文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第16話 7.6パーセント?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 性的マイノリティーは人口のどのくらいいるのだろう? べつにそんな数字を知ったところで、なんだというのか。私(永易)自身がゲイだと言っているのだから、それでいいではないか……。

 そう思うのですが、世間というものはそれでは許してくれず、「結局、何人(何%)いるのですか?」が気になるようです。

 新聞記事には、最近は人口の7.6%などの数字が引いてあったり、それは「佐藤・鈴木・高橋・田中」の苗字を合わせた数より多い、などと講演で説明したりする人もいますが、この数字についてはまたあとで考えてみたいと思います。

同性愛の多さに米国が驚いた「キンゼイ報告」

 人の性行動を調べた古典的調査といえば、アルフレッド・キンゼイです。

 キンゼイ報告(1948年、1953年)は米国の男女約1万8500名に対してセックスについての面接調査を実施し、その結果を膨大なレポートにまとめたもの。その内容は多岐にわたり、週あたりのセックスの平均回数、職業とマスターべーションの相関、婚外性交や女性のマスターベーションなどなど、興味深い記述がいくつも見出されます。そのなかには3割以上の男性が少なくとも1度は同性との性体験をもっていたり、10%の男性がもっぱら同性愛だった、などの報告もあり、異常性欲や精神障害と思われていた同性愛を意外に多くの人が経験していることを数字で示しました。

 キンゼイ報告には方法論への批判や、キンゼイその人のセクシュアリティーにからむ疑問点も出されていますが、その後もさまざまな影響を与えたことは想像にかたくありません。私も90年代に仲間とともにサンフランシスコを訪れたとき、市の教育委員会が学校で進める同性愛についての啓発教育「プロジェクト・テン」が、このキンゼイの10%という数字に由来するものだと聞いたことがあります。

行動や欲求で調べるか、アイデンティティーで調べるか

 さて、その後の米国での調査数値ですが――

 08年にシカゴ大学の研究センターによる調査では、自分をゲイだと考える男性は2.2%、バイセクシュアルだと考える男性は0.7%、レズビアンだと考える女性は2.7%、バイセクシュアルだと考える女性は1.9%でした。

 09年の、National Survey of Sexual Health and Behaiviorという調査では、ゲイ、レズビアン、あるいはバイセクシュアルとみなす割合は、男性では6.8%、女性では4.5%でした。私もこの数字の中をとって、同性愛・両性愛の人は人口の5%ぐらいと思ってきました。

 過去のキンゼイの調査が、性的欲求や実際の性行動の有無を聞いているのに対し、近年はアイデンティティーを問うていることも注目されます。

 日本では性行動や性的欲求を指標とした調査が、少数ながら報告されています。1981年の日本性教育協会の調査を除いて、いずれもエイズ疫学調査によるのが特徴です(藤澤ら1994、木原ら2000、塩野ら2009)。

 日本の成人男性におけるMSM(男性とセックスする男性)の割合を調べた2009年の調査では、20歳以上60歳未満の男性を対象として得た1659件の回答のうち、性交渉の相手が同性のみ、または同性と異性の両方と回答した割合は2.0%でした。

 トランスジェンダーについてはどうでしょう。トランスジェンダーのうち、性同一性障害との診断を得るレベルの人の発症率について、北海道文教大などのグループが生年別の比率調査の結果、札幌市内では約2800人に1人と推計できるとの研究を発表しました(2013年)。地域や生年で発症率は変わらないと考えられ、国内の総人口に当てはめると、全国では約4万6千人、人口比では0.0036%になります。

7.6%には、なにが含まれているか

 こうした数字に比べ、近年よく引用される「性的少数者は7.6%」は、比較的高い数字といえるようです(キンゼイの10%はおくとして)。

 これは電通ダイバーシティ・ラボが「LGBT調査2015」として発表したもの。大手広告代理店が出どころだけあって、記者も安心して記事に入れるようです。

 電通では2012年にも同様の調査で5.2%との数字を発表していましたが、3年を経て社会情勢にも変化があったことから再度調査を実施したとのこと。

 ただ、ウェブ上での調査レポートを読むと、身体的性別と性自認が一致し、性的指向が異性である、いわゆるストレート男性とストレート女性を除いたほかの人びとを「LGBT層」と規定し、該当者を7.6%としたものであることがわかります。

 この「層」というのが注意点で、かならずしもLとGとBとT、その合計が7.6%というわけではなさそう。LGBT層とは、男女の性別二元制や異性愛規範に違和感のある人の総体と見たほうがよいのかもしれません。

 実際、レポートにはL・G・B・T個別の割合や数値はありません。逆に2012年の調査では個々の割合が出ていて、L・G・BにくらべてTが全体の半数近くを占めていて驚いた記憶がありますが、それは性別二元制や異性愛規範に違和感のある人をみんなTとしたからなのでしょう。

 ここから「同性愛やトランスの人の数は、佐藤さんや田中さんなどを合わせた数よりも多い」と講演などで紹介するには、私はちょっと飛躍がある気がします。まあ、(当事者の)講演者としては、それぐらい身近な存在なんですよ、でも見えてないだけなんです(言えないだけなんです)、と訴えかけたい気持ちなのでしょうが……。

 LGBT「層」7.6%とは、学術調査とは異なり、基本的に広告代理店がマーケティング資料として出した数字であり、性別二元制や異性愛規範で割り切れない(取りこぼしている)消費ニーズを見積もる----しかも企業にアピール力があるようなるたけ額が大きくなるように出した数字であると思われ、その理解や引用には一定の留保が必要であろうと、私自身は考えています。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

虹色百話~性的マイノリティーへの招待の一覧を見る

3件 のコメント

7%だとしても…

なかむー

イケメンと添い遂げられる可能性は限りなくゼロ…

イケメンと添い遂げられる可能性は限りなくゼロ…

違反報告

人間の持つ性の多様性

KEN

日本、世界の性的マイノリテイの人口は約15~20%だと思います。人間は基本的に男性、女性となっていますが、現実は多様な性指向のグループに分かれて...

日本、世界の性的マイノリテイの人口は約15~20%だと思います。
人間は基本的に男性、女性となっていますが、現実は多様な性指向のグループに分かれていることが先進国を中心に発見されています。
外見は男性、女性ですが、ストレート、バイセクシアル、ゲイ、レスビアン、トランスジェンダー、性に興味がないグループなどに分かれているのです。多様性なグループがあることは異常ではなく、正常なのです。
今後、先進国を中心に性の多様性の指向は「異常」ではなく「正常」な人間の姿だと証明されるでしょう。日本も同性でも結婚しても問題のない時代がもうすぐ可能になると予想されます。
隣の人がストレート、バイセクシアル、ゲイ、レスビアン、トランスジェンダー、性に興味がないグループであっても全く問題がない時代がやってきます。
聖書で、結婚は男性と女性のみであると書かれていますが、大きな間違いです。早急に改革すべきです。


つづきを読む

違反報告

そもそも自認してない人が大半では?

カイカタ

このような調査の難点は、本当のことをいう人がどれだけいるかです。正直に答えて不利益を被りたいとは思えませんし、そもそも自認さえできない人が大半で...

このような調査の難点は、本当のことをいう人がどれだけいるかです。正直に答えて不利益を被りたいとは思えませんし、そもそも自認さえできない人が大半では。ありのままの自分でいられるほど社会が開けてはいません。その意味で無意味かと思われます。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

最新記事