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がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点

医療・健康・介護のコラム

抗がん剤は怖くない!?

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副作用はどれぐらいあるのか?

 抗がん剤と聞くと、

 「副作用が怖い」

 「副作用で体がボロボロになる」

 「副作用で寝たきりになり、仕事もできなくなる」

 などというイメージがあるのではないでしょうか。

 確かに抗がん剤には副作用がつきものです。がん細胞はとっても強力な細胞ですから、この強力ながん細胞をやっつけるのには、強い薬を使わなければなりません。それには、必ず副作用が伴います。副作用がゼロであり、がんによく効く薬を開発するのが、我々の夢でもあります。

 ただ、現在の抗がん剤の副作用は実際には、どれくらいなのか?というと、「副作用で寝たきりになり、何もできなくなる」という人は、かなりまれであり、「副作用はあるけれど、治療を受けながらも日常の生活をしながらやっていける」という人がほとんどです。

 抗がん剤の副作用で体がボロボロになるというのは、我々専門家からすると、20年くらい前の抗がん剤の話で、現在では全く違う状況になったと言えると思います。

女性社長、抗がん剤拒否を決めていたが……

 60歳代の大井さんは、子宮体がんで手術を受け、ステージ3と診断されました。手術後の抗がん剤を勧められましたが、以前より、「抗がん剤は効かない」の著者の近藤誠先生の愛読者であり、自分ががんになったら、絶対に抗がん剤は受けないと決めていたそうです。

 抗がん剤を受けない、と決めていた理由は、やはり、抗がん剤で体がボロボロになり、仕事もできなくなるといったことを信じていたからです。大井さんは、ある化粧品メーカーの社長さんです。仕事もバリバリにされている方でしたから、なおさら、仕事のために、抗がん剤はやらないと決めていたのもうなずけます。

 そんな大井さんが、婦人科の主治医や周りの人に勧められて私の本を読み、私の外来を受診されました。

 最初は、かなりかたくなに抗がん剤はイヤだと拒否をされていました。時間をかけてお話ししているうちに、ご自分の抗がん剤のイメージは間違った情報のうえからきたものであることの誤解が解くことができました。また、抗がん剤の副作用や副作用対策について詳しい説明を受けたので、納得と信頼のもと、治療を決めることができたとも言われました。術後の抗がん剤は、再発の予防を、治癒を目指すものであること、通院治療が可能であり、(副作用に個人差はあるものの)仕事をすることもできるなど、詳細に説明させていただきました。

 実際に、抗がん剤を1サイクル終わった後、彼女が口にしたのは、「思っていたイメージとは全く別なものでした。ただ、脱毛が始まったときには、一瞬、勝俣先生のことを恨みました(笑)」という言葉でした。

脱毛対策は難しいのが実情

 脱毛というのは、患者さん、とくに女性にとっては、つらいものと思います。

 抗がん剤の副作用対策はかなりすすんでいて、ほとんどの副作用は対処可能ですが、脱毛だけは、難しいのが現状です。抗がん剤治療中の脱毛予防の薬を開発したら、ノーベル賞ものだと言われているくらいです。

 抗がん剤の種類によって、抜けにくいものと、抜けやすいものがありますが、いったん脱毛が始まったら、バサバサと抜けていきます。どっさり抜けた自分の髪の毛を見たら、涙が出てきたなどとも聞きます。

 脱毛対策としては、ウィッグや帽子などをかぶっていただくことになります。現在では、比較的安価でおしゃれなものも出回ってきて、昔よりは、いろいろ選択肢が広がったように思います。また、がん患者さんを専門にしたメーカーさんもあり、いろいろと相談にのってくれるなど、充実したサポートを受けられるようになりました。

副作用が少ないと効果も少ない?

 副作用と効果の関係もよく質問されることです。

 「抗がん剤の副作用があまりないので、効果があるのかどうか不安です。」

 「副作用がきついのですが、治療を続けたいのでがまんしてみようと思います」

 などと言われますが、抗がん剤の副作用と治療効果は、関係がありません。副作用というのは、正常細胞に対する作用なので、がん細胞にはあまり関係がないのです(一部の抗がん剤を除いてです。セツキシマブという大腸がんに使う分子標的薬は、関係があると証明されています)。ですから、副作用はなるべく抑えたほうがよいのです。

 また、副作用は生活の質を妨げるものです。生活の質を保つことは命の質を保つこと。患者さんが自分らしく生きていくために大切なことです。何らかの対処方法が必ずありますので、遠慮せず医療者に聞いてみましょう。

 ひとつ大切なことは、副作用が見られた場合、抗がん剤を減量するかどうか?ということですが、これは、がんの種類、ステージ、術後なのか、再発転移状況なのか、副作用の種類や程度などによって、違ってきますので注意が必要です。

安易に減らすと、効果も減らす

 抗がん剤を減量するということは、副作用を減らすということでは、最も簡単な対応策ですが、安易に減らしてしまうと、効果も減ってしまう恐れがあるので注意が必要なのです。

 患者さんが副作用による苦しさを訴えると抗がん剤の投与量を減量してしまいがちですが、私たち腫瘍内科医(抗がん剤専門医)は安易には減量しません。副作用に対して最大限に対策をして、患者さんの生活の質をうまく保つことを考えながら、がんに対する治療効果も損なわないよう工夫しているのです。

 今回は、抗がん剤の副作用の誤解を解いてきました。みなさんの治療の参考になれば幸いです。

 次回は、白血球減少時の対策について解説します。

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katsumata

勝俣範之(かつまた・のりゆき)

 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

 1963年、山梨県生まれ。88年、富山医科薬科大卒。92年国立がんセンター中央病院内科レジデント。その後、同センター専門修練医、第一領域外来部乳腺科医員を経て、2003年同薬物療法部薬物療法室医長。04年ハーバード大学公衆衛生院留学。10年、独立行政法人国立がん研究センター中央病院 乳腺科・腫瘍内科外来医長。2011年より現職。近著に『医療否定本の?』(扶桑社)がある。専門は腫瘍内科学、婦人科がん化学療法、がん支持療法、がんサバイバーケア。がん薬物療法専門医。

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