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茂木健一郎のILOVE脳

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ドイツの温泉で「なんじゃ、こりゃあ!」

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 というわけで、前回、高校時代からの憧れの地、ドイツの黒い森を初めて訪れた、という話を書きました。


 この黒い森への旅には、実は、「おまけ」がついていたのであります。

 しかも、かなり特大の「おまけ」が。


 私たち日本人は、自然に深く親しむ、という気持ちを持っているわけであります。

 そして、ここで、独断と偏見が入るのですが、その「自然に親しむ」という気持ちのど真ん中に、実は、「温泉」がある、という事実があるわけであります。


 ああ、温泉。たかが温泉、されど温泉。火山の噴火や、地震などの自然災害の多い日本ですが、それに伴う「うれしいこと」として、温泉がある。

 そして、日本人の中には、「温泉」をどう楽しむか、という文化においては、世界一だという自負があるわけであります。


 誰が何と言っても、温泉のことは、私たち日本人が一番良く知っている!

 これは、今日のようなグローバル化した世界においても、日本人の肌に染み付いている、いわば「DNA」だと言うことができるでしょう。


 その日本人が、外国の温泉にどう向き合うか、ということは、グローバル化する時代における、実に深い命題の一つでしょう。


 そう、そのような思いを込めて、私は向かったのです。世界有数の温泉地の一つと言われている、バーデン=バーデンへと。


温泉地中の温泉地 

 黒い森から、平野へと降りていったところにあるバーデン=バーデン。名前からして、いかにもやる気に満ちていそうな温泉地ではありませんか!


 なにしろ、ドイツ語で「入浴する」という意味のある「バーデン」を、二度も重ねているわけですから。

 「入浴する、入浴する」って、二段重ね、そこまでしつこく言わなくてもいい、というくらいの、まさに温泉地中の温泉地なのであります。


 かつては、英国のビクトリア女王や、作曲家のブラームス、そして作家のドストエフスキーなど、数多くの著名人が滞在したというバーデン=バーデン。しかし、そこに赴くに至って、「温泉大国」日本の私は、基本的に油断していたのです。


 「まあ、入ってもいいし、入らなくてもいいな」くらいの気分でいたのです。


写真1
写真2

 以前、やはり温泉で知られるハンガリーのブダペストを訪れた時も、温泉を見ても入る気がなぜか起こりませんでした。「どうせ、温水プールみたいなものなんだろう」と思っていたのです。


 そう、海外の温泉は、日本的な情緒のある温泉というよりは、「温水プール」である。そんな思い込みのようなものが、私の中にあったようなのです。


 さっそく、バーデン=バーデンの街を歩きます。「なんか、立派な建物だけど、何に使うんだろう」と思いながら通り過ぎたところが(写真1)、後に、実は温泉を飲ませる施設だと判明したり、やはり、日本の温泉街とは、勝手が違います。


 さて、問題の温泉場。二種類あって、「フリードリッヒの湯」は、基本全裸。みんなが「スッポンポン」で歩いているようです。私は、「それではリラックスできない!」と即座に拒否し、もうひとつの「カラカラの湯」の方に向かいました。

 「カラカラの湯」は、水着を着て入るようなのです。それって、やっぱり、温水プールでは……。


 古くからの歴史があるという「カラカラの湯」ですが、日本の感覚からすると、やはり、どうみても「温水プール」です(写真2)。


 この時点でも、私は、「なんか、期待できないけど、温水プールにでも入ってみるか」程度の認識。売店で水着とタオルを買い(写真3)、いざ、「カラカラの湯」へと向かいました(写真4)。

写真3
 
写真4

 身体の中から何かがこみ上げてくる

 ここからは、写真撮影ができないので、言葉での報告となります。


 結論として、いやあ、驚きました!


 見た目は、やはり「温水プール」。そこで、ドイツ人たちが、水着を着て、ぼんやりとリラックスしています。

 館内の温水プールは、ビニールのひらひらのような仕切りで外にも続いていて、いわば日本で言う「露天風呂」、実際には屋外温水プールへと至ります。そこでも、外気に触れながら、ドイツ人たちがくつろいでいます。

 水温は、日本の温泉よりは低め。ぬるま湯程度の温度です。


 「やっぱり、これは、温水プールだよなあ」と思いながら歩いたり、座って空を見上げたりしているうちに、10分くらいった時でしょうか。そうです、「感じた」のです。

 水の力というか、肌が、なにかゾワゾワと刺激を受けている、そんな感じを。

 同時に、身体の中から、何か、泉のようにこんこんとこみ上げてくるものがありました。


 違う。単なる水じゃない! 

 この水には、何かが入っている!


 水を少し口に含んでみましたが、塩分を少し感じるだけで、わかりません。硫黄のようなものを感じることもありません。


 それでも、体中が、水から、何かを得ているということが、実感としてわかるのです。


 「なんじゃ、こりゃあ!」


 往年の名ドラマ、『太陽にほえろ!』のジーパン刑事、松田優作さんのセリフではありませんが、私は、バーデン=バーデンの「カラカラの湯」で、思わずそのように叫びたくなってしまったのです。


 いやあ、あれは、何だったのだろう?

写真5

 温泉を出た後の「お約束」のビールを飲みながら(写真5)、私は、しみじみと振り返っていました。


 バーデン=バーデンの温泉には、確かに何かがある。

 日本の温泉とは違うけれども、そこには、身体を芯から元気にする、何らかの成分が入っている!


 すっかり「カラカラの湯」という「温水プール」のとりこになってしまった私は、翌朝もまた出かけていって、ドイツ人たちといっしょに使って「はあ~」とめ息をついていました。


 いやあ、みなさん、世界は広いですねえ。温泉といっても、いろいろですねえ。

 ぜひ、機会があればお出かけください、バーデン=バーデン。あの水には、何か特別な力があります!

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茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)
脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。

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