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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

ステロイドで網膜剥離…医師も知らない?副作用

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 副腎皮質ホルモンは、文字通り副腎皮質から分泌され、特に生体がストレスを受けた時などにその防御のための重要な働きをします。

 このホルモンを人工的に合成した副腎ステロイド薬(以下ステロイド)が臨床応用されるようになったのは、半世紀以上前の20世紀半ばで、1950年のノーベル医学・生理学賞はこのことに貢献した3名が受賞しています。

 ステロイドは、炎症をおさえる作用や、異常な免疫反応を鎮める作用など、画期的な薬理作用があり、さまざまな疾患に対して広く用いられています。

 この薬があったおかげで、視力を取り戻すことができたり、重症な病気を軽症化させることができた例は、眼科の領域でも枚挙にいとまがありません。

 光があれば影があります。半世紀以上にわたって使用されてきた薬物ですから、医師は副作用も多数経験しています。

 優れた薬ほど、副作用と紙一重といっても過言ではありません。

 薬ですから「あって当たり前」のような副作用の情報を、以前は患者さんに提供することはありませんでした。今から考えれば、「良い薬には副作用は無い」かのように繕っていたとしかいいようがありません。

 同様に、医師が副作用ではないかと疑っても、みだりにそれを口に出してはいけないような風潮もありました。私が医師になって2、3年目のころ、ステロイドによって中心性漿しょう液性網膜脈絡膜症という病名の網膜剥離が出現しうることを見つけて、学会で発表した時には、大家といわれる先生方から多くの批判的意見が出ました。

 「裏付けの実験もせずに現象だけで副作用と言うとは何事か」と叱るものでした。その経緯は、私は拙著『目は快適でなくてはいけない』(人間と歴史社)で詳細に述べています。

 それから10年余りを経て米国の網膜疾患の大家が、私たちの論文を引用してこれを是認する見解を述べてから、空気が変わりました。今ではこの副作用は眼科の教科書にも記載され、眼科医の多くにとっては、ほぼ常識になったといえるでしょう。

 ところが、ステロイドはどの科でも使用されているのに、処方している医師は、目の副作用として白内障や緑内障は知っていても、この網膜への副作用を知っている医師はまだまだ少ないと思われます。今日では副作用は、頻度の低いもの、発生メカニズムが不明のものまで含めて、「疑いがあれば罰する」という姿勢で扱うことが次第に常識化し、患者さんにも情報を隠さず提供する時代になっています。

 にもかかわらず、知識が定着するのには長い時間がかかります。薬物には、まだまだ医師も知らない、気付かない副作用が依然として存在するというのが本当のところのようです。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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