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昭和大精神科教授・岩波明さん(1)差異に不寛容、日本の冷たさ

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 インターネットやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の普及で、ネット上での罵倒や個人情報の暴露などが繰り広げられるケースが目立つ。著名人だけでなく、一般人も例外ではない。近著「他人を非難してばかりいる人たち」(幻冬舎新書)で、その背景を探った昭和大精神科教授の岩波明さん(56)に話を聞いた。(野村昌玄)

 ――執筆のきっかけは。

「現実世界の息苦しさ、生きにくさが他人への攻撃性として表れるのでは」と語る岩波さん=横山就平撮影

 「精神科の患者さんと向き合う中で、日本の社会の風潮が、治療やその後の経過に与える影響を考えていました。大きな問題として考えていたのは、うつ病と自殺の問題です。先進国の中でみても非常に高率であり、日本社会の特殊性があるのではないかと感じてきました。長所を認めず、わずかなマイナス面があれば切り捨てる冷たさがあるのではないでしょうか」

 「いわゆる日本人論的な文脈で語られてきたことですが、同質性が高い社会で、相互に監視しやすい要因があります。わずかな違いや不備にも厳しく目を光らせるのです」

 ――どのような形で表れていますか。

 「最近はネット上のバッシングが顕著で、一般人も対象になりえます。私の発達障害の患者さんもそうでした。ブログに治療経過や自分の思いをつづり、励ましや共感を求めたつもりでも、『お前がばかだからいけない、引っ込んでいろ』『ちゃんと勉強してから出直せ』などと書き込まれたのです。中には、善意で書いている人もいると思うし、悪意を持って書く人は一部でしょう。ただ、患者さんは相当ショックを受けていました」

 「ブログには誤った記述もありましたが、患者さん本人はプロではなく、仕方ないのではないかとも思います」

 ――なぜ、そこまで非難するのでしょうか。

 「現実世界での息苦しさや生きにくさ、不満感を打開できそうにない、といった鬱屈うっくつした感情が他人に対する攻撃性として表れているのではないでしょうか。ある人たちには、ゲーム感覚で、快楽や娯楽のようになっている点は否めません。ある発言が問題とみなされれば、その部分だけが繰り返し引用され、時には悪意を込めて強調されて瞬時にネットの世界にばらまかれます。発言した人を特定し、実名や住所などの個人情報まで突き止めて、つるし上げるといった『炎上』と呼ばれる事態に至ります」

 「均一性の高い集団で生きる日本社会では、わずかな差異に不寛容になったり、少しでも抜きんでた人には嫉妬心が芽生えたりします。しかも、身近な人に向かいやすく、子供の世界ではいじめ、大人では、うつ病や自殺者の多さに表れています。しかもインターネットの登場で攻撃対象は広がり、匿名性が過激さを加速させたと思います。アラブの石油王やハリウッドスターなら、高級ホテルを借り切ったり、豪邸に住んでいたりしていたとしても、余りに境遇がかけ離れており、羨望はあっても嫉妬にはつながりにくいでしょう」

岩波明(いわなみ・あきら)

 神奈川県生まれ。1985年、東京大医学部を卒業後、東大病院精神科、東京都立松沢病院などに勤務し、2012年から現職。精神疾患の認知機能や発達障害などを中心に研究を続けている。著書に「発達障害と生きる」「精神科医が読み解く 名作の中の病」など。

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