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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第23話 ゲイコミュニティーセンター ~性的マイノリティーとHIV/エイズ(3)

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ゲイ向けエイズ啓発センターの設置

 前回、厚生労働省のエイズ研究費によるイベントやキャンペーンが、ゲイ男性のコミュニティー形成の動因となった経緯を振り返りました。

 一方、すでにさまざまなコミュニティーイベントが開催されていた東京では(2000年には東京でプライドパレードや新宿2丁目のバー連合によるレインボー祭りが開始)、むしろイベントによる啓発やコミュニティー形成よりも、コミュニティーセンターの設置が先駆けました。

 諸外国の例からもゲイ向けHIV啓発には、ゲイタウンなどに設けた立ち寄りスペース(ドロップインセンター)の有効性がつとに知られていました。また欧米の大都市には、たいてい性的少数者のためのLGBTセンターなどが開館されています。しかし、日本ではこうしたコミュニティーセンターは遠い夢だろうな、と私なども思っていました。

 ところが2003年、新宿2丁目に突然、コミュニティーセンターが開設されました。厚生労働省が事業予算をつけ、厚労省のエイズ対策の実働部隊でもあるエイズ予防財団に委託。財団が、2丁目をベースに活動を続けてきたゲイ系NGO団体に運営を委託したのです。

 私はそのとき、HIV/エイズについて、あるルポを執筆するため、エイズ予防財団の知人を取材していて、そのなかで彼から今度、2丁目にコミュニティーセンターを開設すると聞かされ、寝耳に水と驚いたことを覚えています。取材の帰り、その足で別のエイズNGOの知人のもとに立ち寄りそれを伝えると、その人もまったく初耳でした。

 行政やコミュニティーセンター事業の主軸になった研究者と都内の各団体間の温度差に配慮して(前回参照)、事は秘密裏に進んだのでした。ただ、はじめから公にして各団体の意見を聞いていては、事は一向に進まなかったのかもしれません。いまだから言える話の一つです。

さまざまな「ハブ」機能を果たす場所

気楽に立ち寄れるよう、ボランティアによりデザインされた内装

 運営するゲイたちによって「akta(アクタ)※」と名付けられたその場所は、新宿2丁目の繁華街のなかにあって、ゲイタウンに出てきた当事者がふらっと立ち寄り、ついでにHIV情報に触れられる啓発ステーションです。同時に、HIV/エイズオンリーに閉じるのではなく、さまざまなイベントや展覧会、学習会や打ち合わせなどにも活用され、「2丁目の公民館」と呼ばれています。違う目的で来場したけれど、ついでに病気や健康の情報にも触れられる、それが狙いです。

 ※街を吹き交う塵芥〈ちりあくた〉のような場所でいい、との思いだそうです。

ゲイバーを訪問するボランティアたち。若いゲイだけでなく女性やシニア男性も参加する

 ここは2丁目に数百とあるゲイバーなどへのアウトリーチ活動のベース基地でもあります。毎週金曜の夜には、そろいのつなぎのユニホームを着た若いボランティアたちが、ゲイバーへチラシやキャンペーンのコンドームを届けています。毎週活動する彼らの姿は、街の人たちにエイズが自分たちにとって避けて通れない問題であることを思い出させる役割も果たしています。

首都圏の自治体のエイズ担当者や保健所とNGOとの意見交換会。来館のついでに2丁目の雰囲気も実感。

 またaktaは、寄せられる情報をもとにシンクタンクの役割も果たし、パンフレットの作成やイベントの企画、当事者への調査と学会等での発信など、さまざまな役割を担っています。ゲイ男性向けのHIV対策について、近隣自治体の担当者や保健所関係者と意見交換会も開催され、なかなか出会うことのできない当事者やコミュニティーと行政機関との「ハブ」機能も果たしています。

国が同性愛者に予算支出する唯一の事業

 こうしたコミュニティーセンターの役割が評価され、現在、同種のセンターが東京のaktaのほか、大阪、名古屋、仙台、福岡、那覇の全国6か所に設置され、それぞれエイズ予防財団から現地で活動しているゲイ系NGOに運営委託されています。(エイズ予防財団コミュニティーセンター事業

 研究費は通常、3年の研究期間に限られますが、コミュニティーセンターは事業予算として継続しています。現在、国が「同性愛者」に予算を支出しているのは、人権でも教育でもなく、このコミュニティーセンター事業が唯一です。

 その一方、近年の一律な予算カットはコミュニティーセンター事業にも及び、aktaもつねに「来年はない」との噂が絶えません。そして、もしaktaが廃止された場合、この場所があることで行えていたゲイ向けHIV啓発も継続が困難になり、かろうじて抑えられているゲイの感染拡大はふたたび止めどない拡大を示し、将来の医療費の増大も懸念されます。

 元来が税金で設置された場所で、ここはセクシュアリティーにかかわらず、だれにでも開かれています。お近くや出張・旅行のさいに気軽に立ち寄り、スタッフと話してみたり、いろんな資料をもらってみたりしてはどうでしょう。ゲイ男性を主とする性的マイノリティーの実際に触れられる貴重なスペースです。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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