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介護休業、分割取得可能に…厚労省見直し作業「離職」ゼロ目標

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仕事との両立、経済支援課題に

大成建設で定期的に開催されている「介護セミナー」。介護に直面する前から仕事との両立を考える(9月9日、東京・新宿の大成建設本社で)

 厚生労働省が介護休業制度の見直し作業を進めている。育児介護休業法を改正し、今はまとまって1回しか取れない介護休業を、分割して取れるようにすることが柱だ。

 2020年までに、家族らの介護を理由に離職する「介護離職」をゼロにするとした安倍政権の目玉政策の一つ。見直しの内容と課題を整理した。

 ■介護離職年10万人

 現在の介護休業制度は、配偶者や親などが病気やケガなどで2週間以上、常に介護が必要な状態になった際、1人につき最長93日のまとまった休みを取ることができる。ただ、同じ介護状態では、分けて取ることができない。このため、「大変な時期のために温存しておこう」と、利用を控えるケースも目立っていた。

 今回の見直しのポイントは、同じ状態でも、分割取得できるようにすることだ。取得できる回数について、同省は、「介護の始期、終期、その間の時期にそれぞれ1回程度」とする意向。例えば、認知症の親を介護する場合、現行では1回しか使えないが、「施設を探して入所する段階」、「自宅で最期を看取るみと段階」など、状況に応じて、休みを分けて取れるようになる。

 すでに法定を上回る取り組みをしている企業もある。三菱総合研究所が14年度に実施した調査では、調査に応じた629社のうち少なくとも33社(5・2%)は、複数回の取得を認めていた。大成建設は昨年4月、介護休業を家族1人につき通算180日まで延長し、連続でも、分割でも、半日単位でも取れるようにした。同社の塩入徹弥しおいりてつや・人材いきいき推進室長は「従業員から、長く柔軟に利用できるようにしてほしいという要望が強かった」と話す。

 同省が見直しを急ぐ背景には、高齢化と核家族化が進む中、介護を理由とした現役世代の離職が深刻なことがある。40~50歳代を中心に、「介護離職」を余儀なくされる人は年10万人近くに上る。働き盛りの離職は企業にとっても損失だ。介護休業を分割取得できた事業所では、できなかった事業所よりも離転職の割合が低いとの調査結果もあり、厚労省は今回、分割取得を可能にすることを軸に、見直しを進めることとした。

 同省はこのほか、〈1〉1日単位で休める介護休暇を延長したり、半日単位で取得できるようにしたりする〈2〉介護を終えるまで当事者の残業免除を企業に義務付ける――ことも併せて検討する。9月から労働政策審議会で見直しの議論をスタートさせており、年内に議論をまとめ、17年にも改正案を施行したい考えだ。

 ■取得率3.2%

 ただ、介護をしている雇用者のうち、介護休業を取得した割合はわずか3・2%(12年)。制度を使いやすくして離職を防ぐには、仕事の進め方の見直しや休業中の経済支援も課題だ。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの12年度の調査で、介護と両立している労働者の不安を聞いたところ、「自分の仕事を代わってくれる人がいない」(33・5%)がトップ。休業中は、原則として賃金の40%が雇用保険から支給されるが、「(休業で)収入が減る」(25・1%)との選択肢が2番目に多かった。

 一方、仕事との両立が図れるよう介護サービスの拡充も求められる。

 介護離職を経験した京都市の男性(65)は「仕事と両立ができるほど、施設や在宅サービスがなく、出口が見えなかった」と振り返る。05年4月、寝たきりで一人暮らしだった当時85歳の父を介護するため、介護休業を取得。1年で復職するつもりだったが、両立は難しく退職。介護は結局、7年近くに及んだ。

 介護は平均3年9か月に及ぶとの調査もある。93日という法定の休業期間の延長を求める声もあるが、厚労省は「介護休業はあくまでも介護の体制を整えるための期間」として、日数の見直しは行わない方針だ。

 仕事と家庭の両立制度に詳しい佐藤博樹・中央大ビジネススクール教授は「24時間対応の在宅サービスなど介護保険制度による環境整備も拡充すべきだ。中高年は介護を一人で抱え込む人も多い。社員が介護の課題を話しやすい職場作りを企業が進めることも必要」と話している。

 介護休業制度 1995年、育児介護休業法に盛り込まれた。勤め先に申請して、家族1人につき最長93日休める。これとは別に、ケアマネジャーと介護サービスの内容について話し合う場合など、1日単位で休める(家族1人につき年5日)介護休暇もある。

 (板垣茂良、石原毅人)

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