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五郎丸選手のルーチンも…自律神経のバランス整えるコツ

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 はっきりとした心当たりのない体調不良には、しばしば自律神経のバランスの悪さが影響しているという。自律神経の乱れは集中力の欠如にもつながり、逆に、自律神経をコントロールできれば、スポーツでも素晴らしいパフォーマンスを見せることができる。その最たる例が、英国で開催された2015年ラグビーのワールドカップ(W杯)で日本代表チーム躍進の原動力となった五郎丸歩選手のプレイスキックの際のポーズだと説くのが、順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんだ。BS日本テレビ「深層NEWS」に出演した小林さんが、健康な生活を送るための自律神経の重要な役割や、そのバランス向上のために必要なことを、分かりやすく解説した。(構成 読売新聞編集委員 伊藤俊行)

◆交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキ

(図1)BS日テレ「深層NEWS」より
(図2)BS日テレ「深層NEWS」より
(図3)BS日テレ「深層NEWS」より

 人間の体には、脳を中心とした中枢神経と、末端に流れる末梢神経があります。末梢神経は二つの神経があり、大きく分けて、自分でコントロールできるものと、できないものがあります。

 自分でコントロールできるものは、体性神経です。体性神経は、腕を動かす、足を動かす、痛みや熱さを感じるといったように、運動神経と知覚神経に分けられています。

 末梢神経の中で、自分の意志でコントロールできないものが、自律神経です。例えば、座ってじっとしていても、心臓も、腸も、瞳孔も、頭の先から爪先まで、いろいろなものが動いています。身体の「ライフライン」と言われているものが、自律神経なのです。

 自律神経には、交感神経と副交感神経があります。

 車に例えると、交感神経はアクセルで、副交感神経はブレーキにあたります。車がアクセルだけでも、ブレーキだけでも機能しないように、人間の体も、交感神経、副交感神経の両方があって、初めて機能します。それだけ、繊細にできているのです。

 図2で見てみましょう。交感神経の働きは、血管、血圧、心拍、筋肉、発汗では、どれも活動的な感じがします。ですから、車で言えば、なんとなくアクセルに近い。これに対し、副交感神経の働きを見ると、のんびりしているイメージがあります。ブレーキだというのは、そのためです。ただし、腸だけは逆です。腸は交感神経で緩み、逆に副交感神経で動きます。ここが、血管、心拍、発汗とは違うところです。ゆっくりしているイメージの時に、腸はしっかり動いているのです。偉い人との食事で緊張して、お腹が痛くなるというような時は、緊張で交感神経が高くなって、腸が動かなくなることによって起きたと考えられます。

 自律神経のバランスを見ると、図3のように、四つのタイプに分かれます。理想的なのは交感神経も副交感神経も高い、つまり、活動が活発な、Aタイプです。アクセルもブレーキも利いています。 Bタイプは、交感神経だけが高く、副交感神経が低いため、バランスが悪い。この正反対がCタイプの人で、アクセルがあまり利かず、ブレーキばかりになってしまっています。タイプは相反していますが、その結果、体に出てくる症状としては、全く同じような症状が出てくることがあります。自律神経失調症の中には、このB、Cタイプの人も入ってきます。そして、両方とも低いDタイプは、最悪のパターンということになります。

◆気圧の変化や「怒り」も影響

 自律神経のバランスが崩れると、どうなるでしょうか。

 Bタイプのように、交感神経が高いと、血管がキュッと締まります。従って、血圧が高くなったり、代謝が悪くなったりと、血行が悪い状態の病気がいろいろと出てきます。Cタイプのように副交感神経が高いと、副交感神経がアレルギー物質を誘導するため、花粉症やぜんそくなど、アレルギー症状が出てきます。

 また、Bタイプの人は、いわゆるパニック障害になりやすいという面もあります。人ごみに出ていけないとか、電車や飛行機に乗ることができないとか、ぎりぎりの精神状態になりやすいのです。これに対し、Cタイプの人は、鬱の状態になりやすい。ここが、BとCの大きな違いです。

 Dになると、血液が流れていかない状態ですから、眠れない、疲れがとれない、痛みを感じるということが、起きやすくなります。

 自律神経に影響を与えるものとしては、気圧が挙げられます。

 天気がいいと快調で、なんとなく気持ちがいい。雨が降ると憂鬱になる。これは、気圧が自律神経に影響を与えているためです。

 気圧が20ヘクトパスカル以上、低下すると、人は血流が悪くなります。近年、日本列島をしばしば襲う爆弾低気圧では、50ヘクトパスカル以上も気圧が下がっていますから、非常に調子が悪くなります。

 また、怒ると、交感神経だけを高くして、自律神経のバランスを崩してしまいます。常に怒っているような人は、気圧の変化などの影響もより強く受けますから、注意した方がいいでしょう。

 怒ると、ものすごく血流は悪くなります。怒った後で倒れる方も、よくいらっしゃいます。あれは一瞬、血管がキュッと締まって、頭に行く血流が途絶え、それで気を失うというパターンが多いのです。ですから、「いや、怒っても体悪くするんだったら、怒らない方がいいんじゃないか」と考えれば、少し、怒るのをやめようということになるのではないでしょうか。怒って良いことは、何もありません。

 自律神経のバランスは「伝染」しますので、バランスのいい人と一緒にいると、周囲にいる人もバランスが良くなり、逆に、バランスの悪い人といると、周りのバランスも悪くなります。野球で投手が乱れてくると、守備まで乱れますね。投手のテンポがいいと、守備でもファインプレーが出ますね。そういうものと一緒です。常に冷静で、平常心を保つことのできる、自律神経のバランスのいい人と仕事をしていると、周りもそうなってくるのです。

 私自身も、昔は性格が激しく、大変でした。けれども、こうした研究をしているうちに、怒ると体に悪いと思うようになって、怒らなくなりました。あまり怒っても、血流が悪くなるだけで、周りにも良い影響を与えないうえ、怒っていると仕事の結果も悪くなります。車を運転しているときに怒っていれば、事故にもなります。乱れるというのは、それだけリスクを高めることになるのです。

 気圧や怒りのほかにも、常に時間に追われ、時計ばかり見ているような状態だと、自律神経のバランスが悪くなるとか、女性がハイヒールをはいて、体に合わずに無理な筋肉を使っている状態だと、自律神経が乱れるというようなことがあります。

 現在は、自律神経の状態を自動的に測定できる器械があり、数値で示すことができますから、どういう状況に置かれると自律神経が乱れるのか、分かります。

◆五郎丸選手のキックの精度

 先ほど、自分でコントロールできない、だから自律神経という名前なのだと申し上げましたが、実は、コントロールできます。それが応用されているのが、スポーツの世界です。

 スポーツ選手は、いかにいいパフォーマンスができるかどうかが重要ですから、そこに自律神経がどう関わっているのかを研究するようになりました。その研究で分かった原理を最初に取り入れたところの一つが、慶応大学のラグビー部です。また、プロゴルファーも、この原理を取り入れています。おかげで、自律神経の研究が一段と進みました。

 ラグビーW杯で活躍した五郎丸選手のキックの精度は、自律神経と関係があると思います。

 人間の体の中には60兆個の細胞があります。パフォーマンスの向上は、この細胞に、質のいい血液を十分に流すことができるかどうかにかかっています。それができれば、手足の末端にまで血液が流れ、繊細で敏感になり、身体がいろいろな対応をできるようになるのです。

 ラグビーのプレイスキックは、五郎丸選手以外の選手もみな、自分のルーチンを持っています。ルーチンは非常に重要です。ルーチンによって、五郎丸選手の何が一番整っているのかといえば、呼吸です。呼吸が整うと、自律神経が安定します。すると、血流が末端まで行き、思ったところにキックできるようになるのです。

 呼吸には吸う息と吐く息がありますが、重要なのは吐く息です。実は、自律神経の「センサー」は頸動脈、首の部分にあり、吐く息で作用します。ですから、息を吐くのと同時に、自律神経が安定するのです。ヨガや太極拳などが、吐く息を重視するのも、そのためです。

 理想的な呼吸は、ため息です。「ため息をつくと幸せが逃げる」などと言いますが、そうではないのです。嫌なことを考えると呼吸が浅くなり、それを補うために出てくるのがため息です。つまり、ため息をつくことによって、人間の体は、自律神経のバランスを取り戻そうとしているのです。

 あまり難しく考えず、鼻で4秒吸って、口をすぼめてゆっくり8秒かけて吐けば、効果的です。ゆっくり、吸った時間の倍の時間をかけて、ふーっと吐く。これから会社のプレゼンテーションがあるとか、大事な人との会合があるとか、寝る前とか、そういう時に一分間だけでもいいので、やってみると、全然、違ってくるはずです。

 五郎丸選手の有名になったポーズについて言えば、自分自身のバランスと呼吸、全てを心地よい状態にもっていくには、人それぞれのルーチンがあるということです。常に同じルーチンを経てパフォーマンスに入っていくのは、そうすることで、呼吸、自律神経、血流と順次安定していくということが、体に染みて分かっているからです。

◆タイガーウッズのルーチン

 ゴルフでも、タイガーウッズ選手はパターの時に必ず2回、大きい呼吸をするのがルーチンです。打った後、淡々と歩くのも、彼のルーチンです。ほとんどのプロゴルファーは、アドレスに入るところから全て、ルーチンをやっています。それは何をしているのかと言えば、呼吸を安定させて、自律神経を安定させているのです。

 タイガーウッズ選手の歩き方は典型で、足が下から出るのではなく、胸のあたりから出るようなイメージで歩いています。こうすると、自然と足が前に出て、胸郭も広がり、酸素を取り入れやすいのです。歩き方は常に一定で、絶対に走りません。走ればそれだけ、心拍が乱れ、自律神経が乱れます。とくにグリーンに上がっていく際には、本当にゆっくりと上がっていきます。

 ミスショットを引きずると、長ければ3時間は、自律神経の乱れから回復できません。朝怒ると、午前中はなんとなくイライラしている状態で終わるということがないでしょうか。それと同じです。ゴルファーはものすごく繊細ですから、ちょっと乱れると次のホールまで影響します。競技場に行くときに車が渋滞すると、乱れてしまうということもあります。

◆30、40歳代で血流が悪化

(図4)BS日テレ「深層NEWS」より
(図5)BS日テレ「深層NEWS」より

 図4は、体がリラックスしている時の副交感神経のレベルです。これを見ると、30歳代、40歳代になると副交感神経が下がってきていることが分かります。

 交感神経は加齢によってそれほど変動がありません。若干、下がりますが、統計的な有意差は出てきません。ところが、車のブレーキである副交感神経は大きく下がってきます。そこから言えることは、男性は30代、女性は40代を超えたあたりから、血流の流れが悪くなるということです。そのため、「どうも体力が落ちた」と感じたり、疲れやすくなったり、痛みが出たりということが、起きやすくなるのです。

 これは、ほとんど個人差はありません。年齢とともに、副交感神経の活動レベルは、誰もが低くなっていくのです。ただし、男女差はあって、女性の方が男性よりも、活動レベルの低下が10年遅い。これが、女性の方が平均寿命が長いことと関係しているのではないかという仮説を持っています。

 男女差の理由として考えられるのは、ストレスの差です。今は女性も社会で活躍していますが、これまでは男性の方が社会の中でストレスを受けやすかったということがあったのではないでしょうか。また、女性の方が体の変化に対応するのが、もともとうまいということもあると思います。つまり、生理などによってホルモンのバランスが変わる中で、上手にコントロールしているということです。そのあたりも、女性の生命的な強さに関わりがあるのではないかと考えています。

 では、自律神経のバランスを良くするには、どうすればいいでしょうか。まずは、図5で健康チェックをしてみましょう。この中で、一つでも当てはまるようでしたら、自律神経がちょっと乱れているのではないかと疑ってください。血液のデータや、画像診断には出てこなくても、放っておくと、深刻な状況になることが多々あるので、注意が必要です。

 自律神経のバランスを良くするために、薬を使う必要はありません。日常生活を改善し、呼吸を良くすればいいのです。そのためには、全ての動きをゆっくりしてください。動きがゆっくりだと、人間は自然に呼吸します。仕事に追われたり、時間に追われたりすると、呼吸が浅くなるか、呼吸をほとんどしていない状態になっています。ゆっくり動くと、水をこぼしたり、何かをひっかけたりするということがなくなりますね。呼吸を十分にしているため、血の巡りがいいのです。夜、歯磨きをしてみると分かります。いつもの通りの歯磨きを、ゆっくりやるだけでいいのです。その時に、呼吸をしている自分に気付きます。それだけ、日頃、呼吸をしていないということです。

 水を飲むのも、コップを動かすのも、ものを片づけるのも、字を書くのも、全てゆっくりやる。そうすることで、自律神経はものすごく落ち着きます。話す速度もゆっくりにすれば、話をしている相手の自律神経も良くなりますから、ちゃんと聞いてくれる。政治家だと、石破茂(地方創生担当相)さんの、ゆっくり、噛んで含むような話し方はいいですね。聞く方にもしみこんできます。

◆健康でいるための5か条

(図6)BS日テレ「深層NEWS」より

 いつまでも健康でいるためには、自律神経のバランスが大切です。図6に、バランスを良くするために日常的に行ってもらいたいことを5つ示しました。

 ②の「朝、コップ一杯の水」は、ちょこちょこ飲むのではなく、一気に飲んでください。寝ている時には内臓系は全部止まっている状態ですが、一気に水を飲むと、胃の中に大量に水が来て、重力で腸を押します。これは胃結腸反射と言います。

 そうすると、腸が起き出して、食欲が出てきます。腸が動けば、副交感神経が上がります。朝はどうしても、交感神経が上がっていて、副交感神経が低いのですが、水を飲むことで、副交感神経が動くのです。白湯でもかまいませんが、一気に飲まないといけないので、常温の水をお勧めしています。

 発酵食品は、腸内環境を良くします。副交感神経を手っ取り早く上げるためには、腸内環境を良くすることです。腸の蠕動運動が良くなることで、副交感神経が上がるので、スポーツ選手には発酵食品と食物繊維をしっかり取るよう、指導しています。便秘だと、自律神経のバランスが悪くなっていますので、腸を安定させ、自律神経が安定させれば、やがて腸も動き出して、便秘も解消します。

 タッピングは、軽くたたくことです。赤ちゃんの背中をトントントンと叩くと、赤ちゃんが落ち着きますね。まさに、あれです。顔には細かい神経がたくさんありますから、寝る前に顔を触れるか触れないかぐらいの感じで、触ります。叩くのではなく、そっと触る。体のどこかをぐっと掴まれると、あまり感じませんが、軽く触られるとぞくっとしませんか。あの原理です。それだけ、神経が敏感になるのです。顔に軽く触れることで、表情筋の神経が活発化し、それが副交感神経を上げます。だから、眠くなってくるのです。

 夜寝る前はこれでいいのですが、プレゼンの前や、試合の前のように、眠るわけにはいかないけれども、非常に緊張している時には、、体のどの部分でもいいですから、軽くタッピングをします。足でも、脇でも構いませんので、軽く、一定のリズムでタッピングしてみてください。

 サウナに入るのは、非常に効果があります。ただ、減量のために長い時間、何度も入ったり、アルコールを飲んでから入ったりすると、脱水症状を起こします。脱水は自律神経を乱しますので、サウナに入るときは、きちんとした入り方をしなければなりません。

 入浴の場合、42度の温度のお湯に全身長く浸かっていると、血流は非常に悪くなります。水圧で心臓を圧迫することも、血流を悪くする原因です。ですから、勧めているのは、38度から40度ぐらいで入る半身浴です。血流が極めて良くなり、自律神経を安定させます。10分か15分で十分です。

 ここに上げた5項目を続けることで、自律神経の乱れに起因する症状は、必ず良くなっていきます。ほかにも、日常生活で改善できることは、いくらでもあります。寝る直前に食事をすると、自律神経が乱れます。食事をとってから就寝までの間に、腸には3時間の猶予が必要なのです。また、極端なダイエットや、夜遅くまで睡眠時間を削って読書をするようなことも、自律神経を乱します。

 外科の恩師から教わった「ゆっくり早く」という言葉があります。ゆっくりしているのだけれど、スムーズに全てが動く。これが外科の極意だと、教えてもらいました。その意味が、今、よく分かります。ゆっくり動くと血流が良くなる。血流が良くなることで、物事がうまくいくということだと思います。

 <2015年10月15日放送の「深層NEWS」をもとに再構成しました。「深層プラスfor yomiDr」は、深層NEWS(月曜日から金曜日の午後10時~11時放送)の医療関係の放送から、反響の大きかったものについて随時、とりあげます> 

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