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オトコのコト 医師・小堀善友ブログ

妊娠・育児・性の悩み

新しい男性不妊症原因遺伝子の解明

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 先日に続き、米国生殖医学会:American Society for Reproductive Medicine通称ASRM)の話です。

 学会中に色々勉強してきたのですが、一番印象に残ったのは、男性不妊症の原因となる遺伝子が、色々と解明されてきたことでした。

 人間の遺伝子は、通常は、22組×2本の常染色体と、XとYの2本の性染色体の合計46本で成り立っています。

 性染色体がXXの場合は女性であり、XYの場合は男性となります。

 Y染色体の中には、精巣を作り出すSRYという遺伝子があります。その遺伝子が発現することにより、お母さんのおなかの中で精巣ができあがり、その精巣から男性ホルモンが出ることで男性の体はペニスができるなど男らしくなってくるのです。

 今まで、無精子症や高度乏精子症の原因として、AZF(Azoospermia factor)という名前の遺伝子の微小欠失が関わっていることがわかっていました。AZFはY染色体上にあり、3つのパート(a,b,c)に分かれています。

 正確に言うと、完全に3分割できるのではなく、AZFbとAZFcの場所は重なり合っています。それぞれの遺伝子の場所が、少しだけ欠けてしまう場合があります。いずれも、精液中に精子が見付からず、精巣の働きも悪い非閉塞性というタイプの無精子症、などが起こりますが、欠けた場所によって、影響が異なります。また、そのような欠失があったとしても、他に何らかの影響が出るわけではないのです。そのため、不妊治療をきっかけとして、染色体検査・遺伝子検査をすることによりこれらの欠失があることがわかります(正確に言うと、AZFの欠失がある場合、他の遺伝的問題がある可能性もあることが学会では指摘されていました)。

(米国生殖医学会のセミナー資料より)
AZFa欠失:無精子症顕微鏡を使って、精巣から精子を探す手術(Micro-TESE)をしても精子は採取できない
AZFb欠失:無精子症手術をしても精子は採取できない
AZFb+c欠失:無精子症手術をしても精子は採取できない
AZFc欠失:無精子症もしくは高度乏精子症手術をすることで、精子が採取できる可能性がある(報告にもよるが、精子採取率は50%前後。近年はもっと高い報告も多数あります)

 非閉塞性無精子症患者の中でAZFaもしくはbの欠失の割合はとても少ない(0.1~1%前後)ですが、AZFcの欠失は5~10%ほど報告されており、現在では非閉塞性無精子症患者さんや高度乏精子症患者さんには検査が推奨されています。

 日本では、以前はアメリカに血液を郵送して検査していましたが、数年前から国内でも検査ができるようになりました。手術の前に精子が採取できるかどうか、を診断できる可能性があるため、無精子症患者さんにとっては非常に重要な検査となっています。

 また、重要なこととしてAZFc欠失の患者さんの半数前後は手術で精子が取れるので、体外受精や顕微授精で子供を作ることができる可能性があります。

 でも、そのお子さんが男性だったら、父親のY染色体が受け継がれるので、不妊症になってしまうのです。そのことを十分理解していただくために、遺伝カウンセリングが欠かせません。

 AZFの微小欠失の話は不妊症を扱う医者の間では当たり前になってきたのですが、今年の米国生殖医学会の報告では、それ以外の男性不妊を引き起こす遺伝子が常染色体やX染色体上に多数見つかっていることがわかりました。それは、ここ数年で大きな変化です。

 無精子症や、精子が得られても、受精できなかった原因が様々な遺伝子で説明できてしまいます。あと少ししたら、これらの遺伝子を一気に調べることができる検査が登場するのでしょう。そして、治療していくようなこともできるのかもしれません。

 男性不妊症の診断は今後大きく変わっていくと思われます。


 
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小堀善友 (こぼり よしとも)

泌尿器科医 埼玉県生まれ

2001年金沢大学医学部卒、09年より獨協医科大学越谷病院泌尿器科勤務。14年9月から米国イリノイ大学シカゴ校に招請研究員として留学。専門分野は男性不妊症、勃起・射精障害、性感染症。詳しくはこちら
主な著書は『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)。詳細はこちら

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