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薬の王様「アスピリン」に大腸がん予防効果?…注意すべき副作用も
今日は、「アスピリン」のお話です。「大腸がん、アスピリンで予防…7千人臨床試験」 という記事が目に留まったからです。
「薬の王様はなにか?」と質問をされたときに、僕は「アスピリン」と答えています。アスピリンはアセチルサリチル酸という物質です。ドイツのバイエル社の商標名ですが、日本薬局方(厚生労働大臣が公示する日本で使用されている薬の規格基準書)にも「アスピリン」として載っています。なぜ王様かというと、最初の理由は、アスピリンは世界で初めて人工合成された医薬品だからです。ギリシャ時代からヤナギに鎮痛作用があることは知られていました。ヤナギの
世界初の化学合成薬、今でも使用
そして、王様である第2の理由は、そんな昔の薬、つまり最初に化学合成された薬が今でも使用されていることです。科学は進歩します。医療も医学も薬学も進歩します。そんな進歩に逆らうように、アスピリンは今でも医療現場で使われ、薬局に置かれ、そしてCMで流れたりします。すごいですよね。歴史があり、世界中で今でも使用されている薬というのは、それだけ副作用や効果がわかっているということです。ところがその作用機序が判明したのは1971年で、アスピリンがプロスタグランジンという物質の合成を阻害すると
脳梗塞・虚血性心疾患にも予防効果
そして王様である第3の理由は、「アスピリン」がいろいろな病気に効いているということです。まず、開発の経緯は鎮痛剤として出発しています。鎮痛解熱剤という概念すらない時代に、痛みを抑える薬を開発したかったのです。そして見事に人工合成にも成功し、痛みで困っている人々に福音をもたらし、そしてそれは21世紀の今でも利用価値を認められています。それだけ長く飲まれていると、いろいろな相関が解ってきます。つまりなぜということは二の次にして、アスピリンには、脳梗塞や虚血性心疾患(狭心症と心筋梗塞のことです)を予防する効果があったのです。この場合アスピリンは少量を飲むことが大切です。少量のアスピリンの服用は血小板機能を抑制して血栓の形成を妨げることが判明しています。血小板は血液を固まらせる作用を持つ血液内にある細胞がちぎれた破片です。その作用を弱めると血管を閉塞させる血栓の形成を弱めるので閉塞性の血管病変には有効なのです。同じ理由で、動脈硬化症や深部静脈血栓症、エコノミークラス症候群にも有効とも言われています。本邦の死因の2番目が心疾患、4番目が脳血管障害で、それらにも有効な可能性が高いということです。素晴らしいでしょ。
医療者側の経験則や直感、的中するか?
そして、がんにも有効かもしれないという多くの臨床医のイメージ、直感が本当かどうかを確かめようというのが、今回の臨床試験の目的です。まず大腸がんに対して行われます。がんは日本人の死因の第1位で毎年約37万人ががんで亡くなっています。そして大腸がんで亡くなる人数は毎年約14万人です。そんな大腸がんの、ひいてはがんの予防にアスピリンが有効であったら、やっぱりアスピリンは王様の中の王様になりますね。医療者側の経験則や直感が本当に当たっているかをサイエンス的に考えることは大切です。
「とんでもない安さ」も魅力だが…
補足ながら王様である理由は、「アスピリン」の費用の安さです。なんと100ミリグラムで医療保険上は5.6円です。予防効果には通常この量が使用されます。1か月で約200円です。鎮痛効果を出すにはこの数倍の量が必要ですが、でもとんでもなく安いですね。そうであれば、臨床研究で明らかな差がでなくても、なんとなく有効なら毎日飲もうという人もいると思います。実際にアメリカなどでは、毎日少量のアスピリンを飲んでいる人は多数いるのです。ある意味サプリメントの気分で。だって、通常のサプリメントの値段よりも断然安いのですから。となると問題は副作用です。実はサリチル酸に比べて
ですから、たくさんの理由で、僕にとっては薬の王様の「アスピリン」も、内服するときは主治医と相談して、利点・欠点、効果と副作用を理解してから内服しましょう。
人それぞれが、少しでも幸せになれますように。
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