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コーダ(CODA)…「親を守る」「面倒」揺れる感情

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聞こえない親の聞こえる子供

J―CODAの定例会に集まったコーダたち。「コーダという言葉を知らずに悩むコーダもまだたくさんいる。輪を広げたい」と話す(東京都文京区で)

 耳の聞こえない親から生まれる子どもの9割が、聞こえる子どもとされる。こうした子どもは、「コーダ(CODA)」と呼ばれ、幼いながらも、「親を守ろう」と思うなどの特徴がある。

 「あごの動きがコーダだ!」

 9月中旬、東京都内で、コーダの当事者団体「J―CODA」の会合が開かれた。初めて参加した山本明珠花あすかさん(24)のあいさつに突っ込みが入り、笑いが起きた。

 コーダには、聞こえない親との生活から、自然と身に付くしぐさがある。山本さんのあごの微妙な動きも、聞こえない人の間でよく使われる表現だった。

 親子の会話は、手話や筆談、唇の動きを読み取るなど様々だ。じっと相手の顔を見つめたり、テーブルをたたいて人を呼んだり、目上の人でも指さしたりするなど聞こえる人には誤解されそうなしぐさもある。

 コーダはやがて、聞こえない親との生活では普通であるやりとりも、聞こえる世界では特別だと気づく。山本さんも、小学校に入学すると、「(周囲の人と)違うのは恥ずかしい」と、外では隠そうとした。

 親が記入する学校の連絡帳は、まず文章の下書きを見せてもらい、文法を確かめた。ろうの両親が間違えるのは仕方ないのに、「親を低くみられたくないし、守りたかった」と振り返る。

 東大バリアフリー支援室特任助教の中津真美さんが、13歳以上のコーダ約100人に行った調査では、「小さい頃から親を守る気持ちがあった」(72%)、「周囲に親をばかにするようなことはさせないと思ってきた」(61%)など、独特の親子関係が浮き彫りになった。関連する研究では、成長につれ、複雑な感情を持ちやすいこともわかった。

 背景には、コーダが担ってきた役割もあった。兄弟の有無や性別で程度の差はあるものの、幼い頃から親の通訳をする。青年期になると、「困っている親を助ける」責任感と、「面倒」「恥ずかしい」との感情の間で揺れるという。

 葛藤がなく育ったコーダも少数だが、いた。親から「障害や手話は恥ずかしくない」と説明を受け、周囲に理解者がいた。

 コーダとして育った中津さんは「病院の診察や重要な契約での高度な通訳を担い、疲弊することもある。周囲の大人は、手放しで『えらい』とほめず、年齢にそぐわぬ過度の負担がないか気を配ってほしい」と訴える。

 「J―CODA」は、当事者同士の交流に力をいれている。会長の村下佳秀さん(37)は「当事者同士なら、どんな体験も笑いにできるし、分かり合える」と話す。

 聞こえない親への支援も必要だ。我が子を守りたくても、言語や経験が異なり、「十分に子どもの相談に応じられない」「学校や親同士で交わす情報が得にくい」などの悩みがある。

 コーダに関する著書のある成蹊大准教授の渋谷智子さん(社会学)は「情報を届けたり、違いばかりが気になりがちなコーダに親の良い点を具体的に伝えたりするなど、周囲は、親が親としての役割を果たしやすくする協力ができると思う」と指摘する。(中島久美子)

 コーダ(CODA=Children Of Deaf Adults) 1980年代の米国で生まれた言葉。日本では94年に成人のコーダが初めて集まり、96年に「J―CODA」(メール j_coda_2011@yahoo.co.jp)が結成された。

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