イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常
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「本当はいくつ?」血圧を巡るデータに素朴な疑問
今日は、「本当はいくつ?」と言うおはなし。
自分の
死亡者が27%も減るのなら…
今回、次の様な記事がありました。「血圧120未満で病死27%減」という内容です。死亡者が27%も減るのであれば血圧は120未満にした方が良いに決まっていると直感的には思いますよね。この根拠になっている論文は、世界の一流医学雑誌であるNew England Journal of Medicineに載っていて、PDFが閲覧できます。
くじ引きでグループ分け!?
概要は、くじ引きで約15000人を2つのグループに割り当てます。くじ引きで治療をきめるのですが、これが一番、信頼性のある研究だと言われているのです。ひとつのグループは収縮期の血圧を140未満にします。収縮期とは血圧を測ると示される高い方の値です。ちなみに低い方の値を拡張期血圧と言います。今回、このグループの多くの患者で血圧は130から140に収まるようになっています。もう一つのグループは、収縮期血圧を120未満にします。そして死亡数や心臓血管疾患の発病率を調べました。まず15000人中、今回の検査に適さない人が除外され、結局 140未満にしたグループは4678人、120未満にしたグループは4683人でした。彼らを平均3年半観察すると、140未満にしたグループの死亡者は4.5%、120未満にしたグループの死者は3.3%となりました。そこで4.5%の死者が3.3%の死者になったので、(4.5−3.3)/4.5の計算をすると0.27となり、死亡者が27%減となります。確かに素晴らしい結果です。血圧を120未満にした方が、27%も死亡者が減るのです。
要するに、給与の減額に例えると…
では実数はどうなのでしょうか。「本当はいくつ?」という疑問です。実際に観察期間中に何人が死亡したのでしょうか。140未満にしたグループでは死亡者は210人、120未満にしたグループでは155人でした。それぞれのグループは4678人と4683人で、両グループの違いはたった5人ですから、ほぼ同数とみていいですね。つまり単純に人数で比べてもOKで、死亡数の差は55人です。全体が約4600人ですから、約1%ですね。ある人は「たった1%の差であれば、余り気にしない」と言うでしょう。むしろこんな意見のほうが多いかもしれません。最初の見出しにあるような「病死27%減」という文言にまったくウソはありませんが、実際の死亡数と見出しから受けるイメージは相当違いますね。また、重大な有害事象という欄に着目すると、急性腎不全や急性腎機能障害の項では、なんと140未満にしたグループでは120人、120未満にしたグループでは204人が
医療を巡る報道、妄信しないで
そんないろいろな事情を考慮して、医師は各個人に適切だと思える治療を行います。僕は、運動や食事制限、そして少ない内服薬で血圧が120未満になるのであれば、それはとてもおめでたいことと理解します。そして血圧が下がることによるふらつき感やめまいなどがないことも大切なことですね。一方で、140までは血圧が簡単に下がるが、120にするには多数の内服薬を追加する必要があるのであれば、薬の副作用も当然に増えるでしょう。そうであれば「これぐらいの血圧で妥協するか」という話になります。その当たりの事情を勘案して医師と患者さんが相談して決めればいいことです。患者さんがいろいろな報道を見て、それを参考にするのはとてもよいことです。そして何気なく見るぐらいであればまったく問題ありませんが、それを頭から信じることにはちょっと注意がいります。まして医療従事者であれば、頭から信じる前に原文をしっかり読むことが必要です。大切なことは、いろいろな情報に精通して、そして患者さんの「いろいろ感」を考慮して、バランス良く考えることができる「かかりつけ医」の先生を見つけることが大切ですよ。そして、いろいろと率直に相談してください。かかりつけ医の先生と一緒によりよい健康管理をしましょう。
人それぞれが、少しでも幸せになれますように。
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