文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

HIV陽性者団体の代表、高久陽介さん

編集長インタビュー

高久陽介さん(1)「ただの病気」 理解と情報広めたい

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

HIV陽性者団体の代表、高久陽介さん

 12月1日は、「世界エイズデー」。この前後に、日本でも、エイズやHIV(ヒト免疫不全ウイルス)への理解や支援を広げるための啓発イベントが開かれている。最近では注目されることも減った感染症だが、現在も若い世代での感染が増え、治療の進歩で長生きできる病になったにもかかわらず、感染者や患者の生きづらさは変わっていない。自身も感染者であることを公表し、NPO法人「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」の代表理事として活動する高久陽介さん(39)に、今、何が必要なのか聞いた。

 11月中旬、都内のジャンププラスの事務所でインタビューに答えてくれた高久さんは、「今うつなんですよ」と少し元気がないように見えた。3年間非常勤職員として働いた職場を3月に解雇され、次の職探しに不安になって心が落ちこんでいるのだという。「HIVとうつは関係ないですよ、私の場合」と語るが、一般的に、HIVに感染すると、就労や人間関係など社会生活全般が不安定になりがちだ。

 「個人的な考えを言うと、HIVは感染症の一つ、病気の一つであって、特別な病気ではありません。感染症、病気、セックス、性的マイノリティーが多い、自己責任という5つの要素が絡み合うので、ややこしくなり、周りも当事者も受け止められなくなってしまう。でも、この5つの要素は多くは誰でも身に覚えのあることのはずです。感染症や病気には誰でもかかるし、セックスは誰でもするし、性的マイノリティーもたくさんいることがわかっているし、自己責任と言っても誰でも失敗や挫折の経験はあるでしょう? 一つ一つを解きほぐしていけばたいしたことではないのに、全てが重なってしまうことで、非常に生きづらい、やっかいな病になってしまいます」

 「例えば、糖尿病だって、生活習慣の積み重ねの自己責任の病かもしれませんが、糖尿病になったと表で言えますよね。でも、HIVに感染したというと、セックスで感染したとか、ゲイであることとつながるので、病名をなかなか言えません。通院のために仕事を休みたくても病名を言えない。そういう意味ではHIVはまだ『ただの病気』になっていないのですが、それを『ただの病気』にするのが、私の願いです」

 HIVに感染したからといって、必ずしもエイズを発症するわけではない。治療をせずに、ウイルス量が体内に増えて免疫力が落ちると、国が指定する特定の肺炎や結核、リンパ腫など23の病気にかかりやすくなる。それを、エイズ発症という。ウイルスを体内から完全に取り除く治療法はまだないが、治療薬が進歩した今、生涯、エイズ発症を抑えて生きていくこともできるようになった。高久さんも朝1錠、夜2錠、抗ウイルス薬を飲む以外は、普通の人と変わらない日常生活を送る。

 「一定以上の年齢になると、エイズが最初に報道された頃の、末期の患者の映像が頭にこびりついていますよね。私もその頃10代だったので、ただの恐ろしい病気としか思っていませんでした。それが、薬害エイズ事件で今は参議院議員になった川田龍平さんが出てきて、生きられる病なのだとわかるようになりましたね。あの時は当事者ではありませんでしたが、彼が表に出てきたことから希望が生まれたと思います」

 「特に若い世代になれば、知識も備わって来つつあるし、情報量もたくさんあるのですが、この病気に対するイメージがあまり変わっていないのが不思議です。ジャンププラスが他団体と共同で陽性者に行ったアンケートでも、『治療すれば生きられる』と答えた人が7割いるのに、『死の病気である』と答えている人も4割いました。知識とイメージは違うのですね。そういうイメージを持ち続けていると、陽性者なら生きづらいですし、まだ陽性でない人も、検査を拒否したり、検査で陽性とわかった時にものすごく落ちこんだりということにつながりかねません。薬は飲み続けなくてはなりませんし、副作用や合併症はありますが、おおむね元気に生きられるのです。当事者としてはそれを伝えていきたいと思うのです」

 ジャンププラスは、2002年、現在も理事を務めている長谷川博史さんを中心にHIVの当事者団体として設立された。10年には、NPO法人格を取得。「HIV陽性者が秘密を抱えることもなく、社会的な不利益を受けることもなく、HIV陽性者として、自立したあたりまえの生活ができる社会を目指す」と活動目的を掲げ、ニュースレター(5000部)や当事者の講演活動などによる情報発信や、アンケートなどの実態把握活動、差別・偏見をなくすための行政や政治家への働きかけ、国内外の陽性者との交流活動を続けている。

 01年初頭にHIV感染とわかった高久さん。当初の混乱が収まった時に、まず参加したのは、別の支援団体が行っていた予防啓発活動だった。

 「感染している自分の気持ちを落ち着かせたかったのかもしれませんよね。自分一人では受け止めきれないので、自分が感染したことには意味があるのではないか。そんなことを思いたかったのだと思います。社会貢献活動をすることで、プラスに転じたいという思いだったのかもしれません」

 ゲイコミュニティー向けの予防啓発活動を行う団体に加わり、ボランティアとして手伝い始めた。日本最大のゲイタウン新宿2丁目で、コンドームとパンフレットを配るイベントだ。しかし、それを続けるうちに、気持ちがどんどん落ちこんでいくのを感じた。

 「当時は、なかなか受け取ってもらえなかったり、関わり合いたくないという露骨な表情をされたりしましたね。自分のやっていることは間違っていないのに、自分が否定されたような気持ちになりました。それに、予防を訴える時は、『こんな病気になってはいけない』とか『恐ろしい病気だ』とか『感染したら人生おしまいだ』ということを前提に活動している気持ちになってしまうんですね。やればやるほど陽性者として、自分をおとしめているような気持ちになっていきました。今振り返ると、予防活動だけしていたからそんな気持ちになったのでしょうけれども」

 もやもやした気持ちを抱えながら、活動に参加していた時に出会ったのが、やはりゲイでHIV陽性者の長谷川さんだった。

 「陽性者であることも、ゲイであることも、全く引け目を感じていない態度がすごいと思いました。セックスについても、ゲイの皆がするように楽しそうに、堂々と話している。そういう姿に感銘を受けたのです。感染していても、治療も仕事もしながら、普通に日常生活を送っている。恋愛もできるし、セックスもできる。そういうことを伝えられる活動をしたい。孤立しやすい陽性者をつないで、ネットワークを作り、陽性者が生きやすくなるために情報を発信していく当事者活動の方が自分のやりたいことだと、長谷川さんに出会って気付きました」

 02年の設立当初からジャンププラスの活動に加わった高久さんは、11年には事務局長となり、体調を崩した長谷川さんに代わり、14年に代表理事に就任した。当事者が発信することで、何ができると考えているのだろうか。

 「一番の効果は、リアルだということです。HIVやエイズは『自分とは関係ない』とか、『そんな人、この世にいるの?』と遠い世界の出来事と受け止められがちです。しかし、テレビなどのメディアでも目の前でも、当事者が実際に話をするのを見たら、本当に、現実に存在する逃れようのない事実として迫ってくるはずです。それによって、初めて検査に行こうと思ったり、自分の職場や周りにもいるのかもしれないという想像につながったりする。どこかにいる他人の問題としてではなく、身近な、自分の問題としてリアリティーを持ってHIVについて考えてもらえる。それが一番の啓発効果だと私は信じています。だから、私が当事者である限り、当事者活動は続けたていきたいと思っています」

(続く)

【略歴】高久陽介(たかく・ようすけ) NPO法人 日本HIV陽性社ネットワーク・ジャンププラス 代表理事

 1976年、香川県生まれ。98年、法政大学経済学部卒業。不動産会社、エイズ予防財団などを経て、2011年4月にジャンププラス事務局長、14年6月現職。01年1月にHIV感染が判明し、それ以来当事者活動に熱心に取り組んでいる。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

編集長インタビュー201505岩永_顔120px

岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

編集長インタビューの一覧を見る

3件 のコメント

同性愛だけじゃないですょ。

新入り

なんで、HIV=同性愛者が多くなる病気=自分は心配ない。と、判断するのだろう。現に異性間でHIV陽性になった私 からすると。同性愛云々というより...

なんで、HIV=同性愛者が多くなる病気=自分は心配ない。
と、判断するのだろう。
現に異性間でHIV陽性になった私 からすると。
同性愛云々というより、誰しもが平等になるかも知れない病気だとしか思えない。
しかも、私は既婚者 子育て真っ最中!
パートナーが同性愛者かも知れない。とか、そんな心配するつもりもない。
というか、もっと前向きに検査しましょうょ。
同性愛者だから、心配。異性間だから安心。なんて
思っちゃいけない。
まず、その考え、隔たりがいけない。
数だけみれば確かに同性愛者の方が多い。
だけど、こうしてそうじゃない私からしてみると
その隔たりは少し悲しい。
この病気になってみて思った。
この病気になったかも知れないと不安になったこともなく
批判するのは、なんて簡単なのだろう。
心の中で排除するのは簡単だ。
だけど、現にこの病気の薬を飲んでみて目に見えないウィルスと毎日戦ってみて思う。
見てみないふりをしている人達、批判している人達
自分は関係ないと思っている人達こそ危険だ。
私は39人分の1人だが、少数だからと
黙っているつもりはない。
昨日の批判者は今日の陽性者。
それに、同性愛の歴史って、昨日今日始まったわけじゃないですょ。
私達が生まれる前からです。
それなのに近年HIVって、なんかわりに合わない話しですよね。
しかも、同性愛者限定みたいな。病気の言われ方。
どうなんだろう。


つづきを読む

違反報告

頭が下がります

下町育ち

ゲイへの偏見や興味本意での扱いはまだ目立ち、HIV陽性を隠さずに活動するのは大変な勇気だと思います。厭がらせもあることでしょう。敬意を表します。...

ゲイへの偏見や興味本意での扱いはまだ目立ち、HIV陽性を隠さずに活動するのは大変な勇気だと思います。厭がらせもあることでしょう。敬意を表します。私も複数の人とのゴムなし経験がありますが、根拠なく感染してるはずないと思ってますね。やっぱり検査はハードル高いです。

つづきを読む

違反報告

正しい情報を取り込む場が欲しい

金魚の智慧

HIVはその原因となるものが発見されるまで大変だったし、そのウィルスの変異も複雑ですが、何故か休眠状態になるというところまでは報道等で紹介されて...

HIVはその原因となるものが発見されるまで大変だったし、そのウィルスの変異も複雑ですが、何故か休眠状態になるというところまでは報道等で紹介されてますね。

今は読売さんの報道で梅毒が例年より罹患者が増加傾向という報道がされたばかりでのHIVの話題はいいタイミングだと思います。
まずは気力が落ちると自暴自棄や孤独の世界に行ってしまいがちですが、話しあえる場所や相手がいるだけでも救いですね。
耐性菌もどんどん出ている現代で、どうやって菌やウィルスと生物は共存していくかで未来が変わるらしいです。

長生き時代なのでいろいろな疾病などと共存していかなければ、それこそ差別は止まないでしょう。地味な啓蒙も大切ですね。あとはカフェ形式で感染症の専門家の人が感染症の説明会でもないですがやっていますのでそういう場に参加してみるのも良い勉強ができます。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

HIV陽性者団体の代表、高久陽介さん

最新記事