必要な微量元素の一つであるのは間違いありません。また、それぞれの研究は、亜鉛を内服するわけではなく、直接、精液に混ぜたり、精巣内に注射したりする動物実験なのですが、「亜鉛が精子にいい」という近年の報告は見つけられませんでした。「亜鉛を使えば精液量が増える」というのも、そういった都市伝説の一つであるのかもしれません。

 健康的な食生活をしているのであれば、「亜鉛をとれば精子が良くなる」ということはあまり信憑しんぴょう性がないと思われます。うまみ物質のグルタミン酸をとれば直ちに頭が良くなる、というようなことが随分と前に言われていたのと同じようなものです。

 私は、精子の状態を良くしたいと希望される患者さんには、「酸化ストレス」をできるだけ除外して、「ホルモン」の状態を良くすることであると説明しております。結局のところ、健康的な食生活、十分な睡眠、適度の運動、精神的ストレスの少ない生活が一番の薬になるのではないかと考えています。


 
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小堀善友 (こぼり よしとも)

泌尿器科医 埼玉県生まれ

2001年金沢大学医学部卒、09年より獨協医科大学越谷病院泌尿器科勤務。14年9月から米国イリノイ大学シカゴ校に招請研究員として留学。専門分野は男性不妊症、勃起・射精障害、性感染症。詳しくはこちら
主な著書は『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)。詳細はこちら

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