文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知って安心!今村先生の感染症塾

コラム

子どもの麻痺とエンテロウイルス

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 はじめまして。感染症の専門医師として、日々いろいろな感染症の診療を行っている今村といいます。今回からヨミドクターで感染症についての記事を担当することになりました。感染症というと、それだけですごく怖いイメージがあるかもしれません。しかし、みなさんのまわりは常に感染症でいっぱいです。そして、わたしたちは生まれてから、すでに多くの感染症を経験しているのです。感染症は、正しく知って、正しくお付き合いすることが大切。この「感染症塾」で、流行している感染症の最新情報などを、わかりやすく解説していきます。

 では、さっそく最近話題になっているニュースからご紹介していきましょう。

 『子供が原因不明の手足まひ、一部から「エンテロウイルス」検出

 「エンテロウイルス」という聞き慣れない名前のウイルスが、子どもに原因不明の麻痺まひを起こしてしまう。そして、今のところ直接の治療薬や予防のワクチンがない。このような情報をテレビや新聞のニュースでみることで、みなさんが不安を感じるのも当然のことでしょう。今回は、このエンテロウイルス感染症について、現時点でわかっている情報をまとめてみようと思います。

エンテロウイルスってなに?

 エンテロウイルスという名前は、インフルエンザやノロウイルスとは違い、あまり一般的には知られていないのではないでしょうか。エンテロウイルスには多くの種類があるため、それらをまとめてエンテロウイルスぞくと呼んでいます。子どもの夏風邪のひとつとして有名な「手足口病」も、このエンテロウイルスによる感染症です。また、子どもに麻痺を起こす「ポリオ」も、エンテロウイルスの仲間が原因となります。知らなさそうで、実は知っている。エンテロウイルスは、思ったより身近なウイルスのひとつなのです。

エンテロウイルスD68が話題に

 「エンテロウイルスD68」は、たくさんあるエンテロウイルス属のひとつとして確認されたウイルスです。手足口病のように子どもに多く、夏を中心に発生していることがわかっています。 このウイルスに感染して発症しても、発熱、鼻汁、せきなどの軽症ですむことが多いのですが、重症化すると喘息ぜんそくのような症状や肺炎を起こすこともあります。米国では、2014年にエンテロウイルスD68による感染症の大きな流行がありました。わかっているだけでも1000人以上の感染が報告されて、その中には呼吸器症状の重い患者も多くいました。そして同じ時期に、ポリオという感染症でみられるような手足の麻痺を起こした複数例の報告があり、その発症者の一部からもエンテロウイルスD68が検出されたことで話題となっていたのです。

日本でも問題に

 日本においても、呼吸症状と麻痺を発症してエンテロウイルスD68が検出された患者のいたことが、ある病院の小児科から報告されました。また10月には、東京都の病院からも喘息のような症状を起こした4人から同じウイルスが検出されています。さらに、このような情報を知った全国各地からも、同じような呼吸器症状や麻痺を起こしている例が増えているという情報も届けられるようになりました。このため、エンテロウイルスD68との関連について調べようと、全国の医療機関からの情報収集が開始されています。

麻痺との関連は?

 実は、エンテロウイルスD68と麻痺との関連については、まだ十分に解明されてはいません。しかし、これまでの国内外の報告から、麻痺症状を起こす可能性があるウイルスであるとは考えられています。また、このウイルスに感染した人のうち、どれくらいの割合の人が手足の麻痺などを起こすのかということも、よくわかっていないのです。

 現在開始している国内調査では、麻痺などの重症の患者さんを中心に検査が行われることになります。新しくわかってきた感染症においては、重症例から調査が始められることで、初期の死亡率や重症化の頻度が高めに見積もられることがよくあります。ちなみに、先ほどご紹介した米国における2014年の流行では、診断されていない軽症例も含めると、数百万人が感染していた可能性があったともいわれています。それが本当であれば、感染者の多くは軽症例であり、そのごく一部で麻痺などの重症化が起こることになります。エンテロウイルスD68による感染の実態を知るためには、軽症例も含めた今後の報告を慎重にみていくことが必要でしょう。

治療や予防について

 これまでの情報によると、エンテロウイルスD68は夏を中心に秋にかけて流行するようです。したがって、今は流行のピークを過ぎていることが予想されます。しかし、今後も流行を繰り返す可能性があるため、今できる対応についても確認しておくことにしましょう。

 エンテロウイルスD68には、今のところ直接の治療薬や、予防するためのワクチンはありません。このウイルスは、発症した人のくしゃみや咳による飛沫ひまつによって感染します。また、ウイルスがついた環境に触れた手で、鼻や口に触れたりすることでも感染します。したがって、咳エチケットや手洗いなどの一般的な感染症予防を、日頃からしっかりと行っておくことが大切です。くしゃみや咳をする時にティッシュなどで口をおさえたり、咳が続くときにはマスクを着用するなど、症状のある人が咳エチケットに気をつけることが、感染の広がりをおさえることに役立ちます。また、エンテロウイルスはアルコールが効きにくいタイプのウイルスなので、(全く効かないわけではないですが)アルコール性の手指衛生剤よりも、流水による手洗いがおすすめです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知って安心!今村先生の感染症塾_201511_120px

今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

知って安心!今村先生の感染症塾の一覧を見る

2件 のコメント

参考にします

みつば

2歳児を育てながら、養護教諭として働くみつばと申します。感染症についての連載、仕事にとっても子育てにとっても興味深く、大変ありがたいです。初回か...

2歳児を育てながら、養護教諭として働くみつばと申します。
感染症についての連載、仕事にとっても子育てにとっても興味深く、大変ありがたいです。
初回からエンテロウイルスが出てきて、スゴく気になっているトピックだったので、熟読しました。
ウイルスにせよ、細菌にせよ、名前だけ聞くと何でも恐ろしくみえて、つい怯えてしまうのですが、このように身近な病と絡めて説明していただくと、正しい対応を身につけて向き合うことの方が大切なのかな、と考えることができます。
出来れば、ニュースとして取り上げられなくなっているけれど、実は問題となっている感染症なども今後の記事で解説していただけたら嬉しいです。(MERSなど)
これからの記事も楽しみにしています。

つづきを読む

違反報告

今年初めて聞きました

アラフォー

エンテロウイルス、今年になって初めて聞いた気がします。過去にそれほど騒がれなかったということでしょうか?マスコミのネタ探し?今村先生には今年のイ...

エンテロウイルス、今年になって初めて聞いた気がします。過去にそれほど騒がれなかったということでしょうか?マスコミのネタ探し?
今村先生には今年のインフルエンザの特徴と気を付けるべき点をお聞きしたいです。よろしくお願いします



つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

最新記事