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白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記

闘病記

(3)「助けてください」…血小板輸血で激痛

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入院初期の筆者

 造血幹細胞移植の治療は、白血病患者ならだれでも受けられるというものではありません。

 造血幹細胞移植では、移植前処置とよばれる大量の抗がん剤投与や放射線治療が移植前に必要なため、以前は55才ぐらいまでの体力がある患者のみが対象と考えられていました。しかし近年は、抗がん剤の量を減らすなど移植前処置を弱めて、より高齢の患者にも安全に実施できるミニ移植と呼ばれる治療も広く行われるようになってきました。このため、以前に比べて移植対象年齢の上限は上がっています。70歳以上でも体力があれば、移植を検討してよいという医師もいるほどです。

 私の場合、骨髄の中の細胞の90%以上が白血病細胞(がん細胞)に置き換わっていたため、まずは寛解導入療法を受け、白血病細胞を大幅に減らした上で移植治療に臨むことになりました。病室も一般病室から、特別な空調設備(高性能フィルター)できれいな空気を循環させる「クリーンルーム」の大部屋に移りました。空気中に浮遊している病原微生物による感染症を予防するためです。私が入院した病院のクリーンルームのエリアは全6室。患者の家族などが見舞いで入室する際は、事前に手荷物をコインロッカーに預け、手洗い消毒、マスクやガウンの着用を義務づけられていました。

うがい、歯磨き入念に…感染症の「防衛策」

 2015年2月9日。抗がん剤の副作用で長い髪がごそっと抜けるのは気分が悪いので、病院内の理髪店で丸坊主にし、白血病と闘う気持ちを新たにしました。

 患者が自分でできる「防衛策」で最も大事なのは、「手洗いとアズノール(商品名。一般名はアズレンスルホン酸ナトリウム)によるうがいの励行」です。看護師からは「口の中と手は、細菌やウイルスがたまりやすく、それらを退治する白血球も抗がん剤で極端に少なくなります。肺炎などの感染症にかかりやすいので十分気をつけてください」と指示されました。1日6回以上の手洗い・うがいを義務づけられ、シャワーも体力が許す限り、毎日浴びるようにと言われました。

 抗がん剤の副作用の一つ、口内炎になると粘膜が荒れて、そこから口内の雑菌が体内に侵入しやすくなります。体内に侵入した雑菌は血流に乗って全身に回り、敗血症を起こすこともあります。このため、口内を清潔に保つことは感染症の予防にもなるということで、うがいと歯みがきはとくに入念に行いました。歯茎を傷つけないよう、やさしいブラッシングを心がけ、歯間ブラシによる仕上げも必ず行いました。

 10日から、24時間点滴が始まりました。抗がん剤は、キロサイド(一般名はシタラビン)とイダマイシン(一般名はイダルビシン)の2種類。キロサイドは7日間連続、イダマイシンは3日間連続で投与されました。キロサイドは無色透明で発熱、湿疹などの副作用があり、イダマイシンは人工着色のような濃い橙色(だいだいいろ)で吐き気などの症状が出ます。共通して血球減少、脱毛、食欲不振などの症状が起こりやすくなります。

 12日頃からだるさ、気持ち悪さを覚えるようになりました。食事(加熱食)も憂鬱ゆううつになり、日に日に食は細くなっていきました。持ち込みのバナナ、チョコのほか、幼児用のジュース、菓子、ゼリーなどで補うケースが増えてきました。

 17日にようやくキロサイドが終了しましたが、抗がん剤の副作用による下痢がこの頃からひどくなってきました。体調の波も激しくなり、悪いときは視線を上げるのもしんどく、気がつけば下ばかり向いていました。

 抗がん剤は白血病細胞を減らすのが狙いですが、正常な血液細胞も一緒に撃退してしまうため、白血球、赤血球、血小板が極端に少なくなります。赤血球、血小板の不足は輸血で補います。しかし、白血球は輸血ができず、自力で回復するのを待つしかありません。

「助けてください」…大量の汗かき叫ぶ

輸血用の赤血球(左)と血小板(右)のパック

 20日、今回の入院で初となる赤血球と血小板の輸血が行われました。ところが、血小板輸血を始めた直後、「異変」が起きました。鋭利なもので刺されたような、腹部の激しい痛みと下痢に襲われたのです。

 慌ててベッドから跳ね起きて、血小板の黄色い液体がぶら下がった点滴スタンドを引っ張りながらトイレに駆け込みました。下痢は止まらず、便器から離れることができません。さらに、ヘソの上あたりの差し込むような痛みのせいで、頭から大粒の汗が大量に、ボタボタ落ちてきました。便器の前にはすぐに汗による水たまりができました。こんなことは初めての経験でした。

 トイレ内の呼び出しボタンを押しても、看護師は忙しいのか、来てくれません。仕方なく、下痢が一息ついたタイミングで、ナースステーションに駆け込み、「助けて下さい」と叫びました。バケツの水をかぶったような、汗びっしょりの患者の悲痛な叫びに、看護師らも驚いた様子でしたが、下痢が続く私はすぐまたトイレへダッシュで引き返しました。

 私は便器に座ったまま、医師や看護師らによる体温、血圧などの測定、診断を受けました。今、思えば格好悪いこと、この上ない姿でした。私は「早く、早く、血小板の輸血をいったん止めて」と必死に訴え、その通りにしてもらいました。すると、痛みがややおさまりました。

 それでも、輸血をこのままやめるわけにもいかず、数十分後、ベッドに戻って、輸血量を半分に減らして再開。今度は下痢や大量の汗はありませんでしたが、再び腹部の痛みが始まりました。その後、痛みは腹から胸に移動。血管が詰まったかのような強い圧迫感で、呼吸をするのも苦しくなりました。ベッドの上で胸部のレントゲン撮影、心電図検査などが次々行われました。狭心症の薬を飲むと、ようやく胸の痛みは和らいできました。

 疲れ果てて、この日の夕食は一口も入りませんでした。夜8時過ぎ、血小板の輸血がようやく終わりました。長くつらい一日でした。

 この激痛について、激しいアレルギー反応で呼吸困難や嘔吐おうとなどの症状が起きる「アナフィラキシーショック」と断じる医師もいました。一方、「血圧、熱は安定していたので、アナフィラキシーとは言えない」と否定する医師もいて、はっきりとはわかりませんでした。

 20日以降、輸血は頻繁に行われましたが、血小板の輸血前には、アレルギー止めの薬としてクロール・トリメトン(一般名はクロルフェニラミンマレイン酸塩)に加え、ソル・コーテフ(一般名はヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム)も注入することになりました。この結果、1円玉大ほどの皮膚の発疹が体のあちこちにできることはあっても、激しいアレルギー反応は見られなくなりました。

 輸血は献血者の善意によって成り立っています。献血者への感謝の気持ちは、なくさないよう常に心がけているつもりですが、20日に輸血した血小板と私の相性は極めて悪かったようです。看護師によると、赤血球の輸血で異常が出るケースはほとんどないようですが、血小板では発疹や発熱などの症状が出る確率が赤血球に比べると高いとのことでした。ただ、私のような激痛のケースは「極めて珍しい」と話していました。

 本番の移植で、ドナーと私の相性は果たして合うのだろうか。相性が合わずに再び激しい痛みや拒否反応が起きるのではないか。私の中で不安がまたひとつ増えました。

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白血病と闘う~政治部デスクの移植体験記_201511_120px

池辺英俊(いけべ・ひでとし)
1966年4月、東京生まれ。90年、読売新聞社に入社。甲府支局に赴任し、オウム真理教のサリン事件などを取材。96年、政治部記者となり、橋本龍太郎首相、小沢一郎新進党党首、山崎拓自民党幹事長(肩書はいずれも当時)の番記者を経て、外務省キャップ、野党キャップ、外交・安保担当デスクなどを歴任。2011年5月から政治部次長。著書に、中公新書ラクレ「小泉革命」(共著・以下同)、同「活火山富士 大自然の恵みと災害」、東信堂「時代を動かす政治のことば」、新潮社「亡国の宰相 官邸機能停止の180日」など。

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8件 のコメント

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老齢厚生年金の繰上げ受給について

もぐちゃん

数年前から某大学病院の血液内科にお世話になっている者です。最初は検査、約1か月の入院、その後の通院による点滴治療で高額療養費制度のありがたみを痛...

数年前から某大学病院の血液内科にお世話になっている者です。最初は検査、約1か月の入院、その後の通院による点滴治療で高額療養費制度のありがたみを痛感しました。寛解を得て、現在、経過観察のために2か月に1回ぐらいの頻度で通院しており、仕事は普通にこなしています。
 このコラムは、強い関心を持って読ませていただいております。池辺さんの11月24日付コメント「医療費負担について」に「医療費が不足して、どうしてもお金がすぐに必要という人のために、老齢厚生年金の受給開始を前倒しできる制度(=繰り上げ受給)もあると聞きました」とありますが、池辺さんは現在49歳の方ですから、老齢厚生年金の繰上げ受給を利用することはできません。繰上げ受給を利用できるのは60歳からです。繰上げ受給の仕組みについては、以下のサイトが参考になるかと思います。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=71098
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=57907
 生活費をどう賄うかは人それぞれだと思いますが、「繰上げ受給を選択すると、しない場合と比較して年金額は減る。この減額は一生つづく」ことや、「老齢厚生年金の繰上げ受給を選択し、働いている場合は年金額が減額対象になる」こと等に注意した上で、繰上げ受給の選択を検討することが必要です。繰上げ受給の仕組みは複雑なので、選択される場合は年金事務所で相談されることをお勧めします。
 医療ネタのコメント欄に年金ネタで割り込んで失礼しました。

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骨髄提供に立ち会いました

みぃ

わたしは再生不良性貧血で経過観察中のものです。大変関心をもって連載を読ませていただいています。実は昨年、友達がドナーとして骨髄提供をしました。お...

わたしは再生不良性貧血で経過観察中のものです。大変関心をもって連載を読ませていただいています。

実は昨年、友達がドナーとして骨髄提供をしました。お相手の方の情報はもちろんわかりませんが、きっと今元気にやってらっしゃると信じています。

提供者は献血マニアの人で、骨髄提供にも特に抵抗がなかったようで、入院も1人でするといっていましたが、わたしも検査で骨髄穿刺受けたことのある身ですし、提供のための措置がどのようなものかは存じていましてので家族ではないけど当日立ち会いました。といっても病室で待機しているだけですが。

とられた髄液はすぐに提供先の病院に運ばれていきました。全身麻酔の辛さ以外は大丈夫だったと言っていましたが、健康体から髄液を取る負担に備えて事前に自己血液を保存しておき当日輸血して戻したり、検査や説明のために自分の休暇を使ってくれているということに、本当にありがたいことだと思いました。

わたし自身は幸いいまのところ経過観察ですが、将来移植のお世話にならないとはいいきれません。友達には、自分のためではないですが、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。


そんな話もあるということで投稿させていただきました。これからも健康に気をつけて、引き続きルポをたのしみにしています。

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医療費負担について

池辺英俊

筆者の池辺です。医療費負担に関して質問をいただきました。 たしかに入院中、医療費の負担は深刻な問題でした。働いていないので当然ですが、給料が大幅...

筆者の池辺です。医療費負担に関して質問をいただきました。
 たしかに入院中、医療費の負担は深刻な問題でした。働いていないので当然ですが、給料が大幅に減額される中、高額の医療費を毎月支払わなくてはならないからです。
 我が家では幸い、住宅ローンの支払いは終わっていましたが、2人の子どもが私立の学校に通い、妻は専業主婦という状況で、ソーシャルワーカーに相談したこともありました。
 まず、利用したのは、病院や薬局で支払う1か月の医療費が一定の限度額を超えた場合、その分が払い戻される高額療養費制度と呼ばれる仕組みでした。私は、加入する健康保険組合から「限度適用認定証」を事前交付してもらい、病院側に提示していたので、最初から負担額は上限に抑えられていました。この上限額は、収入によって差があります。移植が行われた月は、他の月よりやはり高額でした。
 また、私は生命保険のがん保険に加入していたため、入院中の治療費などの負担分はのちに戻ってきました。2013年の最初の発病時には治療費のほか、一時金も受給することができ、大いに助かりました。再発した2015年は、「最初のがん発病からまる2年経てないので、規定上、一時金は支給できない」と生命保険会社に言われ、悔しい思いをしました。
 ただ、がん保険に入っていなかったら、どうなっていたかと想像すると、今もぞっとします。
 医療費が不足して、どうしてもお金がすぐに必要という人のために、老齢厚生年金の受給開始を前倒しできる制度(=繰り上げ受給)もあると聞きましたが、これは結局見送りました。
 ほかにも医療費負担軽減の制度や仕組みはあるようです。もし、お困りなら、専門のソーシャルワーカーなどに相談されてみてはいかがでしょうか。 
 以上、ご参考までに。

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