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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第18話 渋谷と世田谷で、いよいよ同性カップル公認

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同性婚と書き立てるメディアは〝誤報〟

東京・渋谷区役所で同性パートナー申請第1号として手続きを終え、証明書交付の引換証を手にする東小雪さん(右)と増原裕子さん(増原さん提供)

 この23日、東京・渋谷区の長谷部健区長は記者会見し、区の男女平等・多様性推進条例にもとづく同性パートナーシップ証明を、28日から申請受け付け、来月5日から交付することを発表しました。

 3月31日に成立したこの条例は、同性カップルの関係を婚姻に相当するものと認め、第10条で区によるパートナーシップ証明の発行を定めていたことで大きな話題となりました。ところが、証明発行の詳細を規則に委ねたため、この10条だけはじつは未施行だったのです。

 規則の骨子の検討にあたった男女平等・多様性社会推進会議(条例14条に規定。以下、推進会議)の報告書が出され、これをもとに区が規則を制定、23日にその詳細と今後のスケジュールを発表。

 春先の条例提案時と同様、28日の申請受け付けもメディアがふたたび大きく取り上げ、渋谷区の名前は全国にとどろきました。さすがは広告代理店出身の区長、見事なお手並みですが、それに乗じて一部のメディアが「同性婚証明書」と書き立てるのが、私にはどうにも気になります。

 この連載の第2回でも書いたように、この証明は婚姻のような法律上の権利や義務にかかわる効果はいっさいなく、とうてい「婚」と呼べるようなものではありません。そもそも自治体レベルで国の法律にかかわる婚姻法規を定める権限はありません。この証明は、条例が求める2種類の公正証書~任意後見契約と共同生活の合意書~を作成しているカップルに対して区が交付する、記念の「銀盃ぎんぱい」とでもいえばよいでしょうか。

 しかし、メディアが上調子に同性婚、同性婚と言いたてることで、多くの人が、すでに日本は同性カップルの権利が認められ、いまやなんの問題もない国になったように思い始めているのではないでしょうか?

 犬が人をめば当たり前だが、人が犬を噛めばニュースになります。これまでになかったことだけに、メディアが同性婚と書きたてるのは習いといえばそれまでですが、遠いゴールの一つである同性/異性を問わない婚姻の平等へは、ようやく一歩を踏み出したばかり、いつ逆戻りしてもおかしくないような出発なのです。  すでにゴールへ来たような誤解は振りまかないでほしいなぁ。私はそう思っています。

あらためて渋谷区の証明書発行の仕組み

 上述のように渋谷区では、2種類の公正証書を作成しているカップルに証明が発行されます。提案当初から費用がかかることへ批判があがりました(区の試算で約8万円の公証役場手数料)。

 区では同性カップルを「結婚に相当する関係」と認めるにあたり、その線引きに悩んだのでしょう。「当人たちの言うままに認めていいのか」……、そんな区議会の声を恐れたのかもしれません。男女なら合意のみで成立する婚姻が、同性ふたりの場合は、「証拠を見せなさい」となり、目をつけられたのが公正証書でした。

 じつはこの任意後見契約、私も2009年に書いた『同性パートナー生活読本』という著書のなかで、養子縁組する以外では、同性ふたりのあいだになんらかの法的関係を導く唯一の制度、と紹介したことがあります。また、同性パートナーシップのための公正証書を作成することも紹介しました。

 それを区の担当が読んだかどうかは知りませんが、私が当時はほかに方法がない中で、かろうじてパートナーシップの証明になり得るかもと書いたことが、逆に証明発行の要件となっていることには困惑の思いです。

 2種類の公正証書は、金銭的にも手続き的にもハードルが高すぎる。申請人も限られては、そもそも条例の趣旨にももとる……。

 条例成立後、規則の骨子検討を委ねられた推進会議では、少しでも申請しやすいよう、要件を緩和する方法はないかが模索されました。結果として、条例に規定された2種類の公正証書を原則としながら、パートナーシップがまだ長期でなく将来の後見人を考えるところまでいかないような場合には、共同生活の合意契約1本でもよい。ただし、一方の身体能力や判断能力が衰えたときにはできるかぎり援助することや、必要な時期が来れば任意後見契約も行うことを明記しておくこと。そうした合意契約なら、それ1本でも証明を出しましょう、ということになりました。合意契約書の公証役場手数料は1万5千円程度です。

 こうした規則の運用で、申請者の範囲が広がるのではないかと期待されています。

世田谷区でもはじまる宣誓書方式

 渋谷区が証明書を交付するとした11月5日、世田谷区でも宣誓書方式による同性カップルへの公的書類の交付が始まります。区役所で宣誓をし、その宣誓書のコピーと区長の受領証がその場で本人たちに渡され、その受領書が一種のパートナーシップ証明書になるわけです。受領証には、住民票などに使われるコピーで文字が浮かび上がる複製防止の用紙が使われ、公的書類の信頼性に配慮されるとのこと。宣誓書は10年間保管されます。

 世田谷区の場合は、宣誓にあたって公正証書などの提出は不要です。また、渋谷区同様、法的効力がともなうものではありません。

 費用がかかると批判されがちな渋谷区方式ですが、現在、同性カップルを守るための法律が現実にない中で、公正証書などの効力の高い契約でパートナーシップの中身を作っていくことは意味のあることです。渋谷区の場合はすでにそれを行っているカップルに対し、区が証明書を交付します。

 世田谷区の場合、宣誓を行ったカップルは、今後よりいっそうパートナーシップの実際的な保証のためになんらかの手段を考えていくかもしれません。

 渋谷式であれ世田谷式であれ、行政による公認は社会に大きな反響を起こしています。すでに同性カップルを家族(ふうふ)と認めて商品やサービスを提供したい企業などから、両区へ多数の問い合わせが来ているといいます。立場のある人が口火を切ればあとは早い、日本社会らしい変化かもしれません。

 同時に、両区以外の他の地域もふくめ、当事者カップルがどのように二人の生活と関係を築き、それを守るのか、その気概と工夫が問われているのだと思います。自治体が配る「銀盃」の記念品から国が定める「同性婚法」へは、まだ相当の距離があるのですから……。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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2件 のコメント

祭りのあとは

たろ

パートナー証明の話題が持ち上がった頃はずいぶん盛り上がりましたが、だいぶ落ち着いてきたようです。渋谷や世田谷の限界が見えてきたからだ、というのは...

パートナー証明の話題が持ち上がった頃はずいぶん盛り上がりましたが、だいぶ落ち着いてきたようです。
渋谷や世田谷の限界が見えてきたからだ、というのは批判者の思い込みで、実際にはそういった批判への反応も鈍化しています。
つまりは、祭りが終わったということでしょう。
次に祭りが起こるとしたら、都道府県レベルでの推進でしょうか。場合によっては国レベルでの取り組みがあるまでは、もう祭りにはならないかもしれません。
でも、それでいいのだと思います。長くは続かないのが祭りなのですから。日常へ戻ってからが勝負なのです。
次の動きに備えてライフプランを立てておくもよし、情報と仲間を集めることに取り組むもよし、恋活に注力するもよし笑

平凡な日常が続くと、腐すことに精を出す威勢のいい人が目立ってくるでしょうが、そういうのには関わらず、自分のやるべきことをしっかりやることが大事なのでしょう。

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自分は理解できないが

カイカタ

だからといって、他の人の権利を奪うことをしてはいけないという考え方が大事でしょう、それは、お互い様でもあるのです。他人の権利を認めることは自らの...

だからといって、他の人の権利を奪うことをしてはいけないという考え方が大事でしょう、それは、お互い様でもあるのです。他人の権利を認めることは自らの権利擁護につながるというのが近代思想です。

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