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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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がん検診、妄信は危険…無用・不要・不利益な検査も

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 今日は、「出版バイアス」というお話。出版バイアスとは、否定的な結果が出た研究は、肯定的な結果が出た研究と比べて公表されにくいという偏りのことです。こんなことを書こうと思ったきっかけは、読売新聞の「マンモグラフィー推奨、45歳に上げ…米で指針」という記事です。記事の冒頭は以下です。

 米非営利団体「米国がん協会」は20日、乳房エックス線撮影(マンモグラフィー)による女性の乳がん検診についての指針を改定し、毎年の受診を推奨する年齢を従来の40歳から45歳に引き上げた。同協会によると、マンモグラフィーで乳がんの約85%を発見できるが、がんではないのにがんの疑いを指摘され、追加検査が必要になるケースも多いという。発症の危険性が比較的低い40歳代前半では、過剰な検査による負担が大きい。

がんでもないのに、がんの疑い?

 大切なことは、「がんではないのにがんの疑いを指摘され、追加検査が必要になるケースも多い」というところです。芸能人の方々ががんを公表する記事が最近は目に留まります。そして、何人かはそのがんで亡くなっています。そんな記事を見ると、多くの方は早期発見をしていれば、早期治療を行っていれば、がんで不幸な転機になることを防げたであろうと直感的に思います。僕も昔は当然にそう思っていました。ところが、別の見方もありますね。つまり、早く見つけても結果は変わらなかったかもしれないというストーリーです。また、実は治療が不要な余計なものが見つかるかも知れないということです。今回の米国がん協会の指針は、がんの疑いをかけられた患者のなかには、その後の検査が相当な不利益になるケースが少なからずあるということです。

否定的な研究結果ほど、公表されにくい

 一方で、ピンクリボン運動は乳がんの正しい知識を広め、乳がん検診の早期受診を推進して、乳がんで不幸な転機になる方を、極力減らそうという取り組みです。僕にはどちらが正しいかわかりません。ただ、「出版バイアス」ということを今回取り上げたのは、否定的な結果は、肯定的な結果よりも世の中に歓迎されないということです。そういうことがあると思って情報を取りに行くことが大切なのです。僕は乳がん検診を否定しません。そして乳がん検診が無意味であるという立場でもありません。自分の健康に興味を持ち、乳がんの正しい知識を持つことはとてもいいことと思っています。ただ、妄信することは危険だと思うだけです。つまり、乳がん検診をしているから乳がんにならないとか、乳がん検診は最良の乳がん予防の手段であるとかは、ちょっと間違っているかもしれないと懐疑的な立場でいるだけです。たくさんの情報がネット上で、簡単に無料で取れる世の中になりました。でも、そこには情報の非対称性があると思っています。簡単に言うと、いろいろな人や組織や会社が喜ぶ情報はどんどんと拡散しますが、人や組織や会社が喜ばないような情報はどんどんと収縮していくということです。僕たちは正しい情報がほしいのです。たくさんの賛成意見があることが決して有益な結果ではないかもしれないという懐疑心が大切と思っています。

検査機器は進歩を遂げたが…

 医療検査機器はこの30年で素晴らしい進歩を遂げました。画像診断を例にとっても、超音波検査、CT、MRIなどなど、昔の画像とは格段の差があります。本当に細部までわかります。そうすると怪しい画像の頻度は昔とは比べものにならないほど、たくさん得られます。それは早期発見にはとても良いことなのです。ところが、その全てが処置を要するものではないかもしれません。そんな処置不要な病変、または正常の一部までが「がん疑い」として指摘される世の中になりました。画像診断の進歩と、本当のがん診断の乖離かいりが生じているといってもいいでしょう。100%の確立で治療を要するがんが判読できる医療機器があれば問題ないのです。しかし、解像度は増し、微細な部分まで描出可能になった一方で、実は「『がん』とはなんぞや」ということがいまだに疑問なのです。

ハムやソーセージに発がん性?

 そんな立場で、たくさんの患者さんを解析すると、ある意味、無用な、不要な、かえって不利益な検査が行われていることが少なくないというのが今回のコメントの趣旨と思っています。道具をどう使うかという問題なのです。今回の記事が出版バイアスで葬られる前に、たくさんの議論が沸き上がれば、なにより公平な世の中と思います。そして、そんなたくさんの議論を十分に吟味して、われわれはその道具を使用すれば良いのでしょう。そしてそれこそが、われわれの健康に役立つと信じています。

 また先日、読売新聞に「ハムやソーセージ『発がん性ある』…WHO外部組織が認定」という記事が出ました。

 「○○を食べれば健康になる」といったバラエティー番組に登場するメッセージよりもはるかに信憑性しんぴょうせいがある報告です。今後、この報道がどうなるのかも僕は楽しみなのです。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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