茂木健一郎のILOVE脳
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青春のあこがれの地、52歳で訪問
突然ですが、みなさん!
ああ、青春!
たかが青春、されど青春!
青春時代というものは、何かにあこがれるものですよね。
私は、高校生の頃、やたらと「ドイツ」にあこがれていました。
ドイツ語の響きや、ドイツの文化、そしてかの国の自然に深いあこがれを抱いていたのです。
その中でも、心を
ドイツの南西部にある、バーデン=バルテンベルク州に広がる、トウヒの木からなる「黒い森」。
その深い森の中を、ドイツ人たちは、好んでハイキングするというではないですか。
高校の頃、ドイツというと、そのイメージは「森」でした。
特に、文豪、ゲーテの有名な詩に、深い森のイメージをかき立てられていました。
(特に意味もないのですが、この連載で初めて、ゲーテによるドイツ語の詩の原文を提示し、その後に、私の
Uber allen Gipfeln
Ist Ruh,
In allen Wipfeln
Spurest du
Kaum einen Hauch;
Die Vogelein schweigen im Walde.
Warte nur, balde
Ruhest du auch.
全ての頂の上に
平穏があり
全ての
君は、
空気のそよぎさえ感じない。
鳥たちもまた、森の中で沈黙する。
待て、しばし。
お前もまた、
高校の時、NHKのドイツ語講座のテクストから始まった私の拙いドイツ語理解の能力で、この詩を読みながら、最後の「待て、しばし。お前もまた、憩うのだ」というフレーズに、「おお、これぞドイツだ!」という思いを募らせていました。
いつか、行ってみたい。ドイツの深い森の中に。
かの有名な、「黒い森へと」。
52歳にして訪問が実現
先日、52歳にして、黒い森訪問が、ようやく実現いたしました。
「黒い森」にあこがれてから、三十数年の歳月が流れていたわけであります(ああ、人生!)。
向かったのは、黒い森地方のちょうど真ん中あたりにある、「トンバッハ」という、峡谷にある小さな街。
「トンバッハ」という看板を見ると、「おー、ついに黒い森に来た!」という感激がこみ上げてきます(写真1)。
さっそく、近くの森に入ると、まさに、そこは別世界(写真2)。
木々が高く生い茂り、昼間でも、
「この中を、ドイツ人たちは、どこまでも歩いていくのか!」
高校の頃に熱心に読んだ、「森の中をさまよい歩くドイツ人たち」のイメージが浮かんできます。
現代の「黒い森」は、ハイキングのためのさまざまな配慮が完備。
行き先別に、距離が示された詳細な案内板を見ていると、いろいろと妄想が膨らんできます(写真3)。
さあ、どこまで歩いていこうか。いや、走っていこうか!
さっそく、着替えて(写真4)、森の中を走り始めました。
いやあ、気持ちがいい!
トンバッハの峡谷の中を、清流が流れていて、黒い森は、その両側に広がっています。
非常に賢いな、と思ったのが、地域の活用法。
もともと、黒い森のトウヒは、植林されたもので、現在でも林業としての利用が行われているようです。
植林された森を手入れするためには、余計な木々を切ったりする「間伐」が不可欠。
間伐された木でしょうか、至るところに、
「走る哲学者」になる
本当に気持ちの良い風景の中を走りながら、私は考えました。
高校の頃、黒い森、というと、ロマンティックなイメージだった。
しかし、実際に来てみると、もちろん、現地の方々の生活と深く結びついている。
黒い森の美しさを保つためには、その木材の活用という経済活動との調和が、欠かせない。
実際、ハイキングコースの歩道と並行して走る道路は、「林道」として整備されているようである。
そのような「林業」の活動がなければ、そもそも、黒い森の中のハイキングコースを、これほど長い距離にわたって維持管理することは不可能だろう。
人間と自然の調和という、古くて新しい課題。
「黒い森」は、ドイツ人らしい合理性と、勤勉によって、そのあたりの問題を見事に解決している。
自然保護一辺倒でもなく、だからと言って経済優先でもなく。
黒い森の美しい景観は、まさに、日本で言えば「里山」のような、人と自然の調和の、その結果なのだ!
黒い森の中を走りながら、私はそのようなことを考えていたのです。
まさに、「走る哲学者」?
笑(自分で言うな!)。
やはり、現地に行って、
ひるがえって、果たして日本の美しい山々、その中での人々と自然の関係はどうなっているのか? 黒い森のように、うまく自然と経済活動の調和が図られているのか、と気になったのです。
日本全国で森林管理、自然保護などに関わっているみなさん、もし機会があったら、ぜひ、ドイツの「黒い森」を訪れてみてください。
ここ、日本でも参考になるヒントがたくさん隠されているように思います!
走り終わったあとは、お約束のドイツビール!
だが、その前に、山並みの美しい日暮れを見ます。(写真6)
稜線のシルエットを眺めていると、遠い青春の日々、「黒い森」にあこがれていた頃のことがよみがえってくるのです。
ああ、黒い森よ、ゲーテよ、ドイツ語の響きよ!
青春よ、ありがとう、そして、青春よ、いつまでも!
さあ、私は、明日もまた、走る哲学者になるぞ!
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