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独り暮らしの在宅死…「覚悟」貫き通せるか

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こだわり捨てる必要も

独り暮らしの清水さん宅を診療に訪れた川越さん(左)。「独居の患者は増えている」と語る

 独り暮らしの高齢者が増えているが、独居でも自宅で最期を迎えられるのか――。末期がん患者を中心に訪問診療を続けている東京都墨田区のクリニック川越院長、川越厚さんは「決して不可能ではないが、容易ではない」と語る。

 10月末、東京の下町・台東区のアパートの一室。

 「熱はどう? せきは出なくなったようですね」。川越さんの問いかけに、介護用ベッドに寝ていた清水栄さん(85)が「入院していた頃よりだいぶ具合はいいです」と答えた。

 約30年間、この部屋に1人で暮らす清水さん。今春、血尿が出て、進行した膀胱ぼうこうがんが見つかったが、入院して体に負担がかかる治療をするより、最期まで住み慣れた家で療養することを望んだ。

 9月から、川越さんの訪問診療を受けている。訪問サービスのヘルパーや看護師が代わる代わる出入りして様子を確認。時々発熱などがあるが、痛み止めの医療用麻薬などで症状を和らげ、落ち着いて過ごしている。「みんなに見守られ、今が一番幸せ」と笑う。

 川越さんは2000年、在宅ホスピスケアの診療所を開設。以来、約2000人を看取みとってきたが、うち1割が独居だという。これまでの経験から「独居でも最期まで自宅で暮らせる。でも、決してきれいごとでは済まない」と強調する。

 衰弱が進む終末期。痛みや呼吸の苦しさを適切な投薬で緩和しても、記憶力が低下し、飲み薬の管理など身の回りのことができなくなったり、強い不安で落ち着かなくなったりするなど日常生活にさまざまな問題が起きる。

 そんな中で、独り暮らしの患者が最期まで在宅生活を続けるには何が必要か。

 「一番に問われるのは、本人の意思。最期を家で迎えたいと思うか。言い換えれば『臨終の瞬間、隣に誰もいなくてよい』という覚悟が持てるか」と川越さんは語る。

 もちろん親戚・知人が何日間も泊まり込んでくれるケースもあるが、現実には、24時間誰かが付き添い続けるのは困難だからだ。

 また、自分だけの部屋に他人が入ってくること、他人の世話になることを本人が受け入れないといけない。衰弱すれば、身の回りのことができなくなっていくが、なかには「他人に迷惑をかけない」という信念が強すぎる人がいて、スタッフが悪戦苦闘することもある。

 在宅で看取るという方針について、別居している家族や親族の理解を得る努力も必要だ。死亡届を誰が出すかという問題もある。独居といっても、連絡を取れば、8割程度は家族らから何らかの支援が得られるという。

 「長い人生、誰しも生き方にこだわりを持っていると思うが、そんな『心の鎖』を少しずつ断ち切っていかないと、特に独居の人が、家で最期を迎えるのは難しい」。時に患者と家族、患者と訪問スタッフ、ボランティアの心のぶつかり合いを見てきた川越さんは思う。

 「住み慣れた自宅と言えば理想的だが、現実には病院や施設に受け入れてもらえないために起こる『否応なき在宅療養』もある」と川越さん。長年の在宅看取りの経験談を著書「ひとり、家で穏やかに死ぬ方法」(主婦と生活社、1300円税別)にまとめた。(高橋圭史)

 在宅ホスピスケア 
 末期がんなど、余命が限られた患者の苦痛を和らげ、住み慣れた家での暮らしを最期まで支えるチームケア。在宅医と看護師やヘルパーが連携して行う。日本在宅ホスピス協会のホームページで取り組む医療機関のリストを掲載している。
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