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知って安心!今村先生の感染症塾

医療・健康・介護のコラム

<12月1日は世界エイズデー>HIV/エイズの正しい知識を

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エイズ/HIVへの理解と支援の象徴として使われるレッドリボン

 HIV感染症は、結核、マラリアとならぶ、世界三大感染症のひとつです。かつては、HIV感染症には有効な治療薬もなく、「エイズは死の病」と考えられていました。しかし、1996年からはじまった本格的な治療によって、そのイメージも大きく変わっています。今は、感染を早期に知ることで、効果のある薬による治療を始めることができます。そして、多くのHIV陽性者が治療を続けることによって、仕事や学校などの社会的な生活を営んでいるのです。

 12月1日は世界エイズデーです。みなさんも、この機会にHIV感染症の「今」を知ってください。

 

HIVに感染すると何が起こるの?

 HIV感染症とは、HIVというウイルスが感染しておこる病気です。

 HIVに感染しても、数年から十数年(注)は特に症状もなく経過するため通常の生活を続けられます。しかし、何も治療をしないと、感染した状態が長く続いている間に、人が本来もっているはずの、いろいろな病気と闘う抵抗力が徐々に低下してきてしまいます。
(注:最近、エイズを発症するまでの期間が早くなってきているのではないかという報告もあります)

HIV感染症とエイズ(AIDS)

 HIVによって、ある程度以上に抵抗力が下がってしまうと、他のいろいろな病気を発症しやすくなってしまいます。それらの中には重い病気や治療できない病気もあるため、病気によっては亡くなってしまうこともあります。抵抗力がなくなって起こる様々な病気のうち、代表的な23の病気を発症した状況を『エイズ(AIDS)』と呼んでいます。つまり『エイズ』とは、HIV感染症の中でも、特に病気が進行した状態であることを示しています。

HIVの日常的な感染リスク

 HIVは、一般的には日常的な生活では感染しにくいウイルスです。たとえば以下のようなことでは、感染しないということを知っておきましょう。

 ・ スリッパを共有する

 ・ 同じ料理を箸でつつく

 ・ 同じトイレを使う

 ・ 洗濯物を一緒に洗う

 ・ 握手や抱擁(ハグ)をする

 ・ 一緒にお風呂に入る

 また、軽いキスでも感染しません。

 現在の国内での流行は、性行為にともなう感染が中心となっています。そして、特に同性と性行為をもつ男性に感染が広がっています。HIVの治療を受けていない感染者では、ウイルスが増えているために、セックスによる感染リスクが高まります。HIV感染は、本人も感染に気づいていない可能性があります。したがって、リスクのあるセックスでは、コンドームの使用で感染を防ぐことが大切です(コンドームを使うことは、HIV感染症に限らず、様々な性感染症を防ぐためにも必要な予防策です)。

 社会だけでなく、医療者の中にも、まだHIV感染症の予防を過剰に考えてしまう方がいます。しかし、血液を介しての感染を考えるなら、B型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)よりも、感染しにくいウイルスであるということを知っておくとよいでしょう。医療者が、針刺しなどによって感染する率は、HBV>HCV>HIVの順となっています。つまり、HIVだけに特別な防御はしないということ。B型肝炎ウイルスに対する予防が、そのままHIVにもあてはまるのです。日常生活においても、これらのウイルス以上の過剰な予防は必要ありません。また、医療現場での針刺しなどにおいては、抗HIV薬による予防投与も行われており、これによって医療者の感染を防ぐことも可能となっています。

 医療者の針刺しによる「HIV」の感染率は『0.3%』です。

 おおまかな覚え方として、HBV30%、HCV3%、HIV0.3%と理解しておくとわかりやすいです。

 アルファベット順で「B」「C」「I」と低くなる。HBV30%、HCV3%、HIV0.3%と覚えておきましょう!
(正式には「HCV」0.5~1.8%、「HBV」6~30%くらい)

治療が進歩してきています

 HIV感染症の治療は大きく進歩しました。薬の内服を続ければ、血液のウイルスを検査で測定できないくらいに抑えることができるようになっています。そして、できるだけ早くHIV感染症を発見して治療を始めることで、抵抗力が下がってしまうことを防ぐことができるようになりました。

 抵抗力が下がらなければ、死亡する原因となってしまう重い病気になることがなくなります。また、すでに病気を発症してしまった人でも、その病気を治してHIVを抑える薬を飲みはじめれば、また抵抗力を回復させることもできるようになっています。治療を続ければ、HIVに感染しても、仕事や学校へ通いながら生活することができるようになってきているのです。

HIV感染症と長期合併症

 HIV感染症の治療によって、抵抗力が下がって起こるような病気を防ぐことができるようになりました。しかし、治療が長期化してきた中で、これまでとは別な問題も生じてきています。特に、HIV陽性者における心血管疾患、慢性腎臓病、肝臓疾患、骨関連疾患、認知障害、悪性腫瘍などの長期合併症の増加は、これから解決していくべき大きな課題となっています。また、予後の改善に伴う高齢化もすすんできており、在宅医療などの地域連携も必要となっています。

早期診断の重要性

 エイズ発症してしまうと、治療が進歩した今でも、亡くなってしまうことや、改善しても後遺症などを残すこともあります。また、診断が遅れるほど、長期合併症のリスクも高まることがわかっています。治療が進歩してきたからこそ、感染を早く発見することが以前よりも大切になってきているのです。

 HIV感染症は、まったく症状がない期間が長いということも特徴です。たとえ症状がなくても、不安があれば積極的に検査を受けるようにしましょう。また、すでにHIVに感染している人も、まだ感染していない人も、HIV感染の有無にかかわらず性感染症の予防をしていくことが必要です。

正しい知識をもちましょう

 HIV感染症の医療の中では、一人一人のHIV陽性者の治療を支え、そしてより良い社会生活を送っていけるように、多くの人たちが関わっています。医師、看護師、薬剤師だけでなく、カウンセラーやソーシャルワーカー、そしてボランティアなど、様々なスタッフが懸命な努力を続けています。

 HIV感染症は、治療の進歩によって大きく変わっています。しかし、社会だけでなく、医療の中においてさえも、まだ十分な環境が整っているとはいえません。これからは、今まで以上に、関わるそれぞれの人たちが正しい病気の知識を持つことが大切になっています。

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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