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知って安心!今村先生の感染症塾

コラム

ノロウイルス(前編)…12月が流行ピーク、「新型」も話題

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はじめに

 もうすぐノロウイルス胃腸炎の流行がピークとなる12月がやってきます。これまでは各地での散発的な発生が中心でしたが、急速に感染が広がっていき、全国的な流行となることが予想されます。今回は前編と後編に分けて、今知っておきたいノロウイルスの知識と対策について、解説していこうと思います。

強い感染力

 ノロウイルスは、わずかな便や嘔吐おうと物、そして汚染された環境を介して感染することで、人から人へと急速に広がっていきます。ノロウイルス胃腸炎を発症した患者においては、たった1グラムの便の中に1億個のウイルスが、嘔吐物1グラムにも100万個のウイルスが含まれています。そして、わずか10~100個という、ごく少数のウイルスが口にはいっただけでも、感染してしまう可能性があるといわれています。また、ノロウイルスは乾燥にも強く、汚染された手で触れたドアノブなどの環境でも、数時間~数日もの長い間、感染する可能性があります。さらに、下痢や嘔吐物がカーペットなどで乾燥すると、ホコリと一緒に舞ってしまい、口に入ることで感染してしまうこともあるのです。

調理と集団感染

 ノロウイルスは、食事を介しても感染します。感染している人が、十分な手洗いをしないで調理をすると、食事を汚染してしまい集団感染を起こす危険性があります。先に述べた感染力を考えれば、ホテルや仕出し弁当などで大規模な集団感染を起こすことも、容易に想像できるはずです。ノロウイルスでは、感染していても症状のごく軽い人がいます。また、症状が改善してからも1週間以上、長ければ1か月以上も、便の中にウイルスが排出されている可能性があります。調理に関わる人は、症状のあるときだけでなく、日頃からしっかりと手洗いをすることが大切です。これは、あたりまえの事だと思うでしょうが、それでも毎年多くの集団発生が起こっているというのが現実なのです。

カキとノロウイルスの深い関係

ノロウイルスと関連付けられることが多い生ガキ

 ノロウイルスという話しになると「カキ」が有名ですね。まるで「カキ」が悪者のように扱われたりします。生ガキは、ある程度の確率でノロウイルスに汚染されていると覚悟して食べるべし…残念ながら、このことは事実です。しかし、本当の悪者は「カキ」ではなく、「ヒト」だということも知っておきましょう。

 ウイルスというものは、それ単独で生きている微生物ではありません。ヒトや動物など、なんらかの宿主をもって、その体内にいることが基本となります。そして、何を宿主とするのかは、そのウイルスの種類によって異なっています。一般的には「ノロウイルス=カキ」というようなイメージがあるかもしれませんが、実は「カキ」はノロウイルスの宿主ではありません。ノロウイルスの宿主は「ヒト」なのです。

 ヒトが排出したノロウイルスは、下水を通って海に流れ込みます。二枚貝には、大量の水を浄化するという素晴らしい機能があり、その中でも「カキ」の浄化作用は飛び抜けています。なんと、たった1個の「カキ」が、1日で最大約100リットルの海水を浄化するといわれています。そして「カキ」は、その水の中にノロウイルスが含まれているとは知らず、どんどん水を浄化していく中で、ノロウイルスを体内に濃縮させます。それを食べたヒトは、また胃腸炎となり、さらにカキの汚染を増やしていきます。「カキ」は悪者ではないが、ある程度のリスクはあります。しかし、最も危険なのは、発症しているヒトの便や嘔吐物なのです。

新型ノロウイルスの話題

 今年は、テレビや新聞などで「新型ノロウイルスが大流行か?」というニュースが報道されています。いったいこれは、どういう事なのでしょうか。

 人は、ウイルスに感染して、それを乗り越えることで、体の中に「抗体」というものをつくっていきます。抗体ができると、次に同じウイルスに出会っても、発症を抑えたり、症状を軽くできたりする可能性があります。したがって、毎年同じ型のウイルスが大流行していれば、やがては多くの人が抗体をもつことになり、流行の程度も小さくなっていきます。

 しかし、ウイルス側では、流行を繰り返している中で、その遺伝子が微妙に変化してしまうことがあります(これを変異といいます)。こうして作られたウイルスは、これまでに出会ったことのない型であるため、多くの人が「抗体」をもっていません。したがって、そのウイルスが流行すれば、流行の程度が大きくなったり、重症の人が増えたりする可能性があります。

 ノロウイルスには大きく分けて5つの型(遺伝子の分類)があり、アルファベットの「G」に、ローマ数字の「I~V」をつけて、それぞれ「GI~GV」と名付けられています。そして、それぞれのウイルス型は、その遺伝子まで詳しく調べると、さらに多くの型に分類することができます。日本では、2000年以降は「GⅡ.4 」という型を中心としたノロウイルスの流行が続いていました。しかし、今年は「GⅡ.17」という、これまでに経験のない型が増えてきていることがわかっています。したがって、我々が新たに出会うノロウイルスによって、より大きな流行となることが心配されているのです。

冷静に考えてみよう

 「新型」といわれると、ドキドキしてしまう人も多いのではないでしょうか。しかし、この新しい型のノロウイルスは、あくまでも「GII」という型のマイナーチェンジです。実は、この新しいタイプのノロウイルスは、すでに中国やアジア諸国での発生も報告されています。日本の中でも感染が広がっていくことが予想されますが、今のところ重症化という点で特別な警戒情報は出されていません。

 恐れすぎてはいけませんが、「新型」によって大きな流行となる可能性があることは確かです。ノロウイルスには、今のところ直接の治療薬やワクチンもありません。感染予防の基本は手洗い。そして、発症したら脱水に注意して、しっかりと水分補給をする。「新型」のウイルスであっても、毎年流行しているノロウイルスと対策は変わりません。これからのノロウイルス流行にそなえて、この機会に日常的な対策を再確認しておくことが、最も大切なのです。

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知って安心!今村先生の感染症塾_201511_120px

今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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