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顧みられない熱帯病…制圧へ連携 日本も貢献

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 今年のノーベル生理学・医学賞に大村智・北里大特別栄誉教授(80)が選ばれた。大村氏は、寄生虫病「オンコセルカ症(河川盲目症)」の特効薬を開発し、多くの人を救った。

 オンコセルカ症は、世界保健機関(WHO)が指定する「顧みられない熱帯病(NTD◎)」の一つ。国際社会が連携してNTDの制圧に向け取り組んでいるが、日本の貢献も大きい。

 NTDは全部で17種。昨夏、約70年ぶりに国内での感染が確認されたデング熱のほか、狂犬病やハンセン病など先進国ではほぼ制圧された病気もある。149の国と地域で10億人以上が感染しているとされる。

 WHO事務局長補としてNTDの対策にもあたった中谷比呂樹・慶応大特任教授は「流行国でも農村部の貧困地帯が中心で、声を上げられない社会的弱者の病気として放置されてきた」と指摘する。

 病気は貧困を拡大する。オンコセルカ症の場合、失明で働けなくなるだけでなく、河川で発生するブユを介してうつるため、感染を恐れて川沿いの肥沃ひよくな土地が放棄され、村の貧困につながっているという。

 この負の連鎖を断ち切ろうと、国際的な寄生虫病対策を最初に提言したのが橋本首相(当時)で、1998年のバーミンガム・サミット(主要国首脳会議)の宣言に盛り込まれた。日本でも寄生虫病が流行し、行政や医療機関が連携して住民への薬の投与や衛生意識の向上、環境改善に取り組み、制圧した歴史を持つ。この経験を生かし、アジアやアフリカに専門家の育成と研究の拠点作りを支援した。2000年の九州・沖縄サミットでは対象を寄生虫病以外の感染症に広げた。

 05年にはWHOが17種類の病気をNTDに指定。20年を制圧目標に掲げ、製薬企業などと連携し、治療薬の無償配布などに取り組んでいる。

 ただし、対策が最初から現地でスムーズに進んだわけではない。WHOアフリカ地域事務所で医務官を務めた清水利恭さん(64)は「薬の管理が不十分で屋外に1年以上放置されたり、教員の協力が得られず小学校で配布されないまま無駄になったりした」という。

 幾多の課題を乗り越え、成果は表れつつある。WHOによると、オンコセルカ症対策としてブユの駆除と特効薬の配布が行われた西アフリカでは4000万人の感染を予防し、60万人の失明を防ぐことができたという。リンパ系フィラリア症は60か国のうち15か国で対策を終えた。ハンセン病やギニア虫症も制圧に近づいている。

 一方、NTDの中にはいまだに治療薬のない病気もある。流行国の中には紛争で対策がとれない地域があるほか、発展に取り残されがちな地方での衛生教育や社会資本の整備も欠かせない。WHOでリンパ系フィラリア症対策などに取り組んだ一盛いちもり和世・長崎大客員教授は「よりよい生活の基本は健康。全ての人に感染症対策が行き届く体制を作り続けていく必要がある」と力を込めた。(原隆也)

 ◎NTD=Neglected Tropical Diseases

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