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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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小久保采配に「なんで!?」、医療でも思い当たる事が…

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 今日は、「なんで」というおはなし。

 先日の野球の国際大会「プレミア12」日韓戦での大谷翔平投手の交代で僕が思った感想です。久しぶりにテレビで生中継を見ていました。僕と同じように「なんで」と感じた人はたくさんいたのではと思います。だって、7回まで85球で、ヒットは1本打たれたのみです。電光掲示板では、ストレートは160キロ・メートルを示しています。テレビで見ていても速いなと思いました。また、韓国の打者が、ちょっと打てないような雰囲気でした。これは素人の僕の判断ですが、素直にそう感じたのです。85球しか投げていないし、このまま9回まで完投してくれれば、3点も味方は取ってくれて、相手はもちろん0点ですから、だれもが楽勝を予想していたのではないでしょうか。ところが小久保監督は、このエース大谷投手を交代させました。理由は知りません。本人が希望したのか、本人の体に不調があったのか、小久保監督の采配か、他の人の意見か、わからないのです。8回の韓国は0点でした。引き継いだ投手陣は結構速い球を投げているのでしょうが、テレビで見ていても大谷投手の球よりは明らかに遅く感じました。また、何より、大谷投手の交代を知ったときの韓国ベンチのはしゃぎようが印象的でした。そして9回になり、なんと韓国に逆転されます。小久保監督の顔がテレビで映し出されていましたが、「血の気が引く」とはこんな感じなんだろうなと思いました。結局は負けです。そして韓国は決勝戦でアメリカを完封して、プレミア12の王者は韓国になりました。本当におめでとうございます。最後まで、日本に食らいついて最後に逆転した底力、すごいですね。

「俺が監督をやっていれば…」試合後の批評は簡単

 さて、その後のこと。いろいろなメディアが小久保采配を批判します。そうですよね。僕だって、「なんで」と思って、そして見事に韓国に逆転されたのですから。お茶の間の人は、僕のように、「小久保さんではなくて俺が監督をやっていれば日本はプレミア12の王者だったのに」と思っていることでしょう。同じように評論家や論客の何人かは、「大谷は当然に続投だった」とのコメントをしています。悔やまれますね。悔しいですね。以前僕が見たアニメにも同じような場面があって、とんでもなく速い球を投げた投手の後に、相当速い球を投げる投手が出てきても、打者は遅く感じるといった内容がありました。そんなことも思い出しましたよ。だって、韓国の打者は大谷投手が交代した時に、本当に安堵あんどしているようでした。そして韓国の監督も同じようなコメントを残しています。

 さて、批評とはこういうものです。終わってから、いろいろと講釈ができます。「なんで」という思いはどんどんと強くなるのです。もしもこれが、大谷投手が降板して、その後ピシャリと残り6人の打者を、マウンドを引き継いだ投手が抑えれば、何も問題ありません。そしてアメリカとの決勝戦が混戦になって、最後に大谷投手が抑えに出てきて、優勝なんてことになれば、名采配になります。準決勝で7回85球の大谷投手を降板させて、この場面のために温存したのだとなるでしょう。小久保監督は名将になります。

医療の場合…「なぜそうした」と問いつめる弁護士

 後からの批評は簡単ですよね。だって、その意思決定が間違っていたと知っているのですから。大切なことは、監督はその時点で、その瞬間に重大な意思決定をしなければなりません。医療も同じですよ。医療も「なんで」ということがまれに起こります。通常上手うまく行く手術が不成功に終わったり、薬の副作用が想像以上に大きく出現したり、実は診断が間違っていたり、新しい病気を発見できなかったり、患者さんの特異体質がわからなかったり、解剖学的な特異性を把握できなかったり、いろいろなことで「なんで」ということが起こりえるのです。昔は、こちらの事情をお話しすると納得していただくことが多かったのですが、最近は弁護士の先生の出番になります。弁護士の先生は、僕が小久保監督の批評をしたのと同じ立場です。だって、結果を知った上で、「なぜそうしたんだ」と問い詰めてきます。その時は実は精一杯の意思決定だと説明しても、他の専門家は「なんで」と思っているということになります。

ガイドラインが「盾」にはなるが…

 医療はまだまだ「人はいろいろ」ということを加味できません。ある大きな集団としてこの治療がすぐれているということは臨床研究から次々にデータが出されます。野球でいうと1年間を通して、より多くの勝率を残すにはこんな作戦が一番だということです。そんな多くの場面で、多くの監督が選ぶであろう最良のストーリーをまとめたものが、医療ではガイドラインです。しかし、そこにはまだまだ「人はいろいろ」という要素が不足しています。でもそれが精一杯の今の結論です。ガイドライン通りに治療すれば弁護士の先生への「盾」にはなります。でも、ガイドライン通りに行かないことも多々あります。ガイドラインとは異なることが実はベターなこともあります。医療チームは精一杯患者さんのことを考えて頑張っています。でも負けることもあるのです。「なんで」と思うこともあるのです。今日はそんな野球の采配と医療が重なって見えたお話でした。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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